第33話 物件探し
商人ギルドへと来れば、昨日見かけたお姉さん…ベルさんと言うらしい。が、物件の案内をしてくれるということだった。マリアージュさんの秘書ということなので、とても優秀な方なのだろう。
「まず、見に行く前に少し説明しますね」
そう言って、ベルさんが商人ギルド1階にある打ち合わせに使える様置いてある椅子を促す。私とイクルが着席したのを見てから、紙を1枚取り出して説明をしてくれた。
「物件に関して。買取と、賃貸がありますので、見る前に違いを説明しますね」
「はい、お願いします」
「では… まず、どの物件も買取・賃貸の両方を選ぶことが出来ます。何故なら、商人ギルドが所有している物件だからです。ただその分、種類はそんなに多くありません。もちろん、自分で物件を見つけて店舗登録をすることも可能です」
なるほど。
買い取りも賃貸もいけるんだ… けど、箱庭の扉を使うから買ってしまいたい。そうなると値段ですよ、値段。家なんて買ったことないんだから。
「一応、買取を希望します」
「わかりました。買取ですと、路地通りが一番安くお値段は大体金貨30枚…300,000リルからご用意があります。今回は小通りをご希望ということですので、大体500,000リルからとなります」
「はい」
お、路地通りであればぎりぎり所持金で買えそうです。
というか、思っていたよりも安い? まぁ、新築で建てるというわけでもないからこんなものなのだろうか。
チラリとイクルを見れば、何か考え込んでいる様子だった。
「では、私は案内の準備をしますので少々お待ち下さい」
「あ、はい」
ベルさんがそう言って席を外す。
私がイクルと相談できるように気を使ってくれたのかもしれない。
「どうしようか。路地通りならぎりぎり買えそうだよ」
「そうだね… お金はすぐに溜まると思うから、ひなみ様次第だけど。あとは…小通りだと営業時間の縛りがあるから人を雇わないと辛いかもしれないね」
「そうだね… うーん」
うん、少し気になってはいたんだけど…営業縛りは正直きついと思う。なんとなくスルーしてしまったんだけどね。
バイトを雇うのは良いとしても…私が街を長く離れるとなればそうも行かないかもしれない。となると、値段的にも路地通りのお店がいいのかもしれない。私が思案をしていれば、イクルが「後は、実際見たんだから雰囲気で選ぶのも良いんじゃない?」とアドバイスをくれた。
なるほど、雰囲気かぁ…。小通りは全体的に可愛い通りになっていて、路地通りはお店ごとに雰囲気が違い、可愛いというよりはオシャレかな。
でも、と…先ほど行った本屋を思い出す。不思議な本屋だったなと思いつつも、路地通りは穴場スポットで良いお店が他にもたくさんあるような気がするのですよ。
「うん…路地通りの不思議な感じもいいと思う!」
「まぁ、そう言うとは思ってたよ」
どうやらお見通しでした。
だってだって、路地通りのお店には精霊さんがいるんですよ! これはかなりの高ポイントだと思うのですよ。間違いなく!
「じゃぁ、そうしよう!」
「はいはい」
「お決まりですか?」
「!」
タイミングを見計らったようにベルさんが戻ってきていた。私は内心びっくりしつつも、「予算も考えてやっぱり路地通りにしたいです」と正直に伝えてみる。ベルさんは嫌な顔をまったくせず、「分かりました」とだけ答えてくれた。
「では、このまま見に行きましょうか。一応、小通りも1件見て、路地通りを3件見ましょう。一応、私がひなみ様へオススメだと思う物件を選んでいます。もちろん、気に入らない場合は追加で他の物件も見れるのでおっしゃって下さいね」
「はい、ありがとうございます!」
◇ ◇ ◇
「わあぁぁぁ! 可愛いよ!」
私はベルさんに案内された物件の1つに足を踏み入れた。
外装はオレンジ色のレンガで造られて、中は商品を置く用の棚が設置されていた。20畳ほどのスペースがある店内と、置くには部屋が1つと2階もあった。どうやらこの世界はお店を家と兼用している人が殆どで、2階を住居スペース、加えて住み込みで働けるように部屋がいくつかあった。
「結構広いね」
「そうですね。小通りでは…普通くらいのサイズでしょうか」
「設備は全部使えるの?」
「はい。ギルドで定期的にメンテナンスと掃除を行っているので問題はないです」
私がきゃっきゃしながら見ているその後ろで、なにやらイクルがベルさんと話している。あれ、私が聞かなきゃいけないことだよね…さすがイクルさんです。1人ではしゃいでごめんなさい。でも、やっぱり気になる私は戸棚を空けたりドアの開き具合を確認したりしてみるのです。いやいや、これも必要ですよ。
「2階を見ても?」
「えぇ、どうぞ」
「ひなみ様、2階も見てみよう」
「うんっ!」
とんとん拍子に物件の見学が進んでいるわけです。
店舗スペースの奥へ行けば、休憩スペースの様な部屋があり、簡易的なキッチンが備えられていた。その横に階段があり、そこから2階へと行くことが出来るようだ。
木製の階段を登り、2階へ行くと広めのリビング。そして廊下があり、部屋が4部屋あった。あ、やっぱりお風呂はないんだ、残念。
「広い部屋が1つと、それより少し小さい部屋が3つ。現在居るこの部屋は食事をしたりくつろいだりするスペースになりますね」
ベルさんの説明を聞きながら部屋を見て回る。
でも、こんなに広いお店件家は要らないかなぁ…。
「お値段ですが、こちらは買取ですと600,000リルとなります」
「はい。とりあえず…次を見たいです」
「えぇ、では次に参りましょう」
外に出て、小通りを抜けて路地通りまで歩く。道すがらベルさんに通りの特色を聞けば丁寧に教えてくれた。
「小通りは、基本的に可愛い感じのお店に統一されています。路地通りでお店を出して1人前になった方が小通りに移動することも多いです。メリットとしては、通り自体がしっかり整備されていて外観も良いのでお客さんが入りやすいことですね。ただ、その分知名度の低い同じ様なお店が多いのでお客さんの獲得が少し大変です」
「なるほど…」
「路地通りは、自分の腕を試したい人、それとあまり公に商売を行わない人や趣味で行う人が多いです。なので、営業時間もばらばらです。ただ、その分専門店が多くなりますので、希少なアイテムを取り扱っていることもありますね」
なるほど…大通りから百貨店、デパート、スーパー、専門店…みたいな感じだろうか。
大通りのほうが取り扱う種類は多いけど、品質であれば専門店の方が取り揃えられていたりする…ということだろうか。うぅん、そう考えると
「あ、ここが2件目ですね」
「あ、はいっ!」
あれこれ考えながら歩いていれば、すぐに目的の物件へとたどり着く。
紫色をした独特の外観に、木の扉がついている建物。そっと中を覗いてみれば薄暗かった。
「うわ…これはちょっと」
思わず本音がポロリとこぼれた。
横で見ているイクルも頷きつつ、何でこんな所を勧めてきたのだろうか。
「あ、やっぱり駄目ですよね」
「…そうですね」
「ほら、薬術師の方だからこういった雰囲気もお好きかな、と…」
あぁ、なるほど。
よくある魔女の家…のようなコンセプトなのだろうか。でも残念、私にそんな特殊な属性はないし、扱う商品も可愛い瓶にはいった
「ひなみ様はすごい薬術師ですし…念の為と思いまして。やっぱり植物の知識もすごいんですか?」
「この建物だと魔女みたいですね。でも、私はまだ駆け出しなので…全然知識がないんです。なので、まだ勉強中で…さっきも本を買ったんです」
「そうなんですね、応援していますっ!」
ベルさんの言葉に「ありがとうございます」と返しつつも、若干彼女のテンション? 空気が下がった気がしたが…きっと気のせい。
そんなわけで、ろくに中も見ずにこの物件を後にした。
「ここが3件目ですね」
次に来た物件は、白を基調とした清潔そうな建物だった。
窓がついていて、中は日差しが入りとても明るい。店内は10畳程度だろうか…せますぎず、広すぎず。商品の数は多いが種類は少ないので、あまり広くなくて良いと思う。
「綺麗で良いね」
「うん。それに、広さも丁度良さそうだね…あ、壁に花の模様があって可愛いね!」
イクルの気に入ったのか、物件を見て回る。それにあわせてベルさんが説明をしてくれる。
「ここは、奥に休憩スペース、それと2階には3部屋ありますね」
「そうなんですね。広さ的には丁度良いです! それに、白で明るいし!」
「やっぱり暗い感じは駄目ですよね、すみません」
ベルさんとしては、好みまで完全には分からないから念の為…ということで先ほどの暗い物件を見せてくれた様だった。まぁ、あの物件を見た時はさすがに焦ったけど…ファンタジーだしそういった趣向の人もきっと多いのですよ、うん。
私は備え付けられた棚と、レジになるであろうカウンターを見て回る。白を基調にしているので、アンティーックっぽくてオシャレです。
「2階も丁度良いね」
「うん! ここなら良いね」
「それは良かったです。ここは350,000リルですね」
奥の部屋に階段があり、2階もくるっと見る。やはり1階と同じく白を基調としていて清潔感が出ていた。これなら気持ちよく過ごせそうです。
さて、次で最後の物件だったなと思い…この場を後にする。とりあえず、ここが第一候補かな。お金もぎりぎり足りる金額だし、最後の一軒を見ていまいちであればここにしてしまおう。
「ここが最後の物件ですね。ちなみにお値段は300,000リルです」
「「!!」」
私とイクルはベルさんが案内をしてくれた物件を見て驚く。
だって、ここは…。
「ここにしようよ!!」
「ひなみ様、さっきのところにしようよ」
と、私とイクルの声が重なった。しかし、その意思までは重なることは無かったのだ。
そう、ここは…先ほど立ち寄った不思議な本屋さんの、その隣だった。イクル的にはあまりあの店主さんが好きではないのだろうか。私は精霊さんにも会うことが出来たし、良いなと思ったのだけれど…。
「えぇと…どうしようね?」
「まぁ、取り敢えず中は見ておこうか」
私とイクルのやり取りを見たベルさんが若干不思議な顔をしていたが、気にしないで中に入ることとした。あ、なんだか落ち着く空間です。
淡いクリーム色の外壁に、下の方…私の膝くらいまではレンガで造られている、可愛いオシャレな見た目の建物。木の扉が良い味を出していて、その横には今までの物件では見れないような大きな横長の窓がついており、中を広く見渡すことが出来た。
一歩中に踏み入れれば、暖色系の壁に、棚が設置されている落ち着いた雰囲気だった。これならば、植物も馴染めそうだなぁと思いつつ、場所的にイクルは嫌みたいなので悩みます。
「ここの広さは6畳程度ですが、2階建てになっています。なので、店舗スペースが1階と2階の2つがありますね。奥には休憩スペースと住まい用に部屋が2つあります」
「ここは少し特殊なんですね。でも、2階もあるなら人気になりそうなのに…」
私は階段を登りつつ、2階のスペースを見る。小さなバルコニーが設置されており、ちょっとお姫様気分です。
「そうなんですけど、その分部屋数が少ないので買い手がつかないんです。なので、少し安めなんですよ」
「あぁ、なるほど」
ということは、ここは少しお得物件ということ。
私としては気に入ったので良いとは思うのだけれど…どうしたものか。
「あれ、2階にもう1つ部屋が?」
「あぁ…それは倉庫ですね」
2階の部屋の隅に、もう1つドアがあるのを見つける。そっと開ければベルさんの言うとおり小さな部屋になっていた。とはいっても、3畳程度のスペースであった。
「さて…どうするのさ、ひなみ様?」
「うーん… 個人的にはバルコニーが気に入ったんだけど、イクルは前の物件が良いんだよね?」
「まぁ、確かにこの物件の構造は良いと思うし、何よりこれで300,000リルなら別にここで良いんじゃない?」
おっと、物件を見たらイクルが了承を出してくれた。
「それに、今後のことを考えると2階のスペースはあったほうが良い気がする」
「え? そうなの?」
「いや、ただの勘だよ」
ふむぅ…勘、か。でもイクルさんの勘なのであなどってはいけない気がしますよ…?
私は見た物件を2件に絞り思案する。
1件目
白を基調にした、アンティークっぽい物件。
店舗スペース:10畳
休憩スペース、他3部屋有。
清潔な物件で、壁には花の模様がありポイント。
2件目
クリーム色を基調にした、暖色系の物件。
店内スペース:1階、2階共に各6畳
休憩スペース、他2部屋有。
1階の壁には大きな窓があり、店内を良く見渡せる。2階には小さいバルコニーが有る。
「隣を考えないなら…2件目。最初は1階だけ使うっていうことも出来るしね。それに、実際部屋はそんなに要らない」
「そうだね。というか、最初と意見がまったく変わったね」
「そうだね。まぁどっちでも良いけど、使い勝手は2階建てかな」
ふむふむ。
どうやら物件を見たイクルは隣が本屋…ということを考えない大人な意見にまとまったようだ。それだけお店のことを考えてくれているんだと、かなり嬉しくなる。
うん、私も頑張らないといけないですね!
「イクルが良いなら…ここにしちゃうけど、本当に良いの?」
「ん、いいよ。よく考えたら隣ってだけで何かかかわりがあるわけじゃないしね」
「あ、うん…」
どうやらイクルはかかわる気が無いようです。いや、そんな気はしてましたけどね!
「では、ここにしますか?」
「はい。お願いします!」
ようし、お店が決まりましたよ。
ここで私のお店…〈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます