第21話 箱庭の扉 - 1
リビングの机に座り、
向かいにはイクルが座り、同じく私がめくる本を眺めている。
どうやらイクルは紅茶が好きらしいことに気付いた。気付くと飲んでいることが多い気がする。あ、でも砂糖はあんまり入れていないみたい。トドストレート派なんだろうか。私は甘い紅茶のほうが好きです。
「特殊
「なるほどね…」
《毒薬》
毒草・蛇のうろこ・水・瓶
《解毒薬》
ククリの実・魔力水・瓶
《麻痺薬》
麻痺草・狼の牙・水・瓶
《解麻痺薬》
ククリの花・魔力水・瓶
《睡眠薬》
睡眠草・蝶の羽・水・瓶
《解睡眠薬》
ククリの葉・魔力水・瓶
《姫の加護薬》
姫の実・姫の花・魔力水・瓶
《王子の加護薬》
王子の実・王子の花・水・瓶
《
薔薇色草・白色草・王子の実・水・瓶
《
菖蒲色草・姫の花・魔力石・魔力水・瓶
「知らない材料ばっかりだ…」
困ったな…というか、解毒薬ならまだしも毒薬が作れるってどうなの? 恐いです。
あ、とりあえず“姫の木”は魔力マングローブに使われている木だよね? となると、姫の加護薬は作れそう。でも、庭の姫の木には実も花もないなぁ…《
イクルをチラ見すれば、私以上に真剣に本を読んでいた。長い睫毛にさらさらの髪。うぅん…憧れるなぁ。私は平凡ちゃんだからな…まぁ、美女になりたい! とかって言うわけではないんだけど、少し憧れる。
「んー… 毒草は迷いの森に生えるから、探せばあると思うんだよね。でも、作るとなると解毒薬がないと危険だね」
「えっ! 毒草あるの?」
「うん。毒草は迷いの森と、少し大きい…中規模くらいの森から生えてるよ。今住んでるこの森の浅い部分には生えてないけど」
な、なるほど…! 勉強になります。
となると、ククリの実…っていうのが必要なんだね。名前は何だか可愛い…本に載ってる絵によると、丸い木の実。上の部分が黄色くて、下のほうがオレンジ色になってる不思議な色合いをしている。
やっぱり特殊な物で、この辺りにはないのかなぁ…
「ククリの木は… 稀に浅い森にも生えているけど、この辺りはどうだろう」
「割りとどこにでもある木なの?」
「そう。俺の腰くらいの高さかな… そんなに大きくない木だよ。特に生息地に制限は無いんだ。探しに森に行ってみるよ」
「えっ…」
「ちょっと、そんな顔しなくても大丈夫だよ。ここには雑魚の魔物しかいないんだから」
あ、そっか…そうだ、イクルは強いんだった。
いや、強いのは分かってるけど、やっぱり魔物は恐いじゃないですか。
「うぅ… じゃぁ、お願いします。でも、無理しないでね?」
「分かったよ。ひなみ様は紅茶でも飲んで待ってれば良いよ」
イクルの言葉にひとつ頷いて、「絶対無理しないでね!」と念を押す。
病気も怪我も、誰かが傷ついたりするのは嫌なものなのですよ。
「とりあえず… 今から近くを見てくるよ。1時間ほどで帰ってくるから」
「え、もう行くの!?」
「すぐそこだよ。あ、迷いの森だし一応
「全部もってって良いよ…!」
「何個あると思ってるのさ。1個あれば良いし、適当に持って行くよ」
「ん、わかった。いっぱい持ってって」
そのままイクルが地下室に行き
私も一緒に庭まで出て見送りつつ、イクルが帰ってくるまで新しい
「えっと…“姫の木”の実と花があれば姫の加護薬を作ることが出来るんだよね」
魔力マングローブに生えている姫の木をそっと撫でながら私はじっくりと観察する。うーん…今はたくさん葉が付いているだけで、花が咲く様にはあまり見えない。でもどんな花が咲くんだろう。綺麗な花が咲くのかな、可愛い花がさくのかな…?
「きっと綺麗な花が咲く気がする。だってお姫様の木だもん。《
とたん、姫の木が大きく揺れて…花が咲いた。
本当にそれは一瞬で、天使が舞い降りたかのような奇跡。姫の木に咲いた花は白とピンクの可愛らしい花だった。花の中央にはコロネットが模られていて、その花の下についている葉はドレスを思わすようにひらひらしている物だった。
あぁ、そう、本当に…お姫様みたいなお花。
「そうだ、摘まないと…! っと、そうだ…実もいるんだった」
どうしようか。このままもう一度スキルを使えば良いのかな? それとも花を摘んでからもう一度スキルを使ったほうが良いのかな?
「いいや、このままで! 《
私の声が木々の合間を通り抜け、姫の木の花までその声を届けてくれる。
すると花の下に実がついた。
「おぉぉ~!」
宝石みたいにきらきら輝く実をそっと手に取り、じぃっと見つめてしまう。何でこんなに輝いているんだろう…? あ! 太陽の光に反射してきらきらしてるんだ。姫の木の実は、表面がつるつるして、お姫様がつける装飾品のようだった。
あれ… これって食べられるのかな? 美味しそうな実をみつつ…いや、ここは我慢をした方が良い。毒でもあったら… いや、でもイクルは毒があるなんて言ってなかったし、作れる
私、こんなに好奇心旺盛だったかなぁ…?
いや、駄目だ。そうだ、イクルが帰ってきたら一緒に食べようそうしましょう。
「イクルが頑張って働いてくれてるんだし、私も頑張ってポイントを稼がないといけないね!」
しかし…どうしようか。
姫の木の高さは3メートル程。私が先ほど採った実の様に下のほうに生ってくれていたら良いんだけど、私の背では届かないところにたくさん実が生っているのです。もちろん花も。
スキルを使用して下のほうの実と花だけど採るのも…微妙だよね。かといって梯子はないし…うーん。とりあえず梯子は神様に交換日記でリクエストをしてみよう。
ぽとっ!
ん?
「実が落ちてきた…?」
私の足元に姫の木の実が落ちてきた。あ、一緒に花も付いてる。なんだろう、自然に落ちたのだろうか…? 上を見上げれば、原因が分かりました。
「まろ!」
『みぃ~!』
「木の実を落としてくれるのっ? ありがとうー!!」
『みっ!』
すごい! うさぎって木登りが得意だったんだね、知らなかったよ…!
雪うさぎのまろはすいすいと木の枝を渡り歩き、枝を揺すって実を落としてくれている。その重さと一緒に花も地面に落ちて一石二鳥です。しかもさすが魔力マングローブ。川の中にもかなりの数の実が落ちて、これは運ばなくて良いのでは? と、堕落方向に私の思考が動いていく。
とりあえず、瓶を持ってこないといけない。けど、さすがに1人でここまで瓶を持ってくるのは大変なので、交換日記を持ってきてここに瓶を用意して貰うことにした。
【瓶:100個】 3×5個 =15ポイント使用
【合計:15ポイント使用】
【所持ポイント:20,031】
「うん、これで良し!」
魔力マングローブの横に瓶を置き、魔力水は川の水として流れている。そしてその水の中にはまろの落としてくれているたくさんの姫の木の実と花。数は…30個程度あるかな? とりあえずはこの数で試しに姫の加護薬を作ってみよう。
「あ、そういえば姫の加護薬の効果が分からないや… 魔力関係だとは思うんだけど…魔法の力が上がったりMPが増えたりするのかな? 確か本にも書いてあったけど、私は材料しか見てなかったや…後で見よう。とりあえず…すごい
私の声に応える当に光り輝き、足元においておいた瓶にいつものように
「あれ、姫の加護薬が…300個出来てる?」
私の足元にある瓶が100個入った袋は3つ。そのうち3袋の瓶が変化し、姫の加護薬になっていたのだ。実と花は30個ほどあったから、つまり実と花1つで姫の加護薬が10個作れるということ?
でも…たしかにこの実と花1つでたった1つの姫の加護薬しか作れないのは物質の量的に微妙。なるほど、そう考えればたくさん出来たのも納得だ。
…ということは、この調子でがんがん行けばたくさんの姫の加護薬ゲットのチャンス…! ようし、頑張ってイクルを驚かせちゃうぞ!
「《
姫の木にもう一度スキルを掛け、たくさんの花と実を咲かせてくれる。すかさずまろが枝の上を縦横無尽に飛び回り花と実を私の元へと届けてくれる。
うん、私とまろの連携プレー…! 息ピッタリ、相性もバッチリではないでしょうか…! そういえば、花とゲームをやっていたときはあまり連携できなかったなぁ。でもあれは花が上手すぎたのがいけないね…! 最後の方は花が私のフォローをすることに徹していたし…! 私は接待プレイをされたいわけじゃないんですよ!
「っと、いけないいけない。《
何度かポイントと瓶を交換して、黙々と姫の加護薬を作り続けた私とまろ。それはもう、きっとすごい集中力をもって作業にいそしんでいたんでしょうね。イクルに声を掛けられるまでノンストップで姫の加護薬を作り続けていましたよ。
足元を見れば、一面姫の加護薬の詰まった袋であふれていた。数なんて恐くて数えられません。あ、でも姫の加護薬の瓶は他のものより丸い形になっていて、コロネットの形が模ってある可愛らしい瓶です。
「呆れた…何やってるのさ」
「いや、あはは…」
ついに呆れ顔だけではなく言葉でも呆れたとお墨付きをいただいてしまいました…!こんなはずではなかったのに…!
「夢中になっちゃって…」
「まぁいいけどさ… そんなにスキルを使って身体は大丈夫なの?」
「え…?」
身体…考えたことも無かった!
でも私の身体は特に異変もないし…うん、大丈夫そう。心配してもらえるとか、ちょっと恥ずかしいね。私は「大丈夫」とイクルに伝えて、心配要らないとくるっと回って見せた。
「ならいいけど。って、これ姫の加護薬じゃない。1、2、3……10袋もあるんだけど。1,000個も魔秘薬作った訳?」
「あ…そうみたいだね…!」
イクルはしっかりと数を数えてくれたみたい。私みたいに現実逃避をするタイプではないのですね…しっかりさんです。
【瓶:100個】 3×5個 =15ポイント使用
【合計:21ポイント使用】
【魔秘薬調合:特殊】 5×1,000個 =5,000ポイント加算
【合計:5,000ポイント加算】
【所持ポイント:25,016】
「このペースだと…すぐに箱庭の扉ゲット出来そうだね!」
「確かに。まぁ、便利なことにこしたことはないから良いけどさ」
っと、イクルが何か持っていることに気付いた。もしや、毒草かククリの木なんだろうか?
私の視線に気付いたイクルが「ちゃんと見つけたよ」と、その袋を受け取る。これは…そうだ、葉っぱがすごい縦ロールばりに渦を巻いてて、根元に1枚だけ普通の葉が付いている“毒草”だ! 毒という割りに、綺麗な黄緑の葉は言われなければサラダにしてしまいそう。
袋には毒草だけが…20本程入っていた。
「ククリの木は見当たらなかったんだけど、毒草がちょこちょこ生えてたから…とりあえず摘んできたよ。まぁ、間違って食べなきゃ大丈夫だよ」
「そっか。ありがとう、イクル。でも毒薬なんて何に使うの? 物騒だよ」
「まぁ毒薬だから…暗殺とか?」
「えっ…!」
「冗談だよ。この毒薬は人間には効果が薄いから、まず死人は出ないよ。ただ、魔物には即効性の毒だから、剣先や弓に塗ったりして使うことが多いかな。ひなみ様もレベルを上げたいなら、石にでも毒薬塗って魔物にぶつければ良いよ。…弓だとなんか危なさそうだし」
「おぉぉ…そんな倒し方があるんだ!」
私に弓を持たせると危ないのはスルーしてあげましょう。中身は大人ですからね、一応!
でも…レベルかぁ。確かに森に住んでるし、レベル1では不安もある。それに、女神様に会いに行くのであればこの森より危険な場所へ行くことになる。となると、やっぱり私のレベル上げは課題の1つなのではないだろうか。
とりあえず私とイクルは、大量の姫の加護薬を地下室に運ぶという面倒なミッションを行うのであった。
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