第23話 箱庭の扉 - 3
私は部屋に戻った後、街に行ったらどうしようかとわくわくが止まらなかった。
イクルは「ひなみ様の好きにしたら良いよ。俺はどっちでも良いし」と言ってくれた。
なんだかイクルには頼りっぱなしになってしまっている。うぅん、なんだろう、19歳なのに私より大人っぽいよ。
「でも、お店ってことは私が店長だよね?」
まさか私が店長だなんて!
可愛い作りのお店にして、私の作った
後は、店内にスペースを作ってお茶とかも出して見たりして! それでケーキも出して、街で評判の喫茶店に。お茶をしに来てくれる人と楽しく話をしながらお店をするの。
あぁ、夢が膨らみます!
「あ、お店の名前も決めないとだね!」
うぅん…そうだなぁ。可愛い名前が良いよね。あ、お菓子の名前とかどうだろう? ここで“ましゅまろ”を採用したら良いんじゃないだろうか!
あれ、でもこの世界にマシュマロは無いだろうし…そう考えると微妙かな?
そうしたら、何が良いんだろう。一応メインに売るのは
神様にも聞いてみて、明日イクルにも相談してみよう。そうしよう。
- - - - - - -
今日も新しいことがたくさんありました!
ポイントで交換した魔力マングローブ、すごいですね! 姫の木の実を食べたらすごくすっごく美味しかったです。
姫の実を材料に作った姫の加護薬も炭酸水で、姫の実を入れたらすごく美味しくて、とっても幸せな気持ちになりました。
神様にも食べて貰いたいです。
それから、箱庭の扉を設置したら街にお店を開きたいなと思っています。よくよく考えれば、今の私って…ニートですよね?
貯金もしつつ、将来も考えつつ頑張って行きたいと思います!
それで、神様に相談です。お店の名前が中々決まらなくて。といっても、考え始めたのは今日なんですけどね。何かおすすめの名前があったら教えて下さい。私、ネーミングセンスが無いみたいで…。
後は、ちょっと怖いんですけど…落ち着いたらレベルを上げようと思います。
さすがにレベル1で女神様の住む所に行けるとは思えませんから…。
頑張りますね!
でも、まだポイントが貯まっていないのでそれからですね。なかなか先は長そうです。
ひなみ
- - - - - - -
パタンと交換日記を閉じてベッドへと寝転がる。神様との日記も、もう2年です。
長い様な、短い様な2年。
私はこの2年で、少しは神様の役に立っているのだろうか。そもそも、私が神様のお役に立てるなんて、それこそが夢の様なのに。
私はうとうとしながら、眠気が襲ってくるのを感じる。先程お風呂に入った為、まだほかほかしている私の身体はこのまどろみに対抗出来る術を知らない。
あ、そういえば…イクルがお風呂を気に入っているなら増築するのもいいかなと思いつつ、私は意識を手放した。
◇ ◇ ◇
チュンチュンと、何時ものように鳥が朝を私に教えてくれた。まだ眠たいが、起きないとイクルに心配させてしまうかもしれない。
大きな欠伸を一つして、大きく背伸びをする。うん、今日も頑張りましょう。
タンスから服を取り出そうとすれば、何やら新しい服が増えている。神様が補充してくれたようだ。
「これは…ハーフパンツに、上は可愛い猫柄のパーカーだ! こんな動き安そうな服は初めてな気がする…!」
私はさっそく袖を通す。パーカーの下にはTシャツを着て、靴下もパーカーと同じ猫柄の物が補充されていたのでそれを履く。
動きやすい服なのに可愛いとは…さすが神様です。フリルを使わずデザインで可愛さを出すなんて!
「っと、日記の確認をしなきゃ」
【交換日記】 =3ポイント加算
【所持ポイント:25,019】
【鉢植え:小】 1
【鉢植え:中】 10
【鉢植え:大】 20
【野菜の種セット】 10
【果物の種セット】 10
【ハーブの種セット】 10
【小麦の種】 50
【稲の種】 100
【レンガ:1個】 5
【噴水】 1,500
【テラス席セット】 3,000
【瓶:100個】 3
【部屋】 50
【お風呂 - 増築】 5,000
【部屋(ひなみ) - 増築】 2,000
【部屋(イクルの) - 増築】 2,000
【屋上 - 増築】 10,000
【地下室 - 増築】 30,000
【調合室 - 増築】 15,000
【箱庭の扉】 50,000
New!【ひなの冒険セット】 500
- - - - - - -
おはよう、ひな。
毎日お疲れ様だね。でも、あんまり無理して体を壊さないように気を付けてね?
姫の実を始め、〈レティスリール〉にはおいしい食べ物がたくさんあるんだよ。
日本と違うのは、調理済みよりも素材の果実が美味しいことかな。調味料や料理方法は日本の方が大分発達しているからね。
色々美味しい物を見つけてみてね。
それから、お店をやるんだね。
ひなの
お店の名前は…そうだね。僕からアドバイスをするよりは、きっとひなが頑張って考えた方が良いと思うよ。僕がこの名前! って言ったらその名前になっちゃいそうだし。
きっとひななら可愛いお店に出来るから、頑張ってね。
それに、ましゅまろも可愛いと思うよ?
あ、そうそう。
ポイントで交換出来る物に、冒険用のセットを追加しておいたよ。
レベル上げに行くなら持って行ってごらん。きっと役に立つ物が入ってるから。
- - - - - - -
冒険セット!
しかも私専用だ。どうしよう、とりあえずまだレベル上げには行かないから、もう少ししたら交換をしよう。
でもでも、神様ありがとうございます!
神様の心遣いがとても嬉しい。
「よし、今日も頑張るぞ〜!」
ルンルン気分で階段を下りてリビングへ向かう。すると途端に美味しそうな匂いがただよってきて、イクルが朝ご飯を用意してくれたことを知る。
「あれ、でもイクルがいないな…」
庭かな?
「むむ、庭にもいないぞ?」
どこに行ってしまったのだろうか。
イクルの分の朝食もあるから、まだ食べてないってことだよね。そう考えると森の方へ出掛けた…というのも考えにくい。
と、考えていると地下から何やら音がしていることに気が付いた。イクルが地下にいるのだろうか?
「イクルー?」
名前を呼びながら階段を下りれば、イクルから「何ー?」と返事が聞こえた。
何で地下室にいるんだろう?
「何してるの?」
「何って、整理してるんだよ」
種類ごとに纏められた
「もう何も置けないかもくらいいっぱいだったのに…すごい!」
「丁寧に置いてやれば、このくらいのスペースは出来るよ」
「ごめんね、ありがとう!」
私の前には、地下室の3分の1程のスペースが出来ていた。いくら小さい
そんな中、スペースを作ってくれたイクルは凄い。私だったら挫折していたかもしれない…です。
「整理しとかないと、売る時にも困るしね。取り敢えず、朝食にしようか」
「うん、そうだね」
なんだか、私よりもイクルの方がお店の為に頑張ってくれていて申し訳なくなる。
はっ! それならば…お店の名前は“ショップいくるん”とか…! いや、絶対怒られる。
「今度は何さ」
「んー お店の名前をどうしようかと思って」
「あぁ…確かに必要だね」
「何か良い名前ある?」
私が言葉を投げれば、イクルが少し考えてくれているようで「うーん…」と聞こえた。
私はスープを飲みながら、自分の考えた残念な名前候補を頭から消して行く。
「ちなみにひなみ様の案は?」
「……ショップいくるんとか、薬術師屋とか、ましゅまろとか」
「………」
あ、呆れを通り越して表情ないですイクルさん。
「ひなみ様の名前を使って、“
あれ、今私の案を聞かなかったことにしませんでした? 何の返事もなくさらっとイクルの案を伝えられた。いや、良いんです。だって私にセンスが無いのは分かっているのですから……。
「可愛いけど、自分の名前が入るのは恥ずかしいよ……」
「そう? 商人が自分の名前を店に付けることなんて良くあるけど」
「うーん…」
確かにそう言われると、会社名やお店に自分の名前を付けてる人は日本でも多かった。なんだろう、皆自己主張が強いのだろうか。って、そうだよね、自己主張が強くないと弱肉強食のこの商売世界で生き残れ無いよね。
でも自分の名前入りか。
というか、これは案に私が小さいと言っているのでは無いだろうか…? 箱庭でミニチュアガーデンなら、英語ですねーで終わるけども。私の名前も含めてだとミニチュア部分に掛かっているとしか思えない!
「あれ、私が小さいってこと?」
「まぁ、そうとも言うね」
「ぐぬぬ…」
「小さくて可愛いし、良いんじゃない?」
「え……」
えっ?
「可愛いお店にするなら、ニュアンス的にも良いかと思ったけど」
「あ、そっか、そうだね!」
「じゃあ、決まりね」
あれ?
私が可愛いって言われたんじゃなくて可愛いお店にするって言われたのか…!
ちょっと一瞬どきっとしてしまった。私の勘違い阿呆ですね…へこむ。
と、動揺したら名前が決まってしまいましたよ…! うーん…まぁ、雰囲気も可愛いし、この名前で良いか!
よし、
◇ ◇ ◇
さて。
イクルがククリの木を探しに森へ出ています。私は勿論お留守番です。
取り敢えず、お店を出すには箱庭の扉をゲットしないと始まらないのです。その為には、ポイントが25,000程必要な訳です。
「おぉ、ナイスプレーだよまろ!」
『みぃ〜!』
姫の木の上で飛び跳ね、まろが実と花を落として行く。そして私が《
私はこれで一気にポイントを稼ぐのです。
ふふ、これで私も働く大人っぽい。
「《
『みっ!』
「《
『みっ!』
「《
『みっ!』
「《
『みっ!』
「はぁはぁ…」
『み?』
「さ、さすがに疲れたよ」
『みぃ』
まろの元気は無限大なんだろうか。
何度目かの《
「はぁ、ちょっと休憩しようまろ〜」
『みぃ〜!』
ゴロンとその場に寝転がり、ふかふかの草が私を受け止めてくれる。まろも私の横に来て草の上に寝転がり、とっても嬉しそうだ。
風が優しく吹いて、私とまろをそっと撫でていく。疲れた私の身体はその風に大分癒される。いや、結構汗をかいたので心地良いのですよ!
『みっ!?』
「ん? どうしたの、まろ」
『みみみみみっ!!』
「えっ!?」
ま、また魔法を使うのだろうか!?
まろの様子がいつもと違い、どうやらかなり興奮している様に思う。
しかし、魔法を使った時とは様子が違う。今の様に、こんなに興奮はしていなかった。
ならば、何がまろをこんなにさせるの…?
「あ、上…?」
『み!』
まろが空を見上げて興奮していることに気付く。もっと周りを見ないといけないと思うが、今はそんなことを反省している暇はない。
「ひなみさ〜ん!」
あれ?
私が空を見れば、なんとそこには何時ぞやのドラゴンがいましたよ…! それに、懐かしい女の子の声。
私が見上げてもドラゴンしか見えないが、その声を間違えたりなんてしない。だって、その声は私が初めてこの世界で聞いた声。
「シアちゃん!!」
私は勢い良く立ち上がり、大きく友達の名前を呼ぶ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます