46話 遊びは終わらせる
空中にとつぜん巨大な火の玉が現れる。
それが弾けて消えたと思ったら、ピシャーンと雷鳴が轟く。
晴れているのにも関わらず雨が降り、その雨のほとんどは地面につくことなく消えたが、うっかり触れてしまったところはしゅうしゅうと音を出しながら溶けていった。
「なんで下に被害を出すようなことをするのかな?最悪の場合俺が国を追い出されるんだけど。」
「ルールはなんでもアリだからね。ルイが追い出されるならそれはそれでいいかもね。こっちの方に勧誘できるから。
そうだ!ルイがこっちにきやすいように私もっと酷いことをやるよ。」
下に被害が行かないよう一応言ってみるが、逆効果だった。
向こうからすれば、俺がこちら側にいると都合が悪いからな。少し失敗した。
「キャァァァァァァァァァァ」
そんな悲鳴が聞こえてきた。
他にもいろんなところから叫び声が聞こえてくる。
「あはははは!やっぱり遊びは賑やかじゃないとね。」
失敗したのは少しどころじゃなかった。
ナムトは、国を何十箇所も同時に攻撃する。俺は周りに被害を出さずに何十箇所も防がないといけない。
同時に彼女の魔法を相殺する。だがいくつか威力を変えていたようで、防ぎきれないところができてしまった。
防ぎ切ることができなかった攻撃が、王都を襲う。
隙を見て下を見てみると、血を出している人がいて、燃えている家があって、叫んでいる人がいて、守れなかったのが辛くなった。
「ねえルイ。怪我した人たちとか治してあげないの?」
できるわけないだろ。こいつはできないとわかっていて言っている。
「相変わらず人を嫌がらせるのが得意だな?」
「うん。私は嫌われる行動をするのはすごく得意だよ。」
「それは得意だろうな。実際俺はナムトのことが嫌いだ。」
「そっか。それは残念。好きでいてくれたらよかったのに。」
好きになるわけがない。だって彼女は嫌がらせをしてきて、こちらが困っているのを面白がって、しかも向こうのほうから嫌われるように行動をしているのだから。
ちょくちょくナムトの相手をしながら、俺は壊れ始めている王都を見ていた。
さっきみたいに全体を攻撃するのをナムトは何回もやっていた。流石に何回もやれば、防ぎ方も覚えてくる。防ぐ時に、全てを全力で防げばいいだけだった。
ナムトが全体を攻撃するたびに、王都が壊れていくことはなくなった。
だが、すでに壊れた建物や、すでになくなってしまった人が元に戻るわけではない。
いっそのこと守ることをやめて思いっきりやってしまおうか…。
壊れてしまったのは元に戻すのに時間がかかるし、さらに壊れてしまったとしても直さないといけない場所が増えるだけだ。
「ずっと守るのも疲れたな…。」
もう疲れたんだ。
もう守るとか守らないとか、壊れるとか壊れないようにとか気にしない。
全部どうでもよくなってくる。
このまま自分の体を動かすのを放棄してしまえば、放棄することができてしまえばものすごく楽なのに。
疲れたからとりあえず考えるのをやめよう。こうすればいいとか、こう動けば大丈夫とかくらいなら考えなくてもできる。
「ナムト、全力で逃げ回ってその後すぐに捕まって、そのまま死んでほしいな。」
「そっちこそ、私が逃げきれないように追い詰めてよ。絶対に逃げ切って見せるから。」
「うんわかった。〈呪縛の鎖〉」
俺は、スキルの1つを使うことにした。
ずっと昔から使い続けているから今では手足のように使えるものだ。
俺の体は母親が作ったものだ。
自分が使えるスキルの数や魔法の数が多いのも、一応母親のおかげだ。
だから、これだけは感謝しておこうと思う。
強い体を作ってくれてありがとうって。
黒い靄の集まりのような鎖がナムトを襲う。
この呪縛の鎖というスキルは、現れた鎖に触れた生物を呪いで縛り、そのまま苦しませて殺すというものだ。
ナムトはもし死ぬなら苦しまないうちに死にたいといっていたので、この鎖を意地でも避けようとするはずだ。
だから、俺は全力で避けているナムトに同時に魔法でも攻撃する。
どうせなら苦しんで死んで欲しいので、悪意を込めて火属性と水属性を使う。
火属性を使う理由は焼けてほしいから。
水属性を使う理由は、体の中に水を詰めて、溺れてほしいからだ。
どれに当たってもらっても構わないが、1つに当たれば次々と他の攻撃にも当たるだろう。
「ルイ自分で言ってたよね!壊すのをやめろって。周りに被害を出すなって。」
「確かに言ったけどもういいかなって。俺もう疲れちゃってさ、守るのも辞めちゃおうって思ったんだ。どうせナムトが先に壊したんだから。」
「ルイ…ちょっと様子がおかしいよ。さっきからいろいろめちゃくちゃだよ!壊すなって言ったりその後自分で壊したり。」
ナムトは何を言っているんだ?
様子がおかしいって俺はそんなことない。
どちらかというとおかしいのはナムトの方だと思う。さっきまではこちらが嫌がることしかしていないのに、こちらを心配するみたいなことをして。
「俺にはナムトが何を言いたいのかがわからない。」
「だから!気づかないのがおかしいんだって!」
ナムトの動きが一瞬止まった。
今まで俺の攻撃をギリギリで避けていたから、その一瞬が命取りになる。
「ああ!」
ナムトは、動き回っていた鎖に触れてしまった。
ナムトは呪われた。
「ナムトは呪われた。1回呪われればもう終わり。」
痛みで動けなくなっているナムトに近づいていくと、彼女は睨んできた。
「ナムト、遊びの時間はもう終わりだ。終わらせるよ。」
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