第26話 リグリスとひなみ
視点:リグリス
最初に、ひなを見たのは
頑張っている笑顔が可愛くて、しばらく見ていた気がする。
あぁ、そうだ。
花が咲き始めた、暖かい季節だっ
た。
「あ、ひなってばまたバイト増やしてる」
いつからか、ひなが目に付くようになった。今時にしては珍しい、地毛のストレート・ヘアを腰まで伸ばしていた。笑顔が可愛くて、病気になってしまった妹の治療費を稼ぐ為に毎日バイトの日々を送っていた。
それに加えて、高校、大学にもしっかりと通う。本当ならば働きたいらしいが、それは妹に却下されたらしい。「私の為なのは嬉しいけど、お姉ちゃんもちゃんと自分の人生を生きて!」と、諭された様だ。
「ふふ、可愛いなぁ…」
◇ ◇ ◇
それから、1年経ったころ。
「花…お願い、死なないで」
祈るように、ひなは……。
『今日は、祈りを捧げさせて下さい。そしてどうか、どうか、私の願いが叶いますように。私の全てを捧げても良い』
「だから神様… どうか妹を、花を助けて下さい……」
もちろん、すぐに助けてあげようと声を掛ける。神と言っても、万能ではない。“助け”の声が無ければ干渉することは出来ない。
ひなは、努力をして全て自分の力で乗り越えてきた。うん、そこも可愛いところなんだけどね?
でも、それじゃあ駄目。だって、
「ずっと、待ってた。ひなが、
でも、さすがに妹がこの状況で…ってのは、まぁ、予想はしていたけど。
でも、これで俺とひなは出逢うことが出来るね。
大丈夫、ひなの妹は俺がちゃんと助けてあげる。
ひなを俺の世界に召喚して、俺のものになってと、玩具になってと、そう伝えた。
「はぁ…」
『暇だから、異世界で四苦八苦するひなみを見て時間を潰そうと思って』
なんだかよく分かっていない顔をしているひな。声色からもそれが手に取るように分かる。うん、そんなところも可愛いんだけどね。
というか、俺はさっきから何を言っているんだろう。ひなを俺に縛り付けたい訳ではなかった、ないと思っていたのに。
だけど、
ひなの声が、姿が、なんだかとても愛おしい。
離したく、ない……。
あぁ、俺ってばこんな性格だったかな。
でも、ひなは本当…自分を大切にしないね。
いくら妹の為とは言え、自分と引き換えでも躊躇せずにオーケーを出すのだから。ひたむきで、純粋で…本当、ひなは眩しいね。太陽みたいだ。
俺の玩具になるなんて、
ひながそんなに素直に…俺を見てくるから。
まぁ、俺も後に引けない状態になった。いつの間にこんな展開になってしまったのか。
うん。ひなが可愛いから仕方が無いんだ。
妹を救うのにひなを丸ごともらっちゃうのは、ちょっとやり過ぎだけど…ひなは良いって言ってるし。
うん、ここは俺も素直になってひなをもらってしまおう、そうしよう。
「じゃぁ、さっそく異世界に送って下さい!」
おっと… 予想以上に、やる気満々の答えがひなから帰って来た。
でも、いきなり〈レティスリール〉にひなを送ったら魔物にやられて死んじゃうよ。ステータスやスキルはきちんと調整してあげないとね。
本当はずっとここで一緒に居て欲しいんだけど、ただの人間であるひなにこの空間は耐えられないのだから仕方が無い。
早くポイントを集めてもらって、うん。話はそれからだね。
◇ ◇ ◇
そうして、俺はひなを〈レティスリール〉に送り出した。
ちゃんと見ていてあげないと、どんな危険があるかわならないからね。ピンチの時には助けられるようにしておこう。
「あ、そうだ… ひなの家の近くに“雪うさぎ”を放しておこう。この子はまだ魔物だけど、きっと精霊になってひなを支えてくれる」
俺ば自分の空間にいる雪うさぎを1匹手招きして抱き上げる。
「あ、雄か… だめだめ、ひなのところに行くんだから雌じゃないと」
『みっ!』
「お、行ってくれるのか?」
『みぃ〜!』
そこへもう1匹、歩み寄ってきた雪うさぎ。
うん、この子にひなのところへ行ってもらおう。幸い魔力も強いし、きっとひなを護れるだろう。
それに元気だし、懐っこいし、もふもふだしね。
「よし、じゃあしっかりひなを護ってくれよ? 近くの森に放すから、きっとそのうちひなに逢える」
『み!』
元気な雪うさぎの返事を聞き、ひなと同様に〈レティスリール〉へと転送を行う。
ひなと雪うさぎは森で出会って、きっと良いパートナーになるだろう。
「ん。ちゃんと森へ着いたみたいだね…2人とも。って、雪うさぎはまだ人型ではなかったな」
まぁ、ひなの近くにいればきっと成長も早いだろう。なんといっても、ひなの適性は“薬術師”なんだから。スキルも相性が良いものを渡しておいたし、あとはポイントと引き換えに必要な物をひなに送ってあげよう。
ねぇ、ひな。
もう1人は嫌だよ……。
だから早く、ここに戻って来てね…?
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