第12話 呪奴隷市場 - 2

 呪奴隷市場に大勢いる呪奴隷商。

 私は今、その中の1人から奴隷を買う、違った。契約をしようとしている…。

 あまり詳しくない、地球で知った奴隷とは違うこの世界の奴隷制度。



 《呪》を持つ者が、5年間人に従事するとその《呪》が解除される。

 その為、呪奴隷商に斡旋して貰い“従事契約”を私のような呪奴隷を必要としている者と結ぶ。そしてそれから5年従事することで、《呪》が解除される。

 《呪》については詳しく知れていないが、システム的な物はなんとなくわかった。

 つまり、呪奴隷商の立ち居地は日本で言う、所謂派遣会社なのではないだろうか。そこに登録した呪持ちの人が“呪奴隷”と呼ばれる。契約者は派遣先の企業だ。

 あれ、そう考えると割と普通のシステムに思える。でも“奴隷”という言い方が気になる。何故そんな悪い言い回しなのだろうか…?





 店主であるおじさんが薦めてきたのは、3人の呪奴隷。

 1人目はイケメンの気が強そうな男の人。金貨20枚。

 2人目は猫耳の獣人少年で、左腕が無い。金貨5枚。

 3人目は線が細い系? イケメン、前髪が長い人。金貨9枚。



「一応確認ですけど…女性の呪奴隷はいないですかね?」

「あぁ、やっぱり女の呪奴隷が良いか」

「あ、はい」

「すまんな、嬢ちゃんが緊張してるみてーだったから、俺なりのジョークってやつだったんだ。気分を悪くさせたならすまなかったな。それと、俺の店に女はいねぇんだ、悪いな」



 若干しょんぼりすると、おじさんが「すまんな」と声を掛けてきてくれた。

 というか、私の緊張を冗談で解こうとしてくれていたんですか…親父のシモネタは世界共通言語か何かなんだろうか? 疲れます。



「女で護衛が出来る呪奴隷は男よりも高くつく。それに、パーティをハーレムと勘違いしている馬鹿な冒険者が契約していくんだ」

「そうなんですね…」



 さて、どうしたものか。正直男性…っていうのは慣れないので女性にしようと思っていた。…けど、この通りを見る限り女性の数は少なかった。

 となると、やはりこの3人…いや、イケメンさんの1人は予算オーバーだから2人から選ぶべきか。契約出来るのは獣人の男の子と、何故か安い男性。

 今後について考えると… まず、“迷いの森”を抜けて家に帰る。その途中、魔物と戦ってもらう。私は応援係りです。となると…腕がないと危険なのでは?



「まぁ、女の子なら女性を希望するのも分かるがな。ところで嬢ちゃん、メルディーティ家の関係者か? さっき、クレフ様とアルフレッド様と話してただろ?」



 私がどうしようかと悩んでいるとき、おじさんからクレフさんとアルフレッドさんの名前が出てきた。あれ…確かに話してはいたけど…知り合いなのかな? 疑問符を浮かべたままおじさんをみると、続けて説明をしてくれた。



「あの2人は有名人だからな、この国で知らない奴はいねぇよ。さっきも嬢ちゃんが呪奴隷と契約をするって言ったとき、クレフ様がこの辺りいったいを睨みつけてたんだぜ。大事にされてんだな」

「えっ! 全然知らなかった…! そうなんですか?」

「おうよ。だから、誰も嬢ちゃんに変な奴隷は進めねぇよ、ハハッ! それに呪奴隷は魔力で契約するから主人に危険はないしな。もし気に入らなければ、3日以内であればこっちで引き取る」



 なんと、知らないうちにクレフさんからの援護が…! 今度会ったら、お礼を言わねば…!

 私はそう胸に誓い、先ほどの獣人の少年へ視線を戻す。それと引き取り期間があるのか…?クリーングオフ的なものなんだろうか。



「3日以内なら引き取る…っていうのは?」

「あぁ、呪奴隷制度をあまり詳しく知らねぇか。呪奴隷商として呪奴隷を客に売った場合、3日間は返品期間を設けることが義務付けられてる。ま、契約してみて気にくわなければ、契約した店に連れて行けば契約した金額と引き換えで引き取ってもらえる。ただし、契約した時と同じ状態じゃない場合は、もちろん同じ額を返金は出来ない。もちろん、俺の店もだ。だから、呪奴隷を買うときは勢いで買うのがほとんどだな。もちろん、クレフ様もだ! だって返品できるしな! ハハッ! あ、でも3回連続でやると契約者がブラックリストに入るから注意しろよ」



 なるほど…!

 そんな制度があったんだ。となると、見た目に反してそこそこの制度はあると考えて良いんだろうか? 買ったときと同じってことは、怪我とかは駄目ってことだね。うーん…判断に悩むね。

 私が思案していると、おじさんが呪奴隷について説明をしてくれた。



「そいつはシンだ。住んでいた村が盗賊に襲われて怪我をしたらしいぜ。一応右手でナイフを扱える。ただし、防御はあんま得意じゃないな」

「そうなんですね…」



 私の視線が獣人の男のに向いたのを見て、おじさんが説明をしてくれた。

 すさまじいエピソードだ… 私の人生が霞んでしまう様な壮大な人生だよ、シン君。

 つくづく、日本とは違うことをつきつけられます。



「予算的にはこのどっちかがいいって感じか?」

「はい…お察しの通りです。それと…迷いの森に行きたいです」

「おう。あぁ…近場の迷いの森か? あそこは浅いから、どっちの呪奴隷でも大丈夫だと思うぜ。ちなみに、こっちは棍の使い手で、イクルだ。結構強い。だが…左目の視力は無く、右目もあんまり見えてないらしい」

「目が…?」



 だから、こんなに焦点の定まらないような目線だったのか。

 光を失いつつあるその瞳は、力なくもやがかかっているように見える。でも、どこか吸い込まれるその瞳に…私の視線は奪われてしまった。





「目は…もう治らないんですか?」



 檻の前にしゃがみこみ、そっとイクルさんに問いかけてみた。

 少し顔を上げて、私を見返してくれた。そして小さく口を開けて、返事をしてくれた。



「医者には…治らないと、言われています。まだ見える右目は、一生を掛けて視力を失っていくと言われました」



 どうやら完治は望めないようだ。

 回復薬ポーションで治れば良いのだか、それで治るのであればもう治っているはずだし…きっと無理なんだろう。外傷は特に無いみたいだけど…病気の類かな? なんだかそう思うと、不意に花が私の脳裏をよぎる。…元気にしてるかなぁ? でも、神様にもらった花の写真は、幸せそうだったな…。あぁやばい、涙ぐんでしまいます。

 目はまだ見えるイクルさんと、シン君の2人。私はそのままイクルさんへ、手を差し出した。



「目が見えないのは辛いかもしれませんが、もし良ければ……私と一緒に来てくれませんか?」

「…! 今は右目で見えるけど、いつか完全に見えなくなりますよ…? それでも、俺と契約をするというのですか?」

「うん。駄目かな…?」

「駄目なわけないだろ、嬢ちゃんまいどっ!」

「え…あ、はい」



 イクルさんと話をしていたら急におじさんが割り込んできた。まぁ確かに、ここでイクルさんが微妙な返事をして私に売ることが出来なければ損をするのはこのおじさんだ。

 私はリュックから金貨を9枚取り出しおじさんに渡す。



「確かに90,000リル受け取った。じゃぁ呪奴隷契約をするから身分証を貸してくれ。それと、嬢ちゃんの左手も貸してくれ」

「あ、はい」



 おっと、身分証がいるのは知らなかった。

 おじさんは身分証を何か箱のような装置…魔道具かな?の上に乗せている。その上に左手を乗せるように指示され、私は大人しくそれに従う。さらにその上にイクルさんの左手だけを檻から出して乗せる。すると装置が光り、イクルさんの左手が…いや、左手の小指が光った。



「よし、これで呪奴隷契約完了だ。嬢ちゃん説明は聞くかい?」

「はい、お願いします」

「よしきた。今、嬢ちゃんの身分証にイクルが呪奴隷という情報を書き込んだ。これで正真正銘、イクルは嬢ちゃんの呪奴隷となった。呪奴隷は、左手の小指に出た主人とつなぐ紋様により制御される。簡単に言うと、主人への攻撃不可、それと呪奴隷に何か言う際に「命令」とつければ呪奴隷はそれに逆らうことが出来ない仕組みだ。もし逆らえば、身体を激痛が襲う。ただし、この「命令」は3回しか使えないから忘れるなよ」

「えぇぇ…恐すぎます」

「まぁ、安全装置だ。イクルの小指には、主人である嬢ちゃんの魔力とイクルの魔力が合わさって出来た紋章が浮かんでいる。確認してみな」

「はい」



 檻に入ったままのイクルさんの手をつかみ、おじさんが私へ見せてくる。そっとイクルさんの左手の小指に目をやればそこには文様が指輪のように浮かび上がっていた。小さな花が模ってあり、その周りを護る様に草が囲っている。



「呪奴隷紋ってのは、契約者と呪奴隷によって様々な形になる。普通は1本線だが、波打ってたり他の形になってると契約者と相性が良いんだ。そうなると、契約者の魔力を呪奴隷紋から通じて呪奴隷がパワーアップをしたり…」

「花冠みたい…可愛い」

「って、何だって!?」

「…っ!」



 おじさんが呪奴隷紋について説明をしてくれている時に、思わず素直に感想の声がもれてしまった。私の声に驚いたのか、おじさんとイクルさんの2人も指へ注目した。無言のまま小指をみつめて、若干きまずい沈黙が流れる。そんな中、先に声を出したのはおじさんだった。



「こんな立派な呪奴隷紋…初めてみたぜ」

「え?」

「普通、呪奴隷紋ってのは1本の線だけが多い。少し波打ってればラッキーってな。嬢ちゃんと、イクルの相性は抜群どころか運命としか思えねーな」

「そうなんですか…?」

「ああ。それと最後に…呪奴隷にはとりあえず、最低限の衣食住が用意出来ればそれで良い。けど、あんま酷いと呪奴隷が訴えることも出来るから気をつけろ。それと、5年以上の従事で呪奴隷契約は切れるから忘れるなよ。そん時は俺みたいな呪奴隷商じゃなくて、しっかりした呪奴隷商館に行って契約の解除をしてくれ。これは契約者の片方が行けば契約の解除が出来るから、呪奴隷が5年後1人で行くことも多い」



 なるほど。

 酷い扱いをすると私が訴えられてしまう…ということか。うん、そういった制度があるなら少し安心できる、かな。



 私ももう1度イクルさんの小指に目を落とす。

 やはりそこには、可愛い花冠の様な紋様が浮き出ている。呪奴隷商であるおじさんが初めてみたと言うのだから、これは本当に珍しいことなんだろう。

 私って、弱いのにこういったことはすごい結果が出る… 回復薬ポーションだったり、薬草の栽培だったり。それと今回の呪奴隷紋。まぁ、結果的にラッキーと思っておいたほうが良いかな?

 その後、檻から出されたイクルさんをおじさんから受け取り私達は呪奴隷市場を後にした。







 ◇ ◇ ◇



「じゃぁ改めて… 私は楠木ひなみ。よろしくお願いします、イクルさん」

「よろしくお願いします。…それから、俺は呪奴隷なので「イクル」と呼び捨てでお呼び下さい」

「え… でも、私年下だよ?」

「ご主人様ですから」

「うーん… わかった、イクル」

「はい」



 私が一歩前を歩き、その後ろを黙ってついてくるイクル。

 正直、かなり緊張しております。だって女の子の呪奴隷を買おうと思ってたし。なんだかアイドルが隣にいるみたいだよ。

 そうだ、こんな時はご飯だよ…!丁度良く、3メートルほど先に定食屋が目に入る。イクルにご飯にするよと声を掛けて、店内へと入る。

 木で造られた建物に、大きな窓。明るい室内は大勢の人で賑わっていた。



「さて、何食べようかなーっと?…え?」



 これはどういった現象なのか。イクルが座った私の背後に立って動かない。

 私が困った顔で後ろを向けば、イクルが頭に疑問符を浮かべたような顔をしていた。



「イクル… ご飯だから席に着いてよ」

「お…私はご主人様の呪奴隷です。同じ席に着くなどとんでもないです」

「……席について?」

「…はい」



 ちょっとイラっとして声が若干低くなってしまった気がする。

 でも、呪奴隷は主人と同じ席に着いてはならない?そんなマナーがあるならクソ食らえですね!ちょっとピリピリした私の気配を感じたのか、申し訳なさそうな顔をしているイクル。



「あー…ごめんね。私、1人で森に住んでてあんまり常識がないんだ」

「いえ…」



 どうした物かと思いつつ、とりあえず本日のおすすめ定食を2人分頼む。その際驚いた顔をした。まさかイクルの分を頼んだのを驚いたのだろうか…?

 後悔という訳ではないけど、やっぱり呪奴隷なんて私の手には余るのではないかと思う。イクルの反応を見るに、呪奴隷の扱いはそんなに良い待遇…というわけではないようだ。となると、私に呪奴隷制度の一般常識を行うことは出来ない…と思う。普通に接したいです。これが日本人クオリティですか?



「まず… イクルときちんと話したい」

「話ですか?」

「うん。私は確かに貴方を買う形で契約したけど…イクルの知ってる呪奴隷の一般常識の様に扱うつもりはないよ。まぁ…どんな一般常識かは知らないけど、お店で席につけないとか、一緒にご飯を食べれないとか、ね」

「ご主人様は…お優しいのですね」

「あとその口調。どっちかっていうと…檻の中にいた時のしゃべりかたがイクルの素でしょ?そっちでしゃべって欲しいな」

「…命令、ですか?」

「違う。お願いだよ!」



 私の睨みつけるような視線にイクルが若干引いている気もするが、ここは引くわけにはいかない。むしろイクルがドン引きしてくれるくらいに押すしかない…! しばしにらみ合いが続き、1分…3分…5分、というところでイクルが折れた。私の大勝利です…!!



「わかりました、ご主人様の言うとおりにしますよ」

「ひ・な・み!」

「…ひなみ様」

「……」

「いくら睨んでも呼び方はこれが限界です」



 本当は呼び捨てでよいのだが、やはり呪奴隷だからなのかイクル的にも限界のようだった為大人しく引き下がる。さっきに比べれば、方法は無理やりだけど大分進展したのではないだろうか。と、ポジティブ思考で行くことにします。



 そんなやり取りをしている間に料理が運ばれてきた。どうやら本日のランチは鶏肉の野菜炒めの様だ。昨日2年ぶりにお肉を食べて、今日もお肉が食べれるなんて幸せ。

 2人で美味しく定食をいただきながら、今後の予定をイクルに説明する。家に帰る護衛が必要といったら呆れた顔をされた。うん、なんかごめんなさい。







 ◇ ◇ ◇



 食事の後、イクルと大通りにある武器屋へと向かう。

 もちろん、イクルの武器を買う為です。



 剣のモチーフが模ってある看板の武器屋へと入り、そのすごさに思わず声を上げてしまう。だって、こんな武器屋に入るなんて普通経験できないです。

 壁には剣や杖が掛けてあり、弓や矢も置いてあった。高そうな剣が壁、安め~そこそこの剣は壁に備え付けた箱の中に無造作に入れられていた。

 私はまっすぐ棍が立てかけられている箱へ行く。その後ろをイクルがついてきて、まじまじと棍を眺めている。値段は…安いのが1,500リル。高いのは手が届かないが、10,000リルくらいまでならなんとか買うことが出来そうだ。



「イクル、武器は棍で良いの?」

「はい、棍でお願いします」

「私だと良い物が分からないから、イクルが選んで? 予算は10,000リルね」

「…はい」



 私が予算を伝え、イクルが棍を手に取り見定めている。正直私にはどれも同じに見えるのだけれど、イクルには違って見えるのだろうか。私に分かるのは、デザインが違うことくらい。

 やっと家に帰れることに安堵しつつ、武器を選ぶイクルの後姿を眺める。というか、私が呪奴隷と契約をしたという実感が正直わかない。まぁ…ゆっくり、私なりにやっていこう。

 私が1人納得していると、イクルが棍を1本もってこちらを振り向いた。



「決まった?」

「はい。こちらをお願いします」

「オッケー」



 イクルが選んだ棍は7,000リル。

 予算めいっぱいに使わないようにしてくれたのか、それとも本当にこの棍が良いものなのかは私には分からない。ただ、イクルが自分で選んでくれたことが少し嬉しかった。まぁ、私に出来ないからともいうけど…そこは気にしないことにしよう。



 お金を払い、外へ出るともうすっかり日が傾いていた。



「ひなみ様… 夜になると危険ですので、街を出るのは明日の朝が良いかと…」

「あ、そっか…! 森まで歩いて半日ちょっとかかること忘れてたよ…」





 ちなみに、本日のお買い物。


 揚げジャガイモ =100リル

 イクルとの呪奴隷契約 =90,000リル

 ご飯2人前 =300リル

 イクルの武器 =7,000リル


 合計 97,400リル

 残金 3,600リル





 残金に若干の不安を抱えながら、私とイクルは宿を探すために歩き始めた。

 というか、まって。宿…? うん、宿は良いです。違う、問題はそこじゃないよ…! イクルが私の呪奴隷っていうことは、一緒に暮らすっていうことでは…?

 そう、そうだよ…! ばかばかばか! 私の馬鹿!! なんでこんな大事なことに気付かなかったんだ…! そうだよ、呼べば出てくるランプの精じゃないんだよ…。

 あぁぁ…しまった。やっちまいましたです。返品期間があるとはいえ、それをしたらイクルを…呪奴隷をモノとして扱う最低の人間になってしまう。それだけは嫌だ…。となると、このまま覚悟して一緒に暮らすしかない。…まぁ、幸い部屋は増築できるし、きっと大丈夫。

 それに、こんなイケメンが私に…なんていうことはまったく考えられない。うん、大丈夫そうだ。





「……」



 それにしても…沈黙で歩くのって、辛い。

 いや、だってですね、男性と一緒に歩くことなんてほとんどなかったので、緊張してきてしまったのですよ! それにイクルはイケメンさんだし…一応、一緒に住むことになるし。なんだかもやもやしつつも、私は少し先に家の看板を付けている建物を見つけた。たぶん、宿屋だ。



「イクル!あそこに入ろう」

「はい」



 大通りに面した、可愛いレンガ作りの少し大きい建物。うん、変に裏通りの宿屋さんとか、そういうところは恐いもんね。…と、この〈レティスリール〉をそんなに詳しく知らない私は思うのです。だって、スラムや《呪》というちょっと変わったシステムとはいえ、奴隷があるこの世界だよ? 宿は安全を第一にするのが良いと思います…! 絶対!!

 ドアを開けると、「いらっしゃい!」とおばちゃんが豪快に迎えてくれた。おっと、宿屋の概観が可愛かったから豪快おばちゃんは予想していなくて少しびっくりしちゃったよ。



「宿泊かい?」

「はい。1泊お願いしたいんですが、おいくらですか?」

「うちは朝食付きで1泊2,000リルだよ」

「2,000リル…!」

「うちは表通りだからちょっと高いんだよ。裏通りに行けば500リルとかもあって全然安いけど…どうするんだい?」



 うーん…どうするも何も、所持金は3,600リルだ。これでは私1人しか泊まれない。あきらめて違う安い宿を探すのが良いかな。まぁ私の所持金は回復薬ポーションを買い取って貰ったお金だけ…じゃないぞ? そうだった、クレフさんがお礼をくれたんだった。

 私はリュックから袋を取り出し、中身をそっとのぞいてみる。貰ってすぐ確認するのは失礼だと思い、そのままリュックに入れっぱなしだったのだ。中には金貨が5枚…50,000リルが入っていた。ちょ、これ…多すぎますよね?

 でもまぁ…受け取ったものを返すのも失礼なので有難く使わせていただきます。





 持ち金 3,600リル

 クレフさんのお礼金 50,000リル


 合計 53,600リル





「いえ、2人宿泊でお願いします」

「はいよ、ありがとうね。部屋はダブルでいいかい? 一応ツインもあるけど」

「えと、俺は呪奴隷部屋で十分ですよ?」

「なんだい、あんた呪奴隷かい。呪奴隷部屋なら1人200リルだよ」



 呪奴隷部屋…? 何だろう。

 取り敢えず分かるのは、そこは駄目だということ。だって200リルって安いにも程があるよ? 私の宿泊費の10分の1だよ?



「いえ、1人1部屋でお願いします…!」

「あら、そうかい? わかったよ。なら4,000リルだね」



 私はイクルの言葉を華麗にスルースキルでスルーをし、おばちゃんに2人分の料金を支払う。イクルの微妙な目線なんて気にしません。お釣りを受け取り、部屋の鍵を受け取る。



「部屋は2階の角部屋2つだよ。何かあればフロントまでおいで」

「はい。ありがとうございます」



 私は異世界の宿にちょっとテンションが上がりつつ、2階へと向かう。1階はレンガ造りだったが、2階は木材をメインに使われているようだ。木の香りが心地よいです。

 角の2部屋に着き、この後どうしようかと少し悩む。イクルともう少し話をするか、疲れているからこのまま寝てしまうか。しかし正直、主にイクルとの契約で精神的にどっと疲れているのです…よし寝よう。



「私、疲れたからもう寝るね? イクルも部屋で休んで?」

「あ…はい。わかりました」

「明日いっぱいお話しようね! おやすみ、イクル」

「はい。おやすみなさい、ひなみ様」



 まだ若干敬語が抜けてないイクルに手を振り、私は部屋へ入る。木の机と椅子、それからベッドが1つ。物は少ないが、清潔で綺麗な部屋だった。高かっただけありますね!

 とりあえず…お風呂の前に交換日記を書こう。だって温まったら寝ちゃう自信があるからね。

 交換日記のページをめくり、私は新しく増えた項目を目にしてドキリとした。





【所持ポイント:31,190】


【交換日記】 3

回復薬ポーション調合:下位】 1

回復薬ポーション調合:中位】 2

回復薬ポーション調合:上位】 3

回復薬ポーション調合:特殊】 5

【魔物討伐:D】 5

【魔物討伐:C】 10

【魔物討伐:B】 20

【魔物討伐:A】 50

【魔物討伐:S】 100

【魔物討伐:魔王】 無限

 New!【《呪》の消滅】 1,000,000,000

【その他:特殊】 都度適切なポイント

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