第2話 神様の玩具
「えっと… 花を助けてくれてありがとうございます」
『どういたしまして。病気はちゃんと完治してるから安心してね?』
「……はいっ!」
目の前に居る男の子…神様へ感謝を伝え、深く頭を下げる。
現状が良く分からないことになっているとはいえ、高木さんの言葉によると花は無事に手術が成功して助かっているのだから。加えて神様も完治していると言ってくれている。
そして自分が名乗っていないことを思い出し、慌てて神様へ再度お辞儀をする。
「私、
『うん、よろしくね。 …でも、いきなりこんな暗闇にきてよく驚かないね』
自己紹介をして少し落ち着きを取り戻す。大げさなリアクションをしない私に、逆に神様が驚いている。
私はもう、花が無事だったことで力尽きている。何も驚かない自信がある。
「私にとっては、花が助かった以上の驚きはない…です」
『そっか。じゃぁ交換条件、覚えてる?』
「あ…… はい」
少し間を作ってしまったが、私ははっきりと返事をした。
私の全てを捧げると、約束をした。
随分曖昧で、どうするなどの話は無い。私はどうなってしまうのだろうか。殺されてしまうのか、それとも慰み者にでもされるのであろうか。そう考えたが、相手は神様。その確率は低そうだなと…なんとなく思う。
神様なんて、人間が作った空想上のモノだとばかり思っていたのに。
『うわ、めっちゃ素直ちゃんだね?』
へたりこんでいる私の横に腰を下ろし、神様が目線の高を合わせてくる。
その青い瞳に吸い込まれてしまいそうになる。妹の治療費の足しにと、バイト三昧だった私にこの体勢は若干恥ずかしく、いや、大分恥ずかしく辛い。自分の顔が熱を持つのを感じる。
『ひなみは僕の
「えっ……!? おも、ちゃ?」
『そう。僕ね、ここにずーっと1人で居るの。まぁ、多少はやることもあるけど基本暇なんだよね』
「はぁ…」
『気のない返事だね、ふふ。ひなみには、僕が管理している地球とは別の異世界へ行って貰う』
異世界、とな?
いや、神様にとってこれくらいはお手の物なのだろうか。しかし、私を異世界に送ると神様に何かメリットがあるのだろうか。正直、私は力も何も無いただの女だ。
『暇だから、異世界で四苦八苦するひなみを見て時間を潰そうと思って』
これが神様という物なのだろうか。私の斜め上を行く答えをいただいた。
そんな私の様子を察したのか、にこにこしながら話を続ける。
『あと、もう1つ目的があってね。ポイントを集めて欲しいんだよ』
「ポイント?」
言葉を反芻して、神様を見る。
『そう。そのポイントは、ひなみが異世界で何か行動を起こすと加算される仕組みになっている。それを僕に送ることで、僕はそのポイントを得ることが出来る。もちろん、そのポイントのお返しとして相応の物をひなみに送るよ?』
「ポイントを貯めると、神様に何かメリットがあるんですか?」
『んー… それは、な・い・しょ』
神様の口元が三日月を描く。そして指は私の口元へとあてがわれて「教えてあげない」と、意地悪く微笑んだ。途端、一気に私の顔が火を噴いた。こんなこと、初めてされましたよ…!!
そんな私に気付いたらしい神様がくすくす笑っている。恥ずかしい、穴があったら入りたい。その綺麗な顔に見つめられてるだけで沸騰してしまいそうなのに、もう顔は
目的であるポイントが何か分からないので気にはなるが、神様が内緒というのであれば触れてはいけないものなんだろう。私は花を助けて貰ったお礼に、ポイントを集めれば良い。それが分かれば、問題はない。
「じゃぁ、さっそく異世界に送って下さい!」
『え?』
恥ずかしさもあってか、私は勢い良く立ち上がる。
そしていざ異世界へ。と、思ったのだが神様を見るときょとんとしていらっしゃる…。あれ、私は何か間違えたのであろうか。
『あはは! ひなみって可愛いね! 異世界のこと、何も伝えてないのに乗り込むの? 死んじゃうよ~』
「うえっ!?」
そういえば、ポイントを集めればいいことしか知らない。
しかもさらっと、何もなしに行ったら死ぬことを示唆された。私が行くのは危険がいっぱいある世界なんだろうか… 今から不安になってくる。
そっと神様から顔をはずして、再度座りなおす。そんな私の頭を神様が撫でてくる。完全に子ども扱いをされている…。
『まぁ、簡単に説明するね。 異世界の名前は〈レティスリール〉。そこには〈サリトン〉〈ムシュバール〉〈アグディス〉の3大陸から作られている。〈サリトン〉と〈ムシュバール〉は基本的に人間が多く住んでいる大陸。〈アグディス〉は自然が豊かで、獣人や精霊達が好んで多く住んでいる大陸かな。あ、でも〈ムシュバール〉は血気盛んで、極めて好戦的な皇帝が納めている。行くときは気をつけないと危険だね……』
「…はい」
一気に大陸の名前を言われ、若干混乱する。これで国の名前も入ったら正直覚えられる自身がない。それを分かってか、神様が「国の名前は行ってから自分で覚えると良いよ」とアドバイスをしてくれた。恥ずかしい……。
『それと、大きく分けて人間・獣人・精霊の種族が住んでいるよ。それに加えて魔物もいるから気をつけてね。人間の説明はいらないとして、獣人と精霊だね。獣人は、魔物ではない獣のことを全般的に呼ぶ。知能もあり、姿は人間と同じだ。ただし、耳や尻尾がある。精霊は説明が難しいなぁ… ひなみの世界でいうゲームで例えると、エルフやドラゴン、それに妖精などが含まれるよ。まぁ、簡単に言えば人でも獣でもない不思議な存在、かな?』
「な、なるほど… 地球とは色々違うんですね」
神様の言葉を反芻し、しっかり覚えなければと必死になる。しかし聞くところこれは、花が好きなゲームの世界に似ている…気がする。私はバイトばかりであまりゲームはしなかったけど、もし花が好きな世界ならばその分私がそこで精一杯生きようと思う。
『まぁ、簡単に言えばゲームみたいな世界ってことだね。あとはー…』
「ざっくりですね… まぁ、分かりやすくていいですね」
『そ? あ、そうそう。《ステータス》と唱えてご覧?』
「え? えっと、《ステータス》!」
私がその言葉を発すると、私の目の前に何か画面が映し出された。これは、立体映像なんだろうか…?ホログラムの様なものが視界に入る。そしてそれは日本語で書かれていて、どうやら私の情報が視覚化された物の様だ。
〈 楠木 ひなみ 〉
21歳
Lv. 1
HP 15/15
MP 20/20
ATK 3
DEF 3
AGI 6
MAG 10
LUK 30
〈スキル〉
なし
〈称号〉
リグリス神の加護
「わ、ゲームみたいだ…」
『ATKは攻撃力で、DEFは防御力。AGIが素早さ、MAGが魔力でLUKは運だよ。 …って、ステータス低っ!!』
あ、やっぱり低いんだ… 見た瞬間からそんな気はしていたが、実際言われると少しショックだ。まぁ、スポーツもやってない普通の女子と考えれば… 希望はある、のか?
神様は私のステータスを見るや否や、何か思案を始めた様だ。このままじゃ死ぬからどうにかしないといけない、とかなんだろうか。冷や汗がそっと私を伝う。
『これはすぐ死んじゃうねー… でも、普通は魔法スキルの1つくらいあるもんなんだけどな』
「魔法…! それはすごいですね。使えるようになるんですか?」
『うーん… 適正次第だね。とりあえず、この低いステータスをどうにかするのが先だね』
難しい顔をして、神様が私の手を取る。
その表情で、いかに私のステータスが予想以上に低かったのかが分かる。こんな私が良く神様に選んで貰えたなと思う。あ、だからLUKがちょっと高いのかな? ラッキーガール的な何かなんだろうか。
「わっ!?」
1人思案をしていたら、突如自分の身体が揺れた。
え、いったい何が……?
『うん、成功~! もっかいステータス見てご覧?』
そしてその掛け声と共に、私の身体が宙に浮く。抵抗する暇を与えられず、私はイケメン神様の膝に座らされた。なぜかすっぽりと収まってしまっている身体を不思議に思い、自分の手を見ると縮んでいた。服もぶかぶかになり、脱げそうになったのを慌てて押さえつける。
どういうことなのかと神様を振り返るが、何も教える気がないのかにこにこしているだけ…。
私は観念して、
〈 楠木 ひなみ 〉
13歳
Lv. 1
HP 30/30
MP 45/45
ATK 10
DEF 10
AGI 13
MAG 20
LUK 50
〈スキル〉
神様の箱庭
〈称号〉
リグリス神の加護
「あ、ステータスが上がってる…」
『でも弱いねぇ…』
「あれ、スキルがついてる! あ、あとさっきも気になったんですけど《リグリス神の加護》ってなんですか?」
ステータスが若干上昇しているのと、無かったスキルが2つ付いていた。
これは神様がくれた力なんだろうか。むむむと画面をとにらめっこをしていると、神様が1つずつ説明をしてくれた。
『これはねぇ、ひなみの今までの経験地を貰って付与したんだ』
「え? ……あ、13歳になってる!」
自分の身体が小さくなったことと、ステータスに13歳と書かれていた。
『まぁ、ちょっと若返っただけだよ。13歳から21歳までのひなみが経験したことをステータスに換算したんだ。でも、知識や技術はなくならないよ。“経験した時間”を変換しているからね。他は…精神年齢が若くなるくらいで特に支障はないから安心して?』
「うー… はい」
『うん。まずは、加護ね。これは僕、リグリスが見守っているって言う証。それが加護として称号に表示されるんだ』
「え! これ神様のお名前だったんですね…」
『そ。それと、スキル。これはひなみに適正がある物が付与されているから、僕が選んでこのスキルを与えた訳じゃないんだよね。残念ながら、ひなみが所望していたような魔法ではないかな?』
そう言い、神様がステータス画面の《神様の箱庭》に指で触れた。すると、その部分だけが光、下に説明文が出てきた。これは、便利な仕組みになっているなぁ…。
《神様の箱庭》
神により守られた聖域を作成することが出来る。
「ちょ、説明がざっくりですね…?」
『ふふ、そうだねぇ。まぁ、そうだなー… 分かりやすく伝えとくと、ひなみが異世界に行くときに家もあげるんだけど、そこから一定の範囲が守られて敵が入ってこれなくなるんだよ』
「おぉぉ、それはすごいですね…! つまりは結界ってことですか?」
『ん、まぁそんな感じ』
これは大分助かる力だ。
私も神様に習って、下の段にある
《
想いを込めて歌を唄うと、光の精霊が召喚され守護者を守る盾となる。
「防御魔法… 的な?」
『そうみたいだね』
「攻撃手段ないみたいですけど、大丈夫ですかね?」
『ん、ちょっとまずいかな!』
「ええぇぇっ!!」
私、すぐに死んじゃうんじゃないかなぁ…
でもスキルが“歌”かぁ。これは私が小さいころからピアノと歌を習ってたことに関係があったりするのかな? とは言っても、花が病気になってからは止めちゃったけど…。
大分落ち込みつつも、最後に神様の加護へ触れる。
《リグリス神の加護》
リグリスと交換日記が出来る。
「……え?」
『だって、1人で何も知らない異世界は辛いよ? 結構良い内容だと思うんだけどなぁ』
「た、たしかに…!」
そうか。ここを出て異世界にいったら、この加護以外で神様と連絡が取れなくなってしまうんだ。確かに、何も分からない状況下で独りぼっちはかなり辛い…。私のことを考えてくれたんだと思うと、自然と感謝の言葉が口から出た。
『ひなみは本当、素直だねぇ。 さて、家をあげるって言ったよね?』
「あ、はい…!」
『いきなり街へ家を建てることは出来ないから、森の中に家を建てておいたよ。その家の中と、外の庭に当たる柵が囲ってある部分がひなみの家として認識される。そこの範囲にスキル《神様の箱庭》が適用されるから覚えておいてね』
そこが私の安全な場所…!
思い切り頭を縦に動かし、分かったことを神様に伝える。これが私の生きるか死ぬかのラインに違いない。
『ちなみに、街も歩いていける距離にあるよ。まぁ、若干遠いかもしれないけど… 森は難易度の低い所を選んでおいたから、そんなに危険もないと思うよ』
「ありがとうございます! なんとか生きれそうです」
『うん。んー… 僕の話はこんな所かな。何か質問はある?』
「えっ… うーん… 思いつかないです」
『まぁ、体験してみないと分からないか。何かあったら日記で書けばいいよ』
「はい!」
なんだか、私の願いを叶えてもらった対価なのに、至れり尽くせりな感じがする。私の一生?で、花が助かるなら安いものだ。最後にちょっと、お姉さんぽいことが出来たかなぁ…。
『じゃぁ、行こうか。実はここにあまり人を
私はそっと頷いて、神様を見る。それに神様も頷くことで応えてくれた。
そしてそのまま私をぎゅっと抱きしめた。神様の温もりがダイレクトに伝わってくる。何かされたわけではないけれど、安心したからか少し涙が出た。そんな私の様子に気が付いたのか、神様が優しく頭を撫でてくれた。
『無理やりな形でごめんね? でも、これでひなみは僕の物だから逃げられないよ…?』
「うっ……!」
『ふふ、覚悟しておいてよね』
そうして神様が私から離れて、そのまま私の手の甲を取りそこに口付けた。
「ちょっ……!!」
『ふふ、サービスだよ、サービス。〈レティスリール〉についたらステータスを確認してごらん』
そのまま私は反論できないまま、身体をまばゆい光に包まれ、その暗闇世界から姿を消した。
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