第2話 命名



玄関前でずぶ濡れ震えるサラマンダーを拾った。


検索『サラマンダー』

幻想世界の動物。

これまで架空とされてきた生き物の多くが幻想世界での生息が確認されており、サラマンダーもこれに含まれる。

近年、幻想世界との交流が可能になったことにより愛玩動物として持ち込まれるようになった。

実体世界では火をはく大きなトカゲのような姿で伝わっているがそれは成体で幼体はふわふわの毛で覆われた可愛らしい見た目となっている。

そのため動物好きの間で徐々に人気が広まって来ている。

知能も高く、動物の中では非常に飼育しやすい部類だが持ち込まれる個体数が少なく600万から800万円、高いものでは1000万円近くの値がつけられることもある。


訂正、玄関前で1000万拾った。


検索『サラマンダー 野生』

実体世界では野生では生息していないにもかかわらず年間数体のサラマンダーが保護されている。

多くが飼い主の元から逃げ出したものであると思われているが元の飼い主が名乗り出ることが非常に少なく、また新たな飼い主が見つかることも稀でほとんどが殺処分されてしまっている。


(殺処分…。でも…)


飼えない。

そんな余裕ないよ。


ダンボールの中でうずくまって眠る姿に視線を送る。


(俺も寝よう)


時刻はすでに日付が変わっていた。

何も考えないでおこう。

電気を消してその日はソファでとにかく眠ることにした。

目が覚めたのは早朝5時半。

薄らと明るくなった中そっとサラマンダーを覗く。

まだ眠ってる。

ちゃんと生きている。

理人は近くの床に寝転んだ。


(どうしよう…)


検索『拾った動物 飼う』

野生で過ごした動物は病気を持っているかもしれません。

飼う際には必ず病院で検査を受けましょう。


検索『サラマンダー 飼う』

サラマンダーを含む幻想世界動物を飼うには個体登録と飼い主登録が必ず必要です。

サラマンダーの場合、準資格で飼育できるのは成体になるまでの2年間のみとなります。成体となったサラマンダーは動物園などの施設に引きとってもらうか幻想世界に返すことになります。

成体以降も飼育する場合には正資格が必要となります。

耐火性素材でできた建物での飼育が義務づけられており、基準を満たした建物がないと資格は発行されません。


(2年、2年か…)


ガサガサとダンボールの中で音がし始めた。


「起きた?」


中を覗くとサラマンダーがキョロキョロしている。

そっと抱えて外に出す。


「キュウ!」


(鳴いた)


鳴くんだ。

キュウって。


手のひらの上から腕に登ってくる。

逆の手で掴んで胡座をかいている膝に乗せる。

右膝から左膝。

左膝から右膝。

行ったり来たりしている。

それをしばらく眺めていた。


(病院、連れて行かなきゃ…)


スマートフォンで近くの動物病院を調べる。


星4.2

コメント:先生が優しかったです。


ここにしよう。

ホームページから予約ができるみたい。


初めての受診を選んで予約を進めていく。


『受診する子の種類を選んでください』


(その他、でいいんだよね?)


何故か不安になりながら選んでいく。


『受診する子のお名前を教えてください』


(名前?)


サラマンダーの方をみる。

ズボンの皺になっているところを噛んで引っ張っている。


(キュイ、でいいや)


入力して予約を完了した。

それからしばらく遊んでいると指や服を噛んでくる。


(お腹空いてるのかな?)


検索『サラマンダー 食べるもの』

サラマンダーを飼育する際、サラマンダー用のペットフードなどは販売されていないため与える食事は無農薬野菜が主となります。


検索『無農薬野菜』


(高ぇ…)


スーパーで売られているものの3、4倍の値段だった。


(そういえば…)


叔父が趣味で作っている野菜を送ってくれていた。

もしかして無農薬かも。

叔父にメッセージを送ってみた。


ーーーー

理人:おじさんの野菜って無農薬?


おじさん:おう。農薬なんて使ってないよ


理人:わかった。ありがとう


おじさん:なんでそんなこときいたんだ?


理人:動物拾った


おじさん:何拾ったんだ?


理人:これ

写真を送付しました


理人:サラマンダーの幼体だって

ーーーー


後日ダンボールいっぱいの野菜が届いた。

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