第30話 商人ギルド - 2
私は今…大通り、冒険者ギルドの向かいにある商人ギルドへと足を運び、商人ギルドのマリアージュさんと対面していた。
この商人ギルドは、冒険者ギルドと違い、白を基調にした落ち着いたスペースとなっている。商談をする為か、はたまた別の目的のためか、1階部分には机と椅子があり誰でも自由に使うことが出来る。
今の私は、ギルドマスターであるマリアージュさんと話しをする為に階の応接室にいる。
そして私は商人ギルドへ登録をし、自分のお店をこの街で開きたい旨を説明する。
「そうねぇ…」
ハニーオレンジの髪を書き上げて、一通りの説明をした私と書類を見比べる。マリアージュさんの視線は鋭く、綺麗で、女の私でも見られるとドキドキしてしまう。考え込むような仕草をしつつ、もう1度私を見る。
「ちょっと商人となるには年齢が不安だけど…まぁ、アルフレッドの後ろ盾もあるし良いでしょう。私達ギルドは貴女を歓迎するわ」
「マリアージュさん…! ありがとうございます!!」
まさかこんな簡単に許可をいただけるなんて。
これもどれも、アルフレッドさんの紹介のおかげです。
「
「はい!」
にこりと微笑んだマリアージュさんの表情は、先ほどのように鋭いものではなく、そう…家族を、仲間を見るような目線へと変わっていた。
そのまま手に持っていた書類の束を机に広げ、「このまま契約に入るわね」と、準備を進めて行く。私の前に広げられた3枚の紙に視線を落とせば、左から順に商人ギルド登録証、商人ギルド規約、出店登録と書かれた紙だった。
「まず、登録を先に行うわね。ひなみさんは冒険者ギルドへの登録が済んでいるから、冒険者のギルドカードを提示して頂戴。それに商人ギルドの登録を追加させて貰うわ」
「あ、わかりました。そんなことが出来るんですね」
「えぇ。カードが何枚もあるとかさばってしまうから…」
私はギルドカードを取りだし、マリアージュさんへと手渡す。あまりどころかまったく使われていない私のギルドカードはピカピカです。それを見つつ、マリアージュさんが机の横に置いてあったベルを鳴らせば1人の女性が部屋に入ってくる。そのまま私のギルドカードと登録証を渡すとその女性は受け取り軽く会釈をし部屋を後にした。
「登録をしている間に、ギルドの説明と出店に関しての説明を行うわね」
「はい。お願いします…!」
私の前に置かれている規約の紙を見ながら、マリアージュさんの説明に耳を傾ける。
「商人ギルドの規約は、そんな難しい物ではないわ。大きく分けて3つ。まず1つ、ギルドへの不利益になることを行わないこと。これには、ギルドの規約・命令違反、団体・個人にかかわらず問題を起こしギルドからの介入があった際にも適用されるわ。2つ、商売登録。これは、自分がどういった商売をしています…というのをギルド側に報告する義務になるわ。ただ、細かく何と何を売ります、ではなくて、こういった種類のものを、これくらいの規模で販売します。そういった商売の計画や方向性を報告してくれれば問題ないわ。新しい事業を始める際も報告義務があるから、忘れないようにお願いね。そして最後、税金に関して。商売の税金に関して、市場での販売に関しては税金の徴収はありません。けれど、今回のように“お店”を持つ場合は税金が掛かります。納税はお店の場所により金額がことなるの。場所に関しての説明は、後でするわね」
「なるほど…」
一気に説明をされて若干パンクしてしまいそうな気もしますが、頭の中で反芻しながら状況を整理していく。とは言っても、そんなに難しい物では無さそう。
1つ。ギルドの不利益になるようなことはしない。
規約や命令に違反、問題ごとを起こしたりしなければ大丈夫のようだ。
2つ。行う商売の登録義務。
事業登録…業種や業界、商品内容をギルド側へ報告しなさいということ。
3つ。税金に関して。
1ヶ月計算で、大通りは金貨7枚。中通りは金貨5枚。小通りは金貨2枚で路地は金貨1枚。
うん、まとめるとすっきりしましたね。
すごい規約があるのかと思ったけど、そうでもなくて少し安心した。やはりこういうファンタジーの世界は日本と違い色々とゆるい…というか文明の発達が遅いのであまり難しいシステムにはなっていないのだ。うん、これなら私もなんとかやっていけそう…かな?
「何か質問はある?」
「んー… 特にはないかな…?」
「そう。あ、あとこれの説明をしないとね」
「これは…?」
マリアージュさんが引き出しを開け、1つの小箱を持ってくる。中から出てきたのは綺麗な白い…宝石だった。指でつまみ顔の前に持ち上げれば、マリアージュさんの顔が透けて見える。宝石の中を通って向こうが見えるなんて、なんて透明度が高いのだろうか。
「あぁ、ひなみは知らないのか」
「まさか知らない人がいるなんてね。アルフレッドの紹介じゃなきゃ門前払いね」
くすくす笑いながらマリアージュさんが説明をしてくれた。
「これは“白色魔道具”よ。現在扱っているのは商人ギルドだけ。ギルドで加工・生産をしているから手に入れようと思っても不可能ね…」
「えぇっ!? すごいんですね」
「そう。そしてこれは、“私のお店は不正をしていません”という証明になるの。店の軒先につけてもらうんだけどね、不正をしているお店の石は黒くにごるのよ」
「そうだ。パチモンの商品だったり、品物の価値を偽装したり…様々な事象に反応する」
何それすごい。
ローテクと思いきや、ある意味超ハイテクなのではないだろうか。
マリアージュさんの説明に、アルフレッドさんが簡単な例えを付け足してくれた。どういった原理で動く魔道具なんだろうと思っていれば、先手を打つように「生産方法と仕様は極秘だから内緒よ」と、マリアージュさんに魔性の笑みで微笑まれてしまった。
すごい、女を武器にしている人だなと思う。20台半ばから…いや、後半だろうか。私も若返っていなければ同じくらいの年だったはずだけれど…ここまで女らしくなめらかな仕草が出来るとはとても思えなかった。
「っと、最後、出店登録ね」
残った1枚の紙を見れば、いくつか確認事項が書かれている。
お店の名前。
業種。
所在地。
営業日、時間。
従業員数。
「そうです…お店の場所も探さないとです」
「えぇ。後で紹介するわね。場所を決めるにあたり、何個か規約があるのよ」
「規約ですか?」
「えぇ。お店の場所と、営業に関して。それと、さっき説明した税金の金額にかかわってくるわ」
マリアージュさんが1つずつ説明をしてくれた。どうやらこの世界では、大通りから路地に行くにつれて営業時間がゆるくなっていく様だった。ちなみに、税金は先ほどの通り。
大通りのお店…定休日なし、朝から夕方(もしくは順ずる時間)の営業義務。
中通りのお店…定休週1日、朝から夕方(もしくは順ずる時間)の営業義務。
小通りのお店…定休週1~2日、昼から夕方(もしくは順ずる時間)の営業義務。
路地のお店…定休、営業時間の義務は無い。
「なるほど… 大通りのお店は毎日営業しないといけないんですね」
「えぇ。これは国を発展させるにあたっても大切なことなのよ。だから、そう簡単に大通りで商売を出来るとは思わないでね」
「はい」
となると…私のお店は中か小かな? でも私とイクルの2人だし、やりたいこおも多いしなぁ。女神様にも会いに行かないと行けないし…どうしたものか。
ちなみに、大通りはメインストリート、その横の2本の通りが中通り。そしてそのさらに奥の3本の通りが小通り。最後の路地はさらに置くの通りで、数本の通りになっている。実は穴場のお店があったりする、通にはちょっとした人気もあるとかないとか。
「イクルはどう思う?」
「ん…そうだね。小通りが良いんじゃない?」
「なるほど…確かに、中通りだと私達には大きいね」
後ろに立っていたイクルに話をして、どう思っているか聞いてみると私が考えていたのと似たような答えが返ってきた。
うん、やっぱり自分の時間も欲しいし、定休日が1日あるとは言えフルで働くのは少々辛い。小通りであれば週休二日に、フルで働かず自分で営業時間を設定できるので都合が良いだろう。
「マリアージュさん、小通りをお願いしたいです!」
「えぇ、わかったわ。初めてお店を出すのであれば丁度良い通りだと思う。別に人通りが少ない…というわけではないから」
そして問題は残り。
どんなお店にする! って、まぁ
「えぇと、従業員は一応…私とイクルです。営業時間は特に決めていなくて…」
「あら、そうなの…? であれば、そうね。冒険者が出かけるのは基本的に朝だから、朝以降が良いんじゃないかしら」
「あぁ…なるほど! じゃぁそれでお願いします!」
「わかったわ」
マリアージュさんのアドバイスに即決で返事をすれば、後ろからイクルの呆れた顔が…見えはしないけど感じるんですよ。絶対呆れ顔をしているに違いない。
っと、これで一応全部の項目が埋まったのではないだろうか。
「ん、これで問題ないわね」
「ありがとうございます!」
「物件に関してだけど、こちらで何件か手配をするので明日以降に見に来てくれるかしら」
「分かりました」
とんとん拍子にことが運び、無事にお店を開店することが出来そうです。いや、とは言っても物件はまだなんですけどね。明日以降に案内をしてもらえる様なので、今から大分楽しみで仕方が無い。後ろのイクルに向き直り、そっとピースサインをしてみれば、「良かったね」とでも言うように少し微笑んでくれた。ちょ、笑顔はレアではないですか…!?
丁度終わった今を見計らったようにノックが響き、私のギルドカードを持って先ほどの女性が入ってきた。それを受け取り見れば、冒険者ギルドと書かれているカードの横に商人ギルドと書かれていた。「ありがとうございます」とお礼を言えば、女性は軽く会釈をして退席した。
「これで商人ギルドの一員ね。何かあれば私を頼りなさい」
「ありがとうございます…!」
姐御って呼びたい格好良さです…!
長いハニーオレンジの髪を後ろに流しながら、その台詞。好きな男の子に言われて見たい物です。とは言え、ずっとバイトバイトだったので彼氏も居なかったんですけどね…。
「「ありがとうございます」」
イクルと2人で再度お礼を述べ、商人ギルドを後にする。
アルフレッドさんとシアちゃんにもお礼を述べて、お店が出来たら遊びに来て貰う約束までしてしまう。うぅ、絶対私の顔…にやけていますね!
「お嬢様~!!」
「…キルト!」
丁度商人ギルドから出れば、冒険者ギルドから出くるキルト君が見えた。あれ、もう鍛錬終わったんだ…はやいな…と思いつつ若干空がオレンジ色になっているのに気付く。思っていたよりも商人ギルドに長時間居た様だ。
「もういい時間だな… ひなみ、イクル。せっかくだし俺の行きつけの店で食事でもどうだ?」
「わ、いいですね…!」
アルフレッドさんの提案に私が乗れば、イクルも同じく頷いて肯定を示していた。
実は緊張していて気付かなかったけど、割とおなかペコペコです…!
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