サンタの丘

Pectawot

サンタの丘

 「ひとつだけサンタを見れる方法がある。」

とんまの弟は少し誇らしげに言った。今日はクリスマス・イヴだが、余りにも唐突だったので思わず眉をひそめる。私の反応を完全に無視して、弟は最後まで話を続けた。弟が言うに、家の近くの丘にサンタの休憩所があるらしい。忙しいサンタがこんな田舎で休憩するとはにわかにも信じがたかったが、もし見つけることができれば私たちはクラスで人気者になれると思い、お父さんを連れて三人で行くことにした。

 外は睫が凍るほど寒く、雪が三センチほど積もっていた。ここのところ連夜雪が降っていたので、特にテンションが上がるわけでもなく、むしろ雪がサンタの邪魔になりはしないかどうかの心配の方が優勢だった。一抹の不安を抱え、足を滑らせないよう気を付けながら凍った道を進んでいくと、例の丘が見えてきた。どこにでもあるような素朴な丘だ。こんなところに誰もいるわけ無いだろうと思い目を凝らすと、奥には二つの動く影。私と弟は疑念を含んだ期待を胸に一目散に駆け出した。数十メートル走り勾配が早くなり始めたあたりで、その影が目的のものでないことに気づき私は足を遅めたが、弟は何かに気づいたようでさらにスピードを上げて近づいていった。弟に少し遅れて二つの影の正体を前にしたとき、弟は二つの影の小さいほうと楽しそうに会話をしていた。どうやら影の正体は弟の友達とそのお父さんで、サンタの噂はこの友達から聞いたという。一時間ほど前からこの丘にいたが、未だにサンタは見つかっていないらしい。

「まだどこかにいるかもしれない!」

純度百パーセントの期待を持った眼差しでこちらを見ながら弟が言い出したので、まだ探していないところを手分けして探すことになった。が、そんな簡単に見つかるはずもなく。疲労が八分目くらいまで溜まってきたとき、ふと空を見上げると綺麗な星空が広がっていた。サンタを探すことに夢中で全く気付かなかった。広大な宇宙を彩る幾千の星。どれかがサンタだったりして。結局その後にサンタは見つからなかった。夜もすっかり更けてきて、寒さも限界に近づいてきたので、そろそろ帰ろうということに。来年に再チャレンジを企む弟たちの隣には疲れ果てとても寒そうにしている二人のお父さん。きっと忘れられない思い出になるな。

 家に帰ると、お母さんはすでに床に就いていた。そして信じられないことにクリスマスツリーの前に楽しみにしていたプレゼントが二つ置かれていた。家にいればサンタに絶対会えたのに!と灯台下暗しのような後悔とプレゼントをもらったことに対しての歓喜が混ざって不思議な気持ちになる。言い出しっぺの弟はというと何も考えずに大はしゃぎ。こんな寒い中プレゼントと思い出をありがとう。もう探し回るのは疲れたし来年はクッキーでも用意してここで休憩してもらおうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サンタの丘 Pectawot @pectawot

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ