第6話 現行犯


朝起きて自分とキュイの食事を用意するのが日課になった。

加えて毎日ソファで寝てしまっている。

ケージなんかを揃えたらベッドで寝られるだろうか。

キュイの今日のご飯はキャベツだ。

葉を一枚取って細長く切ってやる。

当然硬そうな芯の部分は切り落とす。

ガサガサと音がし始めた。

キュイも目覚めたようだ。

様子を見に行く。


暴れてる?


そう思ってそっと覗く。

タオルを噛んで上下左右に降る。

また別の所を噛んでは上下左右に降る。


(何してんだろう)


しばらく様子を見る。

タオルが少しずつダンボールの角によっていく。

それからも何度か繰り返すと山のようになった。

そのうえにキュイが乗ると天辺はダンボールの角に倒れていく。


(まさか?)


タオルの山を登る。

その勢いのまま壁を登り、まんまとダンボールの縁に手をかける。

そのままよじ登ってダンボールから顔を出す。

馴れた様子でダンボールか降りて外に出ようとしたところで捕まえた。


(こうやって逃げてたのね)


キュイはバタバタと暴れている。

さらには指を噛もうと口を動かしている。


「キュイ。逃げ出しちゃ駄目でしょ」


「キュキュウ!」


抗議するように鳴いている。


「そういう悪い子にはこうだからね」


キャベツの葉の代わりに芯を与えようとしてみた。

いつも通りにパクリと食いつく。

ピタリと動きを止め、いつもは真っ直ぐな視線が少しずつ下っていく。

がっくりと言うほかないほどゆっくり顔が下を向いていく。


「ご、ごめん。」


もしゃもしゃとキャベツの芯を食べようとし始めた。


「ごめんてば、こっち食べていいから」


あまりにしょんぼりするせいで申し訳なくなってしまった。

慌てて葉を与える。

キュイはじっとこっちを見ている。

ホントにいいの?

そんな風に言っているように見えてしまう。


「本当に悪かったよ。食べていいから」


頭を撫でるとゆっくりおずおずとキャベツの葉を食べ始めた。


(おかしいな。キュイが逃げ出すのが悪いはずなのに)


とにかくもう芯は与えないと決めた。


自分とキュイの食事を終え、出かける支度する。

今日は夕方からバイト。

それまでにペットショップで色々と見たい。

いいものがあればすぐに買えるよう手元にあるお金、今月分の食費を全て財布にいれる。


大きい方がいいだろう。

近くの小さなペットショップではなくホームセンターの中に入っているペットショップへと向かった。

店が大きければ物の在庫は多いだろう。

それくらいの考えだ。

店について店内を一周する。

色々置いてはあるがなにがいいかはわからない

時間もない

スタッフを探して聞くことにする


「すみません。ケージとか色々買いたいんですが」


「はーい。どんな子のでしょう?」


「サラマンダーです」


「サラマンダー…?」


明らかにスタッフは戸惑っている


「この子です」


写真を見せる


「なる…ほど…」


思っていたのとは違う反応。

さすがはプロだ


「ちょっと店長に相談してみます」


そう言って人を呼びにいく。


「お待たせしました。えっと、サラマンダーですか?」


「はい」


「すみません。サラマンダーを扱うのは初めてなもので。どういったものをお探しですか?爬虫類用でしょうか?」


爬虫類。

犬や猫のケージを想像していたが一番近いのは爬虫類なのか。


「爬虫類用だとどんなのがありますか?」


「この辺りのガラスのものになりますね」


カメレオンとかがこういうのに入ってるのは見たことある。


「前に病院へ連れて行くのにあんなようなプラスチックのものに入れたら暴れちゃって。大丈夫でしょうか」


似たような形のものを指さしながら説明する。


「どうでしょう…暴れた理由がわからないとなんとも言えないところですねー」


うーん、と2人で悩む。


「ちょっと検索してみます」


他に飼ってる人いないのかな、と思って検索してみるとブログ、写真、動画、いくつか見つかった。


「どうです?」


「…みんな専用の部屋で飼ってます」


そういえばそもそもお高いものだった。


そうですか、とまた悩む。


「写真とかありますか?」


ありますよ、と言って写真を見せる。


「なるほど、大きさはどのくらいですか?」


「手のひらに乗せてはみ出るくらいです」


「なら、うさぎ用のはどうでしょう?その大きさなら隙間から逃げることもないでしょうから」


納得はする。

しかし、正解なのだろうか?


「正直に申し上げればウチでは手探りになってしまいます。一度ご購入されたお店に相談されてはいかがですか?」


「実はこの子拾ったんです」


「拾ったんですか?」


「拾ったんです」


「いるんですか…」


「どっかから逃げ出したんじゃないかって。獣医さんに相談に乗ってもらいながら飼おうとしてるんです」


それから結局スタッフたちと相談しながら決めていった。

何も知らない自分一人で決めるよりスムーズだった。

ケージ、給水器、寝床、掃除用具辺りを揃えた辺りで財布の中身は空になってしまった。

ものに寄っては返品させてくれるそうなのでここで買うことに決めた。


「ありがとうございました。出来ることはご協力しますのでまた来てください」


こちらこそありがとうございます、と言うと


「いやーにしても白くてふわふわで可愛かったですね!」


ショップの店長とスタッフが可愛かったと口々に言う。


(でしょー!!)


ちょっとだけドヤ顔が出た。

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