第14話

パソコンの前に座ってメールを確認する。

『落選』

その文字だけを確認してメールを閉じる。


(駄目だったか…)


不思議と悔しさや悲しさは感じなかった。

ただなんとなく机の上を片付け始めた。


ノート、紙、ファイル。

中を見ればどれもが思いついた設定を書き溜めたものや下書き。

宝物になると思っていたゴミの山。

パラパラと捲っていくと2ページほどだけ使って後は白紙のノートが1冊見つかった。

そのノートをよけて他を片付けた。


気分転換に向かう。

台所に行って飲み物を取る。

それからケージの前に行って中を覗く。

水を飲んでいる。

飲み終わるのを見計らってケージを開ける。


乗り気じゃない、そんな風に見えたが手を出すとのってくれた。

キュイを連れてソファへ。


座ってスマートフォンを見るとメッセージが来ていた。

読むだけ読んでスマートフォンを置く。


キュイを撫でる。

眠たそうにしながらも大人しく撫でられていた。


天井を見つめ、口も目も半開きでゆっくりとふわふわを撫でる。

不意に手の中で動く。

驚いて目をやるとくわっ、と大口を開いて欠伸をしていた。


「眠くなちゃった?」


そう言いながらケージに戻す。

律儀に寝床に戻っていく。


ソファに戻って寝転がる。

身体の下敷きになったスマートフォンを引っ張り出す。


(あと1年…)


不意に思い浮かんだ。

ずっと、忘れようとしても頭の中で渦巻いて胸の内に巣食っている。


メッセージを読み直す。


美帆と店長、内容はまた遊びに来たいらしい。

いいよ、と簡単に返信する。


(二人はあと何回キュイと会えるんだろう)


気にもしたことがなかったがそんなことまで思い浮かんだ。


(二人には言ったんだっけ?)


キュイと一緒にいられるのは成体になるまでの2年だけだって。


写真フォルダを開く。

白いもこもこの写真が並んでいる。

こんなに撮ったっけ?

そう思いながら一枚一枚見ていく。


食べてるキュイ。

寝てるキュイ。

遊ぶキュイ。


なんとなく覚えている写真。


手の上に乗るキュイ。

手の上で丸くなるキュイ。

膝の上に乗るキュイ。


なんで撮ったんだろうと思う写真。

こう見るとなんの写真かわからないものの方が多い。

キュイが写ってる、それ以外言いようがない写真たちだ。


遡っていくとダンボールの中で丸々キュイの写真がでてきた。


ずいぶんと昔のことのように思う。


(こう見ると小さかったんだな)


今の写真と拾ったばかりの頃の写真を見比べる。


どっちも可愛く思うが最近はちょっとだけ凛々しくなった気がする。


(あれ?)


ふと、気になる。

何度も見返す。


(やっぱりだ!)


口の回りの毛が薄くなって唇のようになっている。

何度見返しても間違いない。

慌ててケージの中を覗く。

キュイは見えなかった。


気づいた瞬間から裂けたように胸が痛んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る