第5話 生活基盤 - 2
お風呂の心地よさを実感して次の日。
私はやはり小鳥のさえずりで目を覚ました。
この目覚めのシチュエーション、なんだかお嬢様みたいでどきどきしちゃうね。
上半身だけを起こして、私はサイドテーブルに置いておいた交換日記を手に取りページをめくっていく。まずは、神様からの返事を読む。
- - - - - - -
無事に
このまま行けばひなは世界にとどろく薬術師になれるね。
なんだかひなが楽しそうだから、僕も嬉しくなっちゃったよ。
笑顔は大事だから、忘れないようにしてね?
そうそう。
ポイントと交換できるものを増やしておいたから、見てみてね。
きっとひなの役に立つ物があると思うよ。
P.S
調味料がないとお困りだね?
そんな時は、薬術書の最後の方のページを見てみると良いことがあるよ!
- - - - - - -
どうやら、何か進展があったようだ。
まず、ポイントで交換できる物が増えているらしいので、早速チェックをする。
【交換日記】 =3ポイント加算
【所持ポイント:130】
New!【初心者冒険セット】 20
【栽培キット】 10
【鉢植え:小】 1
【野菜の種セット】 10
New!【果物の種セット】 10
【ハーブの種セット】 10
New!【調理道具セット】 100
New!【大きい鍋】 300
【瓶:100個】 3
New!【洗濯セット】 30
【部屋】 50
【屋上】 50
New!【地下室 - 増築】 500
あ、ポイント交換日記分ちゃんと加算されてる。
にしても、随分増えてるなぁ… 6個も新しく交換出来る物がある! とりあえず、洗濯セットを取るのは絶対。あとは、果物の種を植えて食にレパートリーを加えたいところ…。調理道具も欲しいけど、正直今は調理どころか野菜そのままなので、調理の目処が立ってからにしよう。
それから… 初心者冒険者セット? なんだろう。確か、神様の話ではこの世界には魔物がいるっていうことだったから、剣とか、防具のセットなんだろうか。まだポイントもあるし、一応交換しておいた方が良いかもしれない。
「えっと、果物の種セットと、洗濯セット、それから初心者冒険者セットをお願いしますっ!」
【果物の種セット】 =10ポイント使用
【洗濯セット】 =30ポイント使用
【初心者冒険者セット】 =20ポイント使用
【合計:60ポイント使用】
【所持ポイント:70】
すると交換日記が光り、石鹸と洗濯板が入った桶が現れた。どうやらこれが洗濯セットみたいだ。しかし、他に頼んだものが無い…? ポイントは引かれてるから交換は出来てるはずなんだけどな…。
そしてふと、昨日交換してもらった物を確認していないことに気付く。そうだ、お風呂に夢中になってすっかり忘れてしまった。
もしかしたら、地下室を作ったのでそこに荷物の様にひとまとめにされているのかもしれない。とりあえずは、小さい我が家を探検してみようと思い立つ。
腹ごしらえは… 地下室を覗いてからにしよう。まぁ、食べるものは野菜しかないのだけれども。
「お、地下は木じゃなくてレンガで造られてるんだ…可愛いなぁ」
大きく螺旋状に下る階段は、淡いパステルカラーを使ったレンガを使用し造られていた。そっと手を触れると、思ったよりも硬くは無い。冷たい無機質なレンガではなく、見た目通りに可愛らしい物だった。階段は家の外周を回っているようなゆるやかさで、一定間隔で可愛いランプに火が灯っている。お化けはちょっと…苦手なので、明るいことに安心した。
そして大体、自分の部屋を半周とちょっと歩いたかな、という所で階段の終着点が見える。
降り立った地下室に、私は思わず感嘆の声を漏らす。
「わ、わ、わ、すごい…!!!」
広さは、生活スペースより一回り小さいくらい。
そして一番驚いたのは、部屋を明るくしている灯りだ。天井一面に草木が生え、そこに咲いた花が地下室全体を暖かく照らしていたのだ。まるでお母さんに見守られているような、そんな暖かな光りだ。
ちなみに、地下室自体には他に設備などは特に無く、ガランとしていた。ただ、入ってすぐ横に瓶が200個と、宝箱…? が、置かれていた。どうやら倉庫的なくくりになっていて、そういう類の交換物はここに出してくれるのだと、都合よく納得する。
「あ、あとで作った
RPGのゲームはあまりやったことが無い…いや、妹の花がプレイしているのは結構横目で見てはいた。が、宝箱! ちょっとテンションが上がってしまう。
恐らく入っているのが初心者冒険セットだろうなと分かっていても!
そっと、宝箱に手をかける。それは私が両手を伸ばしたくらいの幅で、少し大きめ。重いかなと、力を入れてみたが箱の蓋は羽のように軽かった。
「剣に…弓、それと盾。あとは…胸当て? 防具かな。それとリュックだ!」
うん。確かに初心者セットの様だ。
武器は剣と弓、防具は盾と胸当て。それからグローブとブーツが入っていた。
これで森に出て、冒険をしろということなのだろうか。はっきり言って、ゲームやこういうことが好きな人種なら問題はないが、あいにくと私は攻撃スキルを持っていない一般人。加えて今は13歳の体になっている。死ぬのがオチだろう。
「とりあえず… ご飯かな?」
◇ ◇ ◇
「えいやっと… ふん!」
昨日と同じように畑に実ったトマトを食べて、私は洗濯をしてから畑を耕し始めた。
家の外に出ると、井戸の横に小さい屋根付きのスペースが出来ていた。良く見ると、栽培キットと思われるクワやジョウロなどが置いてあった。そこには一緒に交換して貰った野菜と果物とハーブの種が入った小さい袋も置かれていたのだ。
なので現在、食糧確保の為に畑を耕しております。
「はぁ… かれこれ2時間くらい耕したかなぁ…?」
綺麗に土を整えられた畑を見て、私は満足げに頷く。
正直家庭菜園とか、そういった知識はない。が、きっと種を蒔いて水をあげればなんとかなるだろうと、思う。はい、無計画ですね…。
取り合えず種を蒔いて、ジョウロで水をあげる。
種が流れてしまわないように、優しく。
それから、神様にいただいたとっておきの魔法を掛ける。
「美味しく育って下さいね… 《
私の声に共鳴するかのように、小さな芽が土の中から顔を出した。
それはぐんぐん伸びて行き、あっという間に私の胸ほどの高さにまで成長をし、美しい花を咲かせた。
「えっ…!」
あまりにも予想外の成長振りに少し戸惑うが… 食糧問題は切実なので気にしない方向にした。だって、餓死をするよりはこちらの方がよほど良い。
それから、私は庭に生えていた草… もといハーブを何枚か摘む。
洗濯をしている時に気がついたのだが、変わった草が多いのでもしかして!と、薬術書を開いて調べた。それによると、このハーブは調味料の代わりとして使えることが分かった。それは神様のアドバイスにあった最後のページだった。神様のアドバイスを受けているのに自力で達成してしまったことをなんとなく申し訳なく思う。せっかく教えていただいたのに、すみません神様。
「コショーの葉は、細かくすりつぶすとスパイスになる。サツゥールトは花の部分を鍋で煮込み乾燥させると甘い粉になり、葉の部分を鍋で煮込み乾燥させるとしょっぱい粉になる…」
何だ、何だ、このネーミングは…!コショーはそのまま胡椒なの?サトゥールトは砂糖にソルト…塩なの?なんだかもやもやしてしまうが、分かりやすいから良いと納得せざるを得ない…。
とりあえず、庭に生えていたのはコショーとサトゥールトがほとんどだった。とりあえず、これで味の付いた食べ物が食べれそうで一安心。
ちなみに、コショーは丸い可愛い葉っぱ。サツゥールトは、ピンクと白のグラデーションの小さな花に、長細い葉がたくさん付いている。というか、花と葉の割合が1:9くらい。砂糖の数を確保するのは少し大変そう。
「でも、砂糖は欲しい! あとは、醤油とか味噌も欲しいなぁ…」
ここでは無い物ねだりかもしれないが、日本人としてはやはり恋しくなるもので。
まぁ、徐々に進めていけばきっとそれに似た物も出てくるだろう。きっと。
「あ、でも野菜はあるけどお肉がないなぁ…」
ベジタリアン、なんて言葉があるくらいなので食べなくても生きては行けるが、13歳だしバランスよく食事をすることも大事だ。それとお米、もしくはパン。
現状の入手方法が分からないため打つ手は無いが、今日の交換日記で神様に聞いたら何かヒントを貰えるかもしれない。
「そうだ、とりあえず調理道具…!」
まずは出来ることから一歩ずつ、です。
交換日記を開き、ポイントを調理道具と交換する。と、思ったら調理道具は100ポイント。現在の所持ポイントが30ほど足りない計算。
こうなればすることは1つ。
さっそくキッチンからお鍋を取り出して、私は庭へと飛び出すのだった。
「あれ? なんだろう、この赤い草…」
体力草を必死になって摘んでいると、見たことも無い赤い草が視界に入った。そしてすぐに思い出す、“赤色草”という物の存在を。
「でも、
辺りを見回してみるが、視界には体力草と見つけた1本の赤色草、それからコショーとサツゥールトしか存在していない。
これだけじゃ
そしてお鍋いっぱいになった体力草を持ち、私は調合の為家へと戻る。外にはまだたくさんの体力草が生えてはいるが、昨日から
家に入り、お鍋に水を汲んで地下室へと下りて調合を行う。
先ほど200個の
お鍋をいっぱいの体力草は、結果130個の
【
【調理道具セット】 =100ポイント使用
【合計:100ポイント使用】
【所持ポイント:100】
うん、ばっちりだ。
早速交換した物をキッチンへと確認しに行く。
調理道具セットは木で出来ているおたま、フライ返し、ヘラ、大きさの違う小さいスプーンが3つ。それから調味料を入れておくようなのか、蓋の付いたケースが5個。それとすり鉢に、菜ばしもついていた。
「これで美味しいものが… 作れる…のか?」
いや、悩んでいても仕方が無いですね!
とりあえず胡椒、砂糖、塩を作ろう。砂糖と塩は果てしなく面倒そうなので、胡椒をすり鉢ですりつぶし、細かく細かくしていく。
ゴリゴリ… ゴリゴリ…
「思ったよりも、つぶれないなぁ…」
ゴリゴリ… ゴリ…
「手、痛い…」
ゴリ… ゴリ…
明らかに、すり始めた時と比べるとスピードが落ちている。どれくらいの時間が経っただろうか…体感的には30分はすっていたと思うのだが、すり鉢の中身はお世辞にも細かいとはいえない大きさの葉だった。
しかし、美味しいご飯のためにはここで手を止めるわけにはいかないのだ。
ゴリゴリ…
「これも調合と同じ、《
疲れ果てて完全に止まってしまった、13歳の小さい私の手のひらを見る。最近棒の様な物を持っていなかった為か、その手のひらには小さなまめがいくつか出来ていた。
痛々しくて少し、涙ぐむ。いや、痛みだけではなく、疲れから異世界に一人ぼっち…という現実を思い出して少し切なくなったのだ。
「大丈夫。私は頑張れる…」
自分に強く言い聞かせ、私はもう一度すり鉢へと向き直る。立派な胡椒へとしてあげるからねと、意気込みスリ棒を手に取る。しかし、そのすり鉢には先ほどの細かく出来ていない葉ではなく、極限まですりつぶされた葉…いや、胡椒が入っていたのだ。
「な、なんだってー…!!!」
家の中に思わず叫んだ私の声が響く。
うん。この異世界、〈レティスリール〉に来て、一番の大声を出した自信がある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます