第18話 ひなみとイクル - 6
翌日になり、私は交換日記を開きながら昨日のことを思い出す。
イクルが家に来て、雪うさぎとモーも家に来ました。ちょっと賑やかになった私の生活は、まるで枯れていた花に水をたっぷりとそそがれたよう。嬉しいけど、多すぎて逆に困惑してしまう。これは…きっと贅沢な悩みなんだろう。
「ふふ…」
お風呂を見たイクルの反応を思い出して、思わず1人笑ってしまう。思い出し笑いなんて、この世界に来てから初めてかもしれない。
『何このお風呂すごい…! 毎日入っていいの?』
『もちろん』
『わぁ…』
そんな会話を思い出す。
どうやらイクルはかなりのお風呂好きのようだ。うん、線の細いイケメンさんだもん。見慣れた呆れ顔ではなく、目がきらきらと輝いていた。こうやって少しずつ打ち解けたら良いな。
さて、交換日記を見なければ。神様に、イクルにどこまで話して良いのかを聞いたのだ。私の判断で勝手に話すのは、きっと良くないです。
【交換日記】 =3ポイント加算
【所持ポイント:30,146】
【鉢植え:小】 1
【鉢植え:中】 10
【鉢植え:大】 20
【野菜の種セット】 10
【果物の種セット】 10
【ハーブの種セット】 10
【小麦の種】 50
【稲の種】 100
【レンガ:1個】 5
【噴水】 1,500
New!【魔力マングローブ】 10,000
【瓶:100個】 3
【部屋】 50
【お風呂 - 増築】 5,000
【部屋(ひなみ) - 増築】 2,000
【部屋(イクル) - 増築】 2,000
【屋上 - 増築】 10,000
【地下室 - 増築】 30,000
【調合室 - 増築】 15,000
【箱庭の扉】 50,000
- - - - - - -
おはよう、ひな。
ちゃんと鍵を掛けて眠ったみたいで一安心だよ~!
そうそう、イクルへの説明についてね。
これはひなの判断で伝えて貰って構わないよ。
神である僕のことを話しても良いし、いい感じにぼかして伝えてもらっても構わない。もちろん、ポイントのことも話して大丈夫。
ただ、誰にでも話す…というのは止めるんだよ? ひながこんなことが出来るなんて噂が広まったら…狙われちゃうからね。
だから…ひなが、絶対信頼出来る人になら全部話しても良いと思うよ。
- - - - - - -
むむ。
どうやら判断は私に委ねられているようだ。
イクルが信頼出来る人かどうか…? 出来ると思うけど、さすがに全部話すのは不味い…よね? だって、まだ知り合って少しだし。話していくのはゆっくりで良いかな。
とりあえず…今日の予定を考えよう。
その1。イクルへ家のことを説明する。
その2。
その3。雪うさぎと遊ぶ。
それから、ポイントに新しいのが追加されている。魔力マングローブって何だろう。マングローブは、あれだよ。沖縄とかにある、水の上にある木…? のことだよね。使用用途が分からない…でも10,000ポイントは多いな。街へ行くから箱庭の扉で使うポイントも貯めないといけないし…でも気になる。
「いや、ポイントなんてすぐたまる…!魔力マングローブ欲しいです!」
【魔力マングローブ】 =10,000ポイント使用
【合計:10,000ポイント使用】
【所持ポイント:20,146】
これで良し!
きっと“マングローブ”なんて名前だし、庭にでも出来ているに違いない…たぶん。
とりあえず、クローゼットから着替えを取り出す。今日は雪うさぎと遊んで、
なんちゃってスカートのキュロットに、背中にリボンの付いているトップスは柔らかいオレンジ色だ。外に出るから帽子もあったらいいかな…うん、カンカン帽も持っていこう。
「あれ、イクル早いね! おはよう」
「おはよう、ひなみ様」
階段を下りてリビングに行けば、イクルが迎えてくれた。
…あれ?
イクルの髪が若干濡れている気がする。お風呂にでも入っていたのだろうか?
そう考えるとまた笑いが込みだしてきた。
「…何笑ってるのさ」
「うぅん、別に。朝ごはんにしよう…って」
「作っといたよ。スープと目玉焼きとパン」
「ありがとうー!」
まさか起きたら朝ごはんが出来ているなんて夢にも思わなかった…! イクルさん良いお嫁さんになりますよね。私も負けていられない…! 明日は私が早起きして作ってイクルを驚かそうっと!
「やっぱり朝はこの組み合わせだよね」
「まぁ、一般的だとは思うけど。でも、地域によってはお米だったりもするらしいけどね」
「お米の朝ごはん! 良いね!」
「あれ、お米を良く食べる地域出身か何かなの?」
「あー… どっちかっていうと、パンよりは多かったかなぁ?」
「ふぅん…」
イクルの作ってくれたスープは昨日同様とても美味しい。昨日は野菜ごろごろ具沢山スープだったけれど、今日はトマトスープです。トマトのスープってこんなに美味しいんだ…!
日本にいたことは野菜切って入れて、コンソメを~っていうのが多かったなと、思い出す。いや、手抜き…ではないはず。だってコンソメスープ美味しいです。
全て残らず完食し、食器を片付ける。
「イクル、家の説明をする前に雪うさぎちゃんと遊ぼうよ!」
「ん、別にいいけど」
私は勢い良く庭に飛び出そうと扉を開け、停止した。
すぐにい変異気付いたイクルが私より先に庭へと出た。
「まんぐろーぶ…!」
「魔力マングローブ…!」
「「えっ!?」」
私とイクルの声が見事に重なった瞬間だった。
しかし、イクルが「魔力マングローブ」と言ったということは、この世界に当たり前に存在する物なんだろうか。
家を出て左手に、6本の小さい木…といっても3メートル程度だろうか。それが生えていて、根元から水が溢れ出ていた。湧き水…というやつだろうか。それは少し川のように流れて、2メートルほど流れた後先に有る木の根元に吸い込まれていた。
…なんとも不思議な現象ですね。つまり、5本の木の根元から湧き水が溢れ出て、2メートルほどの川になっています。その小さい川の先にも1本の木があり、そこに水が吸収されていって川が終了しているのです。
まさにミニマングローブのようです。
「って、イクルこれ何だか分かるの?」
「これは“魔力マングローブ”って言って、ここから湧き出る水は、この木…“姫の木”によって“魔力水”になる。ちなみにこの水にふれた石は稀に魔力石になるよ」
「ひめのき…?」
「そう。深い森や山の中にしかないはず…なんだけどね?」
「えっ…」
イクルの目が私に「どういうこと?」と訴えているような気がしなくもないです。
「えぇと… なんて説明すれば良いかな」
「まとめるんでしょ? その時まで何も聞かないよ」
「う…わかった。今日中にまとめるから!」
「期待しないでまってるよ」
なんだかんだで、イクルは優しいのです。
契約をしているからかもしれないけど、なんだろう、雰囲気なのかなぁ。口調は結構投げやりなんだけど、まったく嫌な感じがしない。不思議。
「とりあえず、この水が魔力水なんだね」
「そう。姫の木は水を吸い上げ、循環させる。その工程で魔力が水に含まれる。それがまた川に戻されて“魔力水”となるんだ」
「へえぇ… すごいんだね」
しゃがんで水にふれてみると、すごく冷たい…!
「イクル! すごい冷たいよ!」
「魔力を帯びた水は冷たくなるんだよ」
「イクル物知り!」
あれ、この水って飲めるのかな?
日本人的には、あれですね。水は危険だからそのまま飲むな、せめて沸騰させてから飲め! という暗黙のルールがあるような気がするのですよ。
『みぃ~』
「あっ!」
雪うさぎが…魔力水飲んだ…!!!
美味しいのかな?
「別に綺麗だから飲んでも平気だよ」
「おっと…」
「飲みたいんでしょ?」
どうやらイクルには全てお見通しだったようだ。
だってちょっと気になるじゃないですか。
山とか自然がすごい綺麗なところに行くと、飲める湧き水がある。それって飲みたくなりません?なりますよね。これはそういった現象なんですよ! ただのミーハーかもしれないですが。
「…冷たくて、美味しい」
「うん」
「それから…若干甘い?」
「あぁ… 綺麗な魔力水は甘いんだ。その魔力マングローブが綺麗な証拠だよ」
さすがは神様のポイントで貰った魔力マングローブ! 性能はバッチリのようです。
雪うさぎも美味しそうに飲んでくれてるし、勢いあまって作った感じはあったけど、作って良かった!横ではイクルも水を飲んでいてその甘さに驚いている。
「でもまさか、天然の魔力水を見れるなんてね」
「天然?」
「そう。魔力水は、魔力石を使って作る人工の魔力水と、姫の木が作り出す天然の魔力水がある。もちろん、天然の魔力水の方が質は圧倒的に良いよ」
「なるほど…! じゃぁ私が街で買った魔力石だと人口の魔力水が作れるってこと?」
「そう。せっかく買ったのに、これなら使う必要はないね」
確かに、と思い私も頷く。
せっかく天然の魔力水がこんなにいっぱいあるのに使わない手はない。今日から早速
蒼色草・魔力石の粉・魔力水・瓶
あ。
「魔力石の粉がいるんだ!」
「ん?」
「
「あぁ… 普通は魔力石を削って粉にした物なんだけど… この魔力マングローブの砂で代用できると思うよ」
「え、そうなの?」
私が驚きつつ砂をつかめばイクルがひとつ頷く。
なるほどなるほど…
「すごいんだね、魔力ローブ!」
「魔力マングローブね」
「あ、はい…」
勝手に略したらイクルに訂正されてしまった。
とりあえず、やることは
「イクル!
「ん、分かった」
私は井戸の横においておいた大きなお鍋を持ってきて、イクルに手渡す。それから昨日摘んだ蒼色草を用意して、庭のに丁寧に植える。便利そうなので、場所は魔力ロー…魔力マングローブのすぐ横にした。
お鍋をもったイクルは頭に疑問符を浮かべているようだか、気にしない。さすがにスキル《
「
「たくさん作るからね! イクルは、蒼色草を摘んでね」
「?」
「きっと、魔力マングローブの水と、君は相性が良いと思うんだ。大きく育ってね…? 《
「!?」
私の声と共に、1本しかなかった蒼色草は魔力マングローブを囲うように、数十本以上に増えた。うん、大分上達しました。
《
「ちょ… どういうことさ、これ」
「えへへ。私が使える少ないスキルのうちの1つだよ」
「スキル…?」
「うん。取り敢えず、摘んで摘んでっ!」
イクルに蒼色草を摘んで貰い、私はもう1
「あ、増やしすぎた!」
「もうお鍋いっぱいなんだけど…」
イクルの呆れた呟きが聞こえます。
というか、最初は驚いていたイクルだどもう驚いておらずマイペースな呆れ顔…! イクルは順応が早いのだろうか。大人です。
とりあえず、作るのに瓶が必要だ。地下室に瓶が…数千個あったはず。
「地下室に瓶があるから、取って来てここで作ろう」
「ここで…?」
これで良し。
イクルが瓶100個入った袋を3つ。私が1つ。合計400個の瓶を持ってきました。
しっかりと蒼色草と、魔力マングローブの横へと置く。材料はこの瓶、摘んだ蒼色草、それに魔力マングローブの魔力水と、魔力石の粉。でも、水に使ってる土で代用出来るなんてすごい。
「《
いや、本当…万能スキルです。
私のこの一声だけで、だいたい瓶の半分ほどが
もう1度イクルと一緒に蒼色草を摘み、
あれ、もしかしてもういい時間なのかな…?
チラリとイクルを見れば、やはりそこには見慣れた呆れ顔。
「もう3時間くらいたってるけど」
「えっ…!」
予想以上に時間が経っていたようです。
そしてイクルと私の足元に転がる大量の
……やりすぎた。
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