第3話 病院までの一悶着

(くすぐったい)


首の回りを柔らかいブラシでこすられる。

そんな夢で目が覚める。


(なんだこれ)


夢の中のブラシを手で掴み寝ぼけ眼で正体を確かめる。


(白いネズミ?)


ブラシじゃないのか、と思って胸の辺りにおいてやる。


(ん?ネズミ?)


何故ねネズミがいる、もう一度それを掴んでじっと見る。


(ああ、なんだキュイか)


よかった、と安心してもう一度眠ろうとする。


(いやいやいや、何故おまえがここにいる!)


飛び起きて慌てて簡易の箱に戻す。

どうやって抜け出したのか、小さいが高さのある箱だ。

当然穴はない。


(昨日戻さずに寝ちゃった?)


どこかに置き忘れたかと考えたが昨日は箱のなかで寝る姿を見てから自分もソファで寝たはずだ。

どうして、と思ったが考えてもわからない。

偶然かもしれない、ひとまずは置いておく。


「ご飯にしようか」


もらった小松菜を一枚千切ってキュイの前に出す。

すると立ち上がるかのように四本足で体を少し高く上げる。

そして何故か正面に視線を固定してピタリと止まる。


「たべないの?」


そう思いなが口の前に持っていくと口だけを動かしてもしゃもしゃと食べ始めた。

しかし視線は正面のままで体も動かさない。

もうすぐ食べ終わると思ったころ、キュイはピタリと動きを止めた


(どうしたんだろ?)


しばらく動かずじっとしたあと、口からポロリと小松菜の残りが落ちた。


拾ってもう一度口の前に持っていく。

パクリとくわえたところでまた止まった。

しばらくしてまたポロリと落とす。


(硬いのかな?)


残っているのは小松菜の茎の部分。

硬そうな皮を剥いでやる。

するとまたパクリとくわえそのまま止まる。

そしてポロリと落とす。


(お気に召さないのね)


これから茎は理人の担当になった。


食べ終わってしばらくするとキュイはまた眠りにつく。


(今日の病院、どうやって連れて行こうかな?)


手で抱えて行くわけにはいかない。

入れられるものはカバンくらいしかない。

カバンに直接入れるのもなんだか不安だ。

何かなかったかと探してみる。


(これ、いけるか?)


虫かごが出てきた。

透明のケースに網目の蓋がついているタイプだ。


(確か貰って…使わなかったはず)


開けて匂いを嗅いでみるがやはり無臭。

大きさも十分。

今回はひとまずこれを使ってみよう。

病院の予約時間は10時。

自分の朝食と準備を済ませキュイの目覚めを待つ。


ガサガサと音がし始める。

起きたようだ。

時間もそろそろだ。

キュイを抱えて虫かごに入れてみる。

大人しく入ってくれた。

よかった、と思って蓋を閉める。

パチン、と閉まった瞬間。


めっちゃ暴れた。


虫かごの壁面を駆け回ってる。


慌てて蓋を開けると大人しくなった。

タオルでも入れてみた方がいいかも。

いつも使っているタオルと一緒に入れてやる。


まだ大人しい。

タオルに潜ったりしてはいるが大人しい。

ここからだ。

蓋を閉めるとどうだろう。

音が駄目だったのかもしれない。

そっと閉める。

バチンとは鳴らなかった。

キュイも大人しいままだ。

音が駄目だったようだ。

もそもそとタオルから顔を出す。


あ、駄目だ。


気づいて、は?みたいな顔をした。


案の定暴れた始めた。


(なんで蓋が駄目なの?!)


諦めて結局、蓋を閉めずにカバンに透明ケースごと入れて連れて行った。

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