第25話 箱庭の扉 - 5

 さて、今日も迷いの森は良い天気です。

 屋上から見える森は、もちろん全部ではないけれど。でも、鳥が見えたりしてとても楽しい。



 お店を出すと決めて1ヶ月。

 やっと箱庭の扉と交換する為のポイントが貯まった。うん、頑張った!

 お店のことも決めないといけないので、回復薬ポーションの作成と並行して進めた結果1ヶ月掛かったのです。



 現在の資金は、以前街へ行った時に得たお金の残りと、アルフレッドさんが回復薬ポーション買ってくれた時のお金。



 現在のお金とポイントは、この通り。





 元からの所持金 22,100リル



 アルフレッドさんが買ってくれたお金


 真紅の回復薬ガーネット・ポーション 80個×1,400 =112,000リル

 深海の回復薬マリン・ポーション 60個×3,000 =180,000リル

 姫の加護薬 50個×1,300 =65,000リル



 合計 379,100リル



【所持ポイント:51,015】





 いっきにお金持ちになってしまいました。

 それに、まだ回復薬ポーションは大量にあるのだから笑えない。



「箱庭の扉を使う前に、家を買わないといけないね。その為には、まず街へ行かないと!」

「忙しくなりそうだね」



 やれやれとイクルが一息つく。

 とは言っても、なんだかんだでイクルは私にすごく協力をしてくれる。

 とりあえず、明日街へ向かうことにして、今日はその準備を行う。



 街へ行ってすることはもうまとめてあるのです。

 宿屋の確保。

 シアちゃんに鏡電話で連絡。

 アルフレッドさんに商人ギルドを紹介してもらう。

 家を買う。

 そしてその後は箱庭の扉を使用して、私の家と扉を繋げる。ちなみにお金が足りない場合は回復薬ポーションを少し市場で売って稼ぐ予定です。



 イクルと一緒に持っていく為の回復薬ポーションをリュックにつめていく。持って行くものは回復薬ポーションを各20個程度。他は…着替えを少し持っていく。後は交換日記があれば、街に行くのだしなんとかなるだろう。



「でも、楽しみだなぁ… 早く明日にならないかなっ」

「…落ち着きなよ」

「ごめんごめん。なんだか、1人だった2年が嘘みたいだよ」



 私は今、とっても充実しているのです。

 そしてこれからはお店。イクルと色々決めつつ、でも値段はしっかり街で相場をみてから考えることに。あとは…あまり経営のことは分からないので商人ギルドでこの国の商売に関して聞きつつ整える。

 そしてバイトさんを雇うのか? という問題も。私も一応、色々やりたいことがあるので1日中お店に張り付いていることも出来い。なので、様子を見つつ朝や夜だけの営業も有かも知れない。丁度冒険者の人が街を出たり帰ってきたりする時間。

 ふむぅ…こう考えると、この世界の商売事情をまったく知らない。日本みたいに厳しい規則はなさそうだけど…どうなんだろうか。

 まぁ、明日決めれば良いかな。





「ひなみ様、毒薬持って行けば?」

「えぇぇっ!?」



 ハーブに水をあげていたら、イクルが突然物騒なことを言い出した。何故、街へ行くのに毒薬が必要なんだろうか…?

 確かに、ククリの木はイクルが森でやっと見つけてきてくれたので、屋上で一緒に育てている。ちなみに、ククリの木が見つかったのはシアちゃん達が遊びに来た2週間後くらいだった。よく諦めずに見つけてくれたな…と思う。そしてその途中、森で会うスネイクを倒して毒薬の材料である“蛇のうろこ”もそこそこ溜まっていた。





 《毒薬》

 毒草・蛇のうろこ・水・瓶


 《解毒薬》

 ククリの実・魔力水・瓶





「毒薬で、森を抜けるときに魔物を倒せば良いんじゃない?」

「あ、なるほど…!」



 確かに、それが効率の良い方法かもしれない。そんなに急ぐ旅でもないし。それに、そしたらレベルが上がるかもしれないしね…!

 イクルに「分かった」と伝え、毒薬と解毒薬を作るために毒草とククリの実を摘んでいく。後は瓶と魔力水があれば作成が可能だ。



「あ、でも毒薬だし庭で作ると危ないね。屋上ここで作ろうか」

「そうだね。魔力水と瓶を持ってくるから、ちょっとまってて」

「ん、わかった。準備してるね」



 毒草とククリの実は使わないだろうとあまり数を育てていなかったので、《天使の歌声サンクチュアリ》を使って毒草の数を増やし、ククリの木を実らせる。

 ククリの実は丸い実で、上が黄色、下がオレンジと色がはっきり分かれている不思議な木の実だ。ぱっと見は良く分からないが…色的に味はみかんに近いのだろうか? まだ食べていないのでなんともいえない。



 あ、でも森を抜けるのであれば神様が用意してくれた冒険セットを交換した方が良いかもしれない。イクルが準備をしてくれている間にさっと交換してしまおう。





【ひなの冒険セット】 =500ポイント使用


【合計:500ポイント使用】


【所持ポイント:50,546】





 部屋にもどり、すぐに交換日記を開いて冒険セットと交換をする。この場に何も出ないということは、おそらく地下室にまた宝箱が用意されたのだろう。



 急いで地下室へ行けば、イクルが丁度瓶を運び出そうとしていたところだった。



「あ、いきなりこの宝箱が出てきたんだけど」

「ポイントで交換した冒険セットだよ。森へ行くならあった方が良いかなって」

「あぁ、そうなんだ。確かにあった方が良いね」



 お花のモチーフが付いた可愛い宝箱がイクルの目の前に置かれていた。きっと突然出現したはずなのに、まったく驚いた様子がない。これがイクルクオリティなのだろうか……。

 そっと宝箱を開けば、中には装備が入っていた。





 《加護の花弓矢》

 リグリス神の加護がついた弓矢。

 放った矢は必中するが、1日3回しか射ることが出来ない。矢は弓を引けば自動でセットされる。


 《加護の花ナイフ》

 リグリス神の加護がついたナイフ。

 光属性が付与されており、暗いところでも輝きを失わない。

 前に出ると危ないけど、護身用にもっておくように!


 《加護の花ローブ》

 リグリス神の加護がついたローブ。

 全ての属性攻撃を20%カットする。

 暑さにも寒さにも強い優れもの。


 《加護の花リボン》

 リグリス神の加護がついたリボン。

 攻撃を受けそうな時に、「助けてリグリス」と叫ぶとリボンが防御形態へ変形する。

 たまにリグリスと話が出来る。





「これは…すごいね」

「うん……」



 お花がモチーフになった装備は、間違いなく女の子専用であった。

 効果に関してはよく分からないが、イクルがすごいと言っているからきっとすごいのだろう。そもそも、武器や防具に関しては何も知らないので勉強をした方が良いかもしれない。

 加護の花弓矢は、弓道の弓みたいに長くはなく、50センチほどだろうか。割と小さいサイズの弓矢の様だ。弦の部分には花の蔓がまかれていて、弓の下側には花が咲いていた。あ、生花だ…!

 加護の花ナイフは、あれ、これは神様のメッセージかな? これで戦え、ではなく、一応持っておきなさいということだろうか。神様の心遣いが嬉しいです。

 加護の花ローブは、前開きになっていて、七分袖くらいの長さ。丈は大体…膝くらいかな。後ろにはフードが付いていて、前は花をモチーフにした可愛いリボンでとめてある。ポケットも2箇所についていて、とても使いやすそう。

 加護のリボンは、えっと。神様とお話ができるそうです。可愛い花がついたリボンは、ローブのリボンとおそろいです。

 まさにこれは全身コーディネート的な感じになっていくのではないだろうか。



「とりあえず、明日はそれを装備すれば大丈夫そうだね。というか、ずっとその装備で良いくらいだよ」

「そうかな?」

「そうだよ。でも攻撃は3回限定か… 戦闘は弓3回だけにしておく?」



 あ、そうか。これがあれば毒薬は特に必要はなさそうだもんね。

 うーん…どうしようかな。でも怖いし、最初の戦闘が毒で…っていうのもなんだか気分が良いものではない。と、思うのです。



「やっぱり最初だし、明日は弓を3回使ってみるよ」

「ん、それがいいかもね」

「うん。よろしくね!」



 これで明日の準備が整いました。毒薬に関しては必要ないなら作らない方が良いと思い、材料は地下室にしまっておいた。







 ◇ ◇ ◇



「ちょ、ひなみ様! 弓だからその場で引けば良いんだよ」

「あ、そっか、そうだよね!」



 翌日、早い時間に私とイクルは家を出た。

 雨が降らなくて良かったと思いつつ、そういえばこの森はあまり雨が降らなかったなと思う。そういう地域なのか、それとも迷いの森の特性だったりするのだろうか。



 そして現在、私はスライムと向き合っているのです。

 家から15分程度歩いた時に、突然現れたスライム2匹。イクルがスライムを止めてくれているので、私が加護の花弓矢でスライムを射るのです。

 ただ、慣れない為か前に歩いてしまいイクルに注意をされる。思わず突っ込んでしまった、というやつです。



「よし、まずは1匹狙っ…わなくても必中だから当たるのか」

「俺の左足で止めてるスライムから倒したら良いよ。上手くできれば、右足のスライムね」

「うん…!」



 私は弦に指をかけ、思い切りひっぱった。すると、その部分に花をあしらった矢が現れた。矢じりの部分には尖った木の実、矢羽は葉で出来ていた。



「いっけー!!」



 弦を持った右手を離せば、矢は真っ直ぐにスライムへ向けて飛んで行った。その距離は約5メートル程。

 そのままイクルの左にいるスライムに、矢は見事命中した。



「あ…! やったよ、イクル!!」

「いや、おかしい…!」

「えっ?」



 あ、矢…が、刺さっていない?



「違う! 矢がスライムを貫通したんだ!」



 イクルの声が私に届き、どうなったのかが分かる。そうか、矢は、スライムを突き抜けたのか…! じゃあ、矢はどうなったの?

 一旦、矢は空を舞い向きを変え地面に向け急降下を始めた。いったい何がと私が思い巡らせるよりも早く。矢は、もう1匹のスライムに突き刺さった。



「うそ……!?」

「何この矢…反則だね」



 結果、1本の矢が2匹のスライムを仕留めた。スライムが消え、残った矢はそのまま地面に根付き植物となった。

 ……え? 矢が植物になる??



「何でもありだね。まぁ、ここで考えても仕方が無いし進もうか」

「あ…うん……」



 スライムは特にアイテムを落とさなかった為、そのまま道を進んで行くことにした。

 というか、初めての戦闘をしてしまいました! 魔物はイクルが止めてくれていたから、私は矢を射るだけ。それだけだけど、すごく緊張したのですよ。あ、手に汗かいてる!



「ひなみ様、大丈夫?」

「うん、大丈夫!」

「わかった。何かあればすぐに言いなよ」



 私の様子を気遣い、イクルが声を掛けてくれる。なんだかお母さんみたいだ。

 森の中をゆっくり少しずつ進み、少し大きな岩があった所で休憩をすることにした。





「ほら。サンドウィッチと、お茶ポーションだよ」

「ありがとう〜! お腹ペコペコだよ」



 サンドウィッチを受け取り、パクリと口に含む。うぅん、美味しい! 隣に腰掛けたイクルも同じく食べ始める。少食の様で、いつも私と同じくらいの量しか食べない。男だし、もう少し食べたら良いのに。ちなみに、遠慮してるのでは? と、スープを具をたくさんよそってみたら微妙な顔をされた。



 食べ終わってお茶を飲んでいると、不意にイクルが茂みの奥に視線を向けた。

 これは…何かいる!



「ハードウルフが2匹だね。ひなみ様、行ける?」

「ん、まかせて!」



 私は弓を構えて、いつでも来い! と体で示す。それを見てイクルが頷き、棍を構える。



『グルルル!』



「ひなみ様、もう射って良いよ」

「分かった!」



 イクルの言葉を聞いてすぐに、私はハードウルフに向かって矢を放つ。真っ直ぐに1匹に刺さり、ハードウルフと矢が消えた。

 あれ…今度は貫通しない!?



「そうか… スライムよりハードウルフの方が強いから1矢で2匹は倒せないんだ!」

「あ、なるほど…!」



 ならば、もう1回…矢を飛ばせばいいってことだね…! 私は弦に指をかけ、再度大きく弓を引いて矢を放った。

 本日3回目の矢は、残ったハードウルフ目掛けて一直線に飛んで行った。



『ギャウッ!』



「あ、倒した…!?」

「みたいだね。大丈夫?」

「うん。私は大丈夫だよ!」



 倒した…!

 やった、あのハードウルフを倒したよ! いや、ほとんど神様のおかげなんだけども。でもでもやっぱり嬉しいのです。

 ありがとうございます、神様。



「じゃあ、もう攻撃手段は無いから気を付けてね」

「ん、分かった」



 弓の攻撃回目の3回を全て使った為、私はもうイクルについて行くだけです。

 最初に森に来た時と同じ様に、イクルが木々をよけ、道を慣らしながらゆっくりと進んでくれる。なんだかんだでそっけなさげなイクルだけと、とても優しいのです。







 ◇ ◇ ◇



「やっと森の外だね!」

「ん、でもここからは歩くよ。途中で乗合馬車が通れば街まで乗って行くことも出来るんだけどね」

「あー…確かに。まぁ、とりあえず歩こうかっ!」

「疲れたらちゃんと言うんだよ」

「うん、分かった!」



 やっとやっと、街までの道が見えてきた気がしますよ。いや、まだ街は遠くて視認出来ないんですけどね。



 なんとなく、レベル上がったかなぁ? と、思いつつも私とイクルは街を目指して歩き始めるのです。





 〈 楠木ひなみ 〉


 15歳

 Lv. 3


 HP 50/50

 MP 65/76


 ATK 10

 DEF 16

 AGI 21

 MAG 33

 LUK 84


 〈スキル〉

 神様の箱庭

 光の狂詩曲ライト・ラプソディア

 天使の歌声サンクチュアリ


 〈称号〉

 リグリス神の加護

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