間話 理人の話
理人は机に向かっていた。
(もう2ヶ月もない…)
机の前の原稿に理人は項垂れていた。
(なんか違うような…)
意気揚々と描き始めたが1ページ目を描き終える辺りで失速してしまう。
いつものこと、よくあることだ。
悩みながら2ページ目を描く。
違う。
面白くない。
天啓が降りたはずの快作は2ページ目にして崩れ去る。
(設定はいいと思うんだけどなあ)
弄くり回してツギハギだらけのストーリーと設定は動くこともままならないほどボロボロになっていた。
描いて醒めて消して。
何も残らない。
悩んで混ぜて産んで。
どれもつまらない。
嫌になる。
嫌になった。
なにをしていても頭の隅にチラつくのだ。
すかさず天使と悪魔が待ってましたと言わんばかりにやってくる。
『努力は裏切らないの。だから頑張らないと。でも、疲れたなら少し休んでもいいのよ』
『才能ないよお前。とっとと辞めちまえ。地面這いつくばってるのがお似合いだぜ』
天使は優しさと理想で奮い立たせようとする。
悪魔は冷酷さと現実で心を折ろうとする。
奴らは等しく敵なのだ。
対立しているように見せかけて第三の折衷案を暗に示す。
甘くて楽な第三の道。
その毒で身体を蝕む気なのだ。
先延ばしこそ奴らの目的。
それも仕方のないこと。
悩む人がいなければ奴らも失業してしまうのだから。
成功者は常に奴らを黙らせてきた。
どちらの道も否定して愚かだと思われる茨の道をご自慢の武器で切り開く狂人か超人の類。
残念ながら自分には武器がなかった。
度胸もなかった。
武器を持たずに茨の道を進むのは無謀であり愚行だ。
それをちゃんと知っている。
知っているから奴らの餌食になる。
耳元で囁かれた甘美な猛毒を自分で見つけた蜘蛛の糸だと信じて疑わないのだ。
本当に…。
ふと、目をやった時計は既に日付が変わってから二週ほど回っていた。
煮詰まった。
そう思って立ち上がる。
真っ暗なリビングを灯りをつけずに進む。
ケージの中をそっと覗く。
よく見えない。
でもそこにはキュイが丸くなって眠っている気がした。
(おやすみ)
口には出さずに伝えると理人は眠りにつく準備をし始めた。
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