第15話

「ようこそ」


二人を出迎え中に案内する。

座った二人に飲み物を出す。


「気が利くな!」


店長が言う。

早速キュイをケージから出す。


「久しぶりだなーキュイ」


店長が抱えるとキュイは不思議そうな顔をしている。


「もう忘れられてるのよ。こんなもじゃもじゃ」


「こんなもじゃもじゃ忘れねえだろ!」


自分で言うんだ。


「そういう自分はキュイに嫌われてんだろ?」


得意げな店長。


「今日は秘密兵器があるもん」


そう言って美帆は鞄から2つの人形を取り出した。

一つは青色でツギハギ模様のテディベアもう一つは黄色いアヒル人形。


「これ!可愛いでしょ!」


自慢気にそういった。


「これで遊んでいいでしょ?」


「いいよ」


許可をとると早速キュイの下へ持っていく。


「まずはこっち」


黄色いアヒルを手にとってキュイの前で振る。


「ほらほら〜」


アヒルを押すとブゥーと音が鳴った。

キュイの目が輝いた。

店長の手の中から抜け出してアヒルに飛びつく。


「やった!」


美帆は喜んだ。


キュイを膝の上にのせてアヒルの音を出す。

キュイは容赦なくアヒルに噛みついた。

キュイの力では音が出るほどアヒルを凹ませることはできない。


「ウウウー」


噛みついたまま鳴いている。


「ちょっと、痛いよ」


頭を振ってバンバンと美帆の膝に叩きつけている。


「やっぱ嫌われてんじゃん!」


「違うよ!」


投げたのか滑ったのかアヒルが飛んでいった。

転がったアヒルを取ろうと美帆が手を伸ばすとその隙にスルリと膝から降りる。


「待って待って」


慌ててテディベアをキュイに見せる。

床に足をつかせ歩かせるようにしてキュイに近づける。

テディベアの手を持ってキュイを撫でる。

その瞬間だった。


「「反則…」」


キュイを見ていた3人は声を揃えた。

テディベアに撫でられたキュイはテディベアを…


抱きしめた。


首に腕を回しぎゅっとした。

この子にはそんなつもりはないのかもしれない。

それでも見守る3人の心を奪うには十分だった。


「見たか?今の」


「見た見た!今のは悶絶」


「バッチリ撮れた。あ、待ってブレてる」


慌ててもう一度カメラを構える。

なんとか間に合って写真に収められた。


「後で送るね」


理人の言葉に二人は頷いた。


「そろそろこっちにおいで」


店長がキュイを呼ぶ。

そっちに向かおうとするがテディベアも捨てがたい。

迷う姿も可愛らしい。

悩んだ結果、器用に手を使って引きずって連れてきた。

店長はまとめて抱き上げ、遊び始める。


その隙に理人はおやつを準備しにキッチンへ向かう。

今日もりんごだ。

キュイ用と人用を別皿に準備して持って行く。


「はい、おやつ」


二人は夢中になってキュイと遊んでいる。

おもちゃを使って、身体を使ってキュイと遊ぶ。

気になった。

キュイが店長に向かって口を開けている。


(なんだろう?)


威嚇とも違う。

ただ口を開けているだけに見えるが何かしら意図がありそうに見える。

気になるが今までそんな仕草を見たことがない。


(こう、あーって口を開けて…)


理人は二人に見えないところでキュイの真似をする。


(あー、って何かを吐き出すみたい?)


「さっきからこの子、店長が抱えると口を開けるね」


「そうか?気づかなかったけど」


「ほら、こうやって抱えあげると」


よく見ると店長の頭に向かって口を開けている。


「なんだろうね?」


二人が首をかしげている。


ふいに、点と点が線で繋がる。


「店長のもじゃもじゃを燃やそうとしてるんだよ」


「なんだそれ。火でも出すのか?」


「今は無理だけどいずれはね」


「え?」


「え?」


「キュイはサラマンダーだから大人になれば火を吐くよ?」


「そうか…、キュイはサラマンダーだったな」


「ねえ、理人くん。キュイが大人になって火を吐くようになったっても大丈夫なの?」


心臓がドキリと跳ねる。


「大丈夫って?」


「その、いろんなものを燃やしちゃったりしないの?」


「するかもしれない。だから大人になったら一緒には暮らせない」


ええ!

二人が声を揃えて驚く。


「じゃ、じゃああとどれくらい一緒に暮らせるんだよ?」


「一年」


思わず声が震えた。

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