第10話 来客
「お邪魔しまーす」
ソワソワしながら2人の来客が来た。
「あんまり暴れないでね」
そういうと2人は頷いた。
「はいこれ、お土産」
袋を渡される。
中にはりんごがたくさん入っている。
「こんなにたくさん。ありがとう」
「それより早く会わせて!」
はいはい、と言って2人をケージの前まで連れて行く。
「キュイ。りんごだよ。あとお客さんも」
寝床からひょっこりと顔を出す。
「「うわぁー」」
2人が声を揃えた。
「ちょっと見てて。りんご切ってくる」
客よりキュイを優先する。
りんごを切って戻るとスマートフォンを向けキュイの写真を撮っていた。
「これ!可愛くない?」
「いやいや、こっちの方が可愛いだろ」
今度は撮った写真の見せあいだ。
「ここ置いとくね」
人用に切ったりんごを机に置いておく。
「ねえねえ!触ってもいい?」
いいと思うよ。
そう言ってケージを開ける。
「まずはおやつだね」
手のひらに乗せ、ケージから出す。
りんごの存在に気づいたようだ。
手の匂いを嗅いでいる。
「はい、お待ちかねのやつだよ」
りんごを一切れ差し出す。
両手を手繰り寄せる用に動かしてりんごに食いつく。
可愛い、誰かが声を漏らした。
キュイは指にしがみついてりんごを食べている。
あっと言う間に食べ終えて手のひらの上を探す。
もうないの?そんな風に言ってそうだ。
「あげてみる?」
2人に聞くと頷く。
「あんまりあげ過ぎないでね」
先に店長がりんごを手に取った。
「ほら、キュイ。りんごだぞー」
りんごの誘惑はすごいらしい。
店長の腕に飛びついた。
「うお、結構重いな」
するするとりんごの元へ向かっていく。
「ふわふわだ…」
キュイを撫でた店長が言う。
食べ終わったキュイは店長の手のひらに身体を擦り付ける。
「可愛いな」
店長に撫でられる間、指を舐めていた。
「くすぐったいなー。もう一つ食うか?」
キュイのテンションがもう一つ上がる。
その勢いで店長の胸に飛び込んだ。
「こらこら危ないぞ」
「キュウ!」
首元まで登っていった。
「ねえ、私にも代わってよ」
耐えられなくなった美帆が口を挟む。
「待て待て。ほら、りんごだぞー」
「キュウキュウ」
りんごにかぶりつく。
食べ終わるとすぐに店長の胸に飛び込む。
グルグリと身体を擦り付けている。
「ほら、こっちにおいでー」
美帆がりんごでキュイを誘う。
「キュキュウ!」
聞こえていないのか店長に戯れている。
美帆が目の前にりんごを差し出す。
「ほらほらおいでー」
片手で美帆の指を掴み、りんごをパクりと食べた。
すぐに店長の元へ戻る。
「なんか冷たくない?」
「キュイは俺の方がいいもんなー」
「キュウキュウ」
キュイは店長に懐いたようだ。
「痛い!つねるな!わかったから!」
キュイは美帆の手に渡る。
「ほらほら、キュイちゃん。こっちで遊びましょう」
大人しく撫でられているがどこか不満気にみえる。
しばらく撫でられていたが
もういいか?
そんな様子で腕から逃げようとする。
「キュイ、戻ってくるか?」
店長が手を出すとするすると戻って行く。
「なんで…」
美帆は悲痛な声をあげる。
「キュイ、疲れたかー?」
「キュキュウ!」
元気を取り戻す。
「お、まだ遊ぶかー」
キュイはまた店長に身体を擦り付けている。
「こんなアフロの雇われの何がいいの…」
「お前、聞こえてるぞ」
悲痛な表情のせいか店長はそれ以上何も言わなかった。
「ほら、あっちで遊んでおいでー」
掴まれたキュイは手の中から逃げようとする。
「どうした?嫌か?」
「キュウ!キュウ!」
美帆はお気に召さないようだ。
「ズルい!」
「そんなこといわれても…。ま、まあそう言う日もあるよな?理人」
店長が理人に話を振った。
「こんなにキュイが鳴くの見たことない…」
「お前もか!」
理人はキュイ用に切ったりんごを食べていた。
「しっかりしろ!それキュイのだろ!」
「キュイ、そんなのがいいの?」
「お前も失礼だな」
それからもしばらく、キュイは店長から離れなかった。
その分後日、理人と美帆は店長に冷たくした。
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