第12話
(もうこんな時間か…)
妙に集中してしまった。
気づくと急にお腹が減ってくる。
(しまった。キュイにご飯あげてない…)
慌てて準備に向かう。
今日はレタスと梨。
(起きてる?)
近づくと待ってましたと言わんばかりに寄ってくる。
「ごめんねー」
ケージから出して撫でる。
素直に出てくる。
いいからご飯!
そんな感じた。
胡座をかいて座り、足の上にキュイをのせる。
レタスを千切ってあげる。
いつも通りに食べ始める。
(爪がチクチクする…)
スマートフォンで爪やすりを探す。
(これにしよう)
カートに入れると他のおすすめ商品がピックアップされて表示される。
(ねこじゃらし?おもちゃか)
おもちゃ、この子は遊ぶのだろうか?
そう考えているとお腹の辺りの服が引っ張られる。
「食べ終わった?」
レタスは食べ終えたようだ。
まだ足りない、と次を要求する。
(もう少し増やした方がいいのかな?)
とりあえずは梨をあげる。
嬉しそうに食いつく、そして首をかしげる。
思ってたのと違う。
そんな感じだろうか。
「今日は梨だよ」
気にいったのか気に入らないのか首を傾げたまま食べ続ける。
(もういらない?)
もう一切れ差し出す。
両手で指を押さえつけられる。
(結構好きみたい)
食べ終えるまでその姿を眺めていた。
満足したのか戯れてくる。
気まぐれに目の前で指をくるくる回してみる。
目で追いかけている。
狙いを定めて飛びつく。
(これならおもちゃでも遊んでくれるかな?)
スマートフォンを取っていくつかおもちゃを購入する。
明日夜配達。
急に明日が楽しみになる。
「ちょっとキュイ」
油断した。
袖から中に入ってきた。
今日の長袖ティーシャツはサイズを間違えて買ったぶかぶかの部屋着だ。
するりと袖から侵入し、手首から肘の間でハンモックのように収まった。
「ほらほら出てきて」
服の上から擦る。
駄目みたい。
動く気がない。
袖を捲って引っ張り出そうとする。
「え?登っていくの?」
肩の方に向かう。
どうにでもなれと腕をあげて中を進ませる。
わきの下辺りからするりとお腹の方へ抜ける。
服を捲ってキュイと対面する。
楽しそう。
目を輝かせて出てきた。
「待って待って」
袖を捲って2周目を防ぐ。
不満気なキュイに噛みつかれる。
(トンネルみたいなおもちゃも買おう)
そう決めて2周目に付き合った。
スマートフォンが鳴る。
目を覚ますとアラームが鳴っている。
しまった。
昨日、キュイをケージに戻したあとずっと眺めてしまった。
気づけば眠っていた。
慌てて着替えてバイトに向かう。
なんとか出勤時間には間に合ったがギリギリだった。
仕事を始める時間には遅れてしまった。
遅いぞ、と店長に窘められるがキュイのお世話と言って許しを貰う。
やっぱり申し訳ないので今日は進んで雑用を引き受ける。
帰ったらおもちゃが届いてるそう思うと頑張れた。
バイトが終わり、逸る気持ちを抑えながら帰宅する。
しかし、自宅が見えるあたりには早歩きになっていた。
あった!
玄関前に長方形の箱が置いてある。
箱を拾い上げて中に入る。
夕食の準備もせずに荷物を開ける。
爪やすり、ねこじゃらし、ゴムボール。
ご飯を食べ終えたキュイの前におもちゃを出す。
まずはねこじゃらしを開ける。
何かを察したのか期待した目でこっちをみている。
「ほら、どう?」
目の前で振ってみる。
目で追いかけている。
ちょっとゆっくり振ってみる。
手で掴もうとしている。
「ほらほら」
少し離すと、てててと追いかけてくる。
もう一回。
また、てててと追いかけてくる。
可愛い。
そう思った瞬間、ねこじゃらしの先の部分に噛みつかれた。
驚いて引っ張る。
折れた。
ねこじゃらしの飾り部分が取れた。
キュイが飾りを咥えて走っていってしまう。
「待って!返して!もぐもぐしないで食べ物じゃないから!」
慌てて追いかける。
嬉しそうに振り回すキュイを捕まえて飾りを引っ張る。
ガッチリと咥えている。
上に引っ張る。
離さない。
前足が宙に浮く。
離さない。
二足歩行になる。
急に離す。
受け止めようと手を出す。
「キュッ!」
怒った。
噛まれた。
過去一の痛み。
「ごめん、ごめんっば!」
撫でようとするとまた噛まれそうになる。
どうしよう。
ぷいっと向きを変えて走り去る。
行き先は今日の荷物の長方形の空き箱。
するりと収まる。
そんなところに、と思ったがダラリとして満足そう。
しばらく見守る。
中からカリカリと引っ掻く音が聞こえる。
そっと覗く。
「出たいの?」
外からテープを切って蓋を開ける。
勢いよく飛び出したキュイはくるっと回ってその勢いのまま箱に戻る。
反対も引っ掻く。
荷物を取り出す時にあけた横の蓋を閉じてテープで止める。
それから引っ掻いている反対側も開ける。
トンネルのようになった。
「キュキュウ!」
嬉しそうに箱に出入りしている。
ぐるぐる何周もしたり、顔だけ出して戻ったりしている。
(喜んでくれた…)
楽しそうに走り回るキュイを見ながら横に寝転んだ。
一気に眠気が襲ってくる。
(寝ちゃ駄目だ…)
そう思ってゆっくり起き上がる。
(なんでだろう?)
空き箱で遊ぶ楽しそうなキュイ。
折れたねこじゃらし。
遠くで転がるゴムボール。
(なんだか釈然としない…)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます