第4話 病院

病院につく。

名前は『くるぶし動物病院』

受付をしてすぐに中に通される。


「今日は…サラマンダーのキュイくん?どうしましたか?」


40代くらいの優しそうな人がそう訪ねてきた。


「実は雨の中この子を拾いまして。今は元気そうなんですが一応診てもらいたくて」


「雨の中?!それは大変でしたね。それにしてもサラマンダーとは珍しい。幻想動物はまだまだ数が少ないからね。今日は健康診断でいいのかな?」


「はい。お願いします」


わかりました、と言ってカルテのようなものに何かを書き始める。


「よし!では奥へどうぞ。先生がお待ちです」


「はい。ありがとうございます」


じゃあねー、とキュイに手を振るあなたは何者だったの?


「こんにちは!私がくるぶしです。どうぞこちらへ」


そう言うと理人は椅子へ、キュイは施術ベッドのようなところへ。


「元気そうですね。雨の中拾われたとか」


「はい。弱っていたので温めてミルクと野菜をあげました」


「ミルクですか。この子たちは哺乳類ではないのでミルクはお腹を壊すかもしれないのでお水にしてあげてください」


「あ、はい。わかりました」


「ではすぐに検査していきましょう」


理人は部屋の外に出される。

ガラス越しにキュイの姿を見ることができた。


めっちゃ不安。


ハラハラして、見ていられなくなって座って待つことにした。

手に汗握って待つこと30分。

終わったと言われて部屋の中に戻る。


「この子はオスでしたね。なのでキュイくんですね。体は何も問題ありませんでしたが念の為寄生虫を殺すお薬だけ飲んでもらいました」


「よかったです。ありがとうごさいました」


「それで、保健所かどこかには届けられましたか?」


「いえ、あの…ここまま飼うのは駄目でしょうか?」


うーん、とくるぶしは唸る。

資料を持ってきてパラパラと捲る。


「保健所には届けた方がいいでしょう。元々どこかで飼われていたものが逃げ出したのでしょうから。探しているかもしれません」


(あ…そっか)


キュイは幻想世界の生き物。

当然、誰かに買われてこっちに来たのだ。

元の飼い主がいてきっと探しているはずだ。


(なんで気づかなかったんだろう)


なんだか情けなくなってくる。


「飼いたいというなら大丈夫だと思いますよ。100%とは言えませんが95%くらいは。探されていないでしょうから」


「え?どうしてですか?」


いなくなったら探すだろう。

それにサラマンダーは高いはずだ。


「それはそうでしょう。だって…」


くるぶし先生の目つきが鋭くなる。


「届けを出したらその場で捕まりますから」


「え?」


「ご存知なかったですか?幻想世界の生き物を飼うことは違法ではありませんが逃がすことは犯罪です。故意でも不注意でもね。懲役3年もしくは600万円以下の罰金だったかな?」


「重い…」


「難しい話です。法律のジレンマとでも言えるのかな。幻想動物はこっちの世界ではあまりに異質ですから。厳罰化して飼い主に責任感を持たせなくては逃げ出した時に他国からの外来種問題とは比にならないほどの影響が出るでしょうから。しかし、そのせいで逃げてしまっても届け出を出すとその時点で逮捕です。だから誰も届けを出さないし見つかっても名乗り出ない。おまけに逃がしたってバレたら捕まるからね。表立って探せないんだよ」


「なる…ほど…」


なんだか歯がゆい難しそうな問題だ。


「とにかく一度保健所に届けてその時に飼い主が名乗り出なければ自分が飼いたいと伝えてください。おそらくそのままあなたが保護することになると思います。それから警察にも。拾ったことと保健所での話を伝えて、本当に飼うことになればあらためて手続きをすることになると思います。」


「わかりました」


不安でいっぱいです。


「それと…あなたと暮らすこととなる前提のお話ですが、サラマンダーと一緒に暮らせるのは成体となるまでの約2年間のみ。それ以降は動物園などに保護してもらうかもしくは幻想世界の自然に帰すかです。一応耐火性基準を満たす建物を作って一緒に暮らし続ける選択肢もありますが…それなりのお金持ちにしか難しいでしょう」


「はい…」


「ですがそれはその時に考えましょう!今はとにかくこの子との思い出をたくさん作ってください!」


そうだ。

今自分にできることはそれだ。


「はい!そうします」


「何か困ったことがあればいつでも相談してください。なんでも解決できます、と言い切れないところが幻想生物の難しいところですが必ずお力になりますから。何か聞いておきたいことなどありますか?」


「あの、この子今日ここに連れて来るのにゲージがなかったのでコレに入れて来たんですがこの蓋を閉めるとすごく暴れちゃって。ゲージに入れるのは良くないのでしょうか」


「そういう子なのかもしれません。が、このカゴが嫌だっただけかもしれません。一度ワンちゃん用のゲージに入れてみましょうか」


そう言って持ってきたプラスチックの横から入れるタイプのゲージにキュイは入れられる。

パタリと扉を閉めても大人しい。


「大丈夫そうですね。一応別のにも入れてみましょうか」


もう一つの鉄の格子になっているゲージにも入れられる。

やっぱり大人しかった。


「このカゴが駄目だっただけみたいですね。もしかしたから透明がよくないのかも。買うならここにあるような形のものにすれば大丈夫そうですね」


「よかった。ありがとうございます」


「…これは私個人としてなのですが。一緒に暮らす決断をしていただいて本当にありがとうございます。逃げ出して保護された幻想生物はほとんど引き取り手が見つからずに処分されてしまうのです。どんな生き物でもそうなのですが引き取るという選択は一つの命を救っているのです。だから本当ありがとうございます」


「いえ、その…これからもお世話になると思いますがよろしくお願いします」


そう言ってから診察室を出た。

嬉しさと不安と僅かな寂しさ。


(支払いをして帰って、近いうちに色々買わないと)


まずはネットでさがそうかな。

やっぱり最初はお店で見たほうがいいだろうか?

考えていると受付に呼ばれる。


「今日は4万円になります」


たッッッか!

嘘でしょ?!

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