第11話 検診
「はい、お疲れ様でした」
くるぶし動物病院での検診が終わった。
「特に異常はありませんでした。すくすくと育ったってますよ」
よかった、と一安心する。
「どうです?一緒に暮らし始めてから何か困ったこととかありませんか?」
「手探りで頑張ってます」
困ったこと、と言われて考える。
困っているといえば困っているがなんとかなってはいる。
「えーと、最近りんごをおやつにあげているんですがどれくらいならあげていいんですか?あと他の果物もあげていいんですか?」
「そうですね…」
先生は少し考える。
「あげる果物は一般に流通しているものなら大丈夫そうです。元々、野菜や果物はなんでも食べるようですよ。向こうではこっちで言うココナッツみたいなものをバリバリと食べているみたいです。もちろん成体になった後の話ですが。しかしあまり変わったものは万が一があるので避ける方がいいでしょう。そして量は様子を見ながら与えてください。明確にこれだけと言うのは難しいですが前回より体と大きくなりましたので少し増やしても大丈夫だと思います」
「わかりました」
ならりんご以外も買ってみようか。
旬の物の方が安くも手に入るだろう。
「あ、もう一つ。最近、キュイと遊んでいると爪が痛いのですがどう手入れしたらいいでしょうか?」
「動物用の爪やすりで削ってみてはどうでしょう。まだ小さくて爪切りでは危なそうですので」
(爪やすり、と)
頭の中の買い物メモに書き足す。
先生がおもむろにキュイを抱き上げた。
「一緒に暮らし始めてどのくらい経ちましたか?」
「えっと4ヶ月くらいです」
「そうですか」
キュイの頭を撫でる。
「大きくなりましたね。育て方が良いのでしょう。もう1歳くらいの大きさです」
(え?)
「ほら、しっぽの先を見てください。毛が抜けて来ているでしょう」
(え?)
「でもまだ4ヶ月ですよ?」
「そう…なのですが、おそらく拾われた時が生後3、4ヶ月くらいだったのでしょう。それから4ヶ月たって生後8ヶ月くらい。成長が早いので生後1年くらいの成長でしょう」
優しげな笑顔、ほんの僅かに寂しさが滲んだ。
「あなたが一生懸命にお世話をしてくれているからですよ」
それからは半分くらい覚えていない。
気づけば帰路についていた。
1歳。
一緒にいられるのは産まれてからの2年間。
それならあと1年しかないの?
この前出会ったばっかりだよ?
『あなたが一生懸命にお世話をしてくれているからですよ』
そんな言い方しなくてもいいじゃん。
そのせいで一緒にいられる時間が減るって。
わかってる。
悪い意味で言ってないって。
残酷な話だ。
どうするのが正しいの?
ちゃんと世話しなかったらもっと一緒にいられるの?
たまたま拾っただけだけどさ、
あと一年なんて短すぎるよ。
まだなんにもわかんないよ?
知らないことだらけだよ?
(ねえキュイ)
これ以上大きくならないでよ。
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