45話 殺し合いという名前の遊び




「で、何して遊ぶの?」


 俺はナムトに聞いた。

 遊ぶ内容を聞いていないからだ。何をやるか知らなければ行動も起こすことができない。

 あと、ナムトの言う遊びというのは遊びじゃない。

 

 そう…それは命をかけた_


「殺し合い!ルイと遊ぶ時にこれ以上楽しいものはないから。」


「殺し合いって、ナムトは最後に逃げるじゃん。俺だけが殺されそうになるってなんか違うと思うんだけど。」


「逃げちゃいけないなんてルールはないから。これも最初にルイが聞いておかなかったのが悪いんだからね。やっちゃダメなんて言われてないんだから。」


「じゃあ今から逃げたらダメってルールを追加させろ。もしくは俺が逃げてもいいというルールをだ。」


「もちろん嫌でーす。最初のルールを変えちゃったら違う遊びになっちゃうのでぇ。」


 その言い方なんか腹たつ。絶対わざとだろ。

 違う遊びになるって殺し合いになるのは結局変わらない。名前が変わるとしたら殺し合いその2という感じになるだろう。他のルールが変わったなら殺し合いその3という感じになる。

 わかりやすいように名前がつくようになるなら、逃げてもいいよ殺し合いとか逃げちゃダメだよ殺し合いとかいう感じになっていそうだ。


 それで今からやるつもりのは、ナムトだけ逃げてもいい殺し合い。

 このルールになる前にお互い逃げないとか、どっちも逃げていいとか設定しておくべきだった。と、後悔してももう遅い。

 この遊びが出来上がったのは3000年以上前なのだから。


「殺し合いって遊びじゃないんじゃないか?」


「何言ってるの?全部遊びでしょ?国の運営も、戦争も、全部さやろうと思わなかったらできないことだし、どれも遊びみたいにやった方がうまくいくことが多いでしょ?」


「それはナムトだけじゃないか?」


「ネクロシア様もだよ。前の喧嘩も遊び感覚でやってたって言ってたじゃん。」


「ナムト…それ以上言ったら遊びを始めようとする前に叩き潰す。」


 それは言っちゃいけない。特に俺の前では。

 前の喧嘩なんて言い回しを使うなんて狙っているとしか言えないな。気にしていることを1番嫌な言い方で言ってくるなんて。


 それ以上言うなら、何の遠慮もすることなく容赦なく潰す。

 ナムトじゃ俺には勝てない。ナムトより強いネクロシアにも俺は勝つことができる。だから殺そうと思えばいつでも殺せる。


 毎回絶妙なところでネクロシアのところに逃げるから殺し損ねてしまうが。


 毎回殺し合いをやろうと誘ってくるくせに、ギリギリまで煽ってくるくせに、ナムトは引き際がものすごく正確だ。相手がキレるギリギリで逃げる。

 頭がいいのか悪いのかよくわからない。


「とりあえず始めるぞ。不意打ちはありなのかそれともなしなのか?」


「それ聞いたら不意打ちにならないよ。まあ、遊んでいる間は何やってもよし!」


 ナムトはかなり機嫌がいいようだ。機嫌がいい時は破壊衝動が高まってしまうようで、今回みたいに特にハイテンションな時だと何でもOKのルールになる。

 なんでもやっていいだと、こちら側が何をやっても向こうが文句を言ってこないということだ。それはいいことだとは思うが、逆にあちらが何をやっても文句を言えない。

 それがたとえ殺しでも、国の破壊でも、人質をとっても。


「合図は?」


「じゃあもう今から。よーいはじめ!ーー!!」


 すぐに初めそうな勢いだったから最後の「め」を言った時にはすでに飛びかかった。

 一撃でやれるようになるべく鋭く貫けるように作った短剣を手に持って。


 刺したと思った瞬間、俺とナムトの周りを勢いよく広がった煙が包んだ。

 

 周りの景色と共に、ナムトの姿も見えなくなる。

 まだ彼女が倒れたところを確認していない。だから油断してはいけない。死んだところをしっかりみてからじゃないと安心することはできない。

 もうどうせ死ぬからと捨て身で倒そうとしてきた相手もたくさんみてきたからだ。


 油断してはいけない理由も他にもある。

 これで倒せるならナムトは遊びと言わない。そう簡単にはやられないのが彼女だからだ。


「も〜急に攻撃してこないでよ。急いで防御して離れて回復しないと本当に死ぬところだったよ?しかも女性の顔を狙うなんて相変わらずルイは遠慮をゴミ箱に捨ててきてるね。」


「奇襲してきていい。なんでもやっていいのがこの遊びなんだろ?だからそっちも文句言えないよな?」


「そう言ったのは確かに私だね。だけどさ、ちょっとは遠慮してよ。」


 なんでもやっていいと言ったのはそっちだ。ただでさえこちらが不利なルールで遊ぶことになるのだからこれぐらいはやらないと気が済まない。

 せっかくなんでもOKと言われているなら、普段は絶対に使わないような手を使っても問題ないのだろう。

 それに最近は、手加減せずにぶつかって死なない相手はなかなかいないんだ。久しぶりに思いっきりやっても相手が壊れなさそうだから遠慮をゴミ箱から拾ってくる必要もない。


 なんでもOKと言ったことを後悔させてやる。


「毒に、煙幕、ナイフ、奇襲に分身、あとは国の綺麗さを犠牲に破壊魔法…やれることは色々ある。今までは不戦勝だったけど、今日はちゃんと勝つよ。」


「ふふ、また不戦勝にならないといいね。あとはもう少し遠慮してくれると嬉しいな。」


「遠慮はゴミ箱に捨てた。」


「あれは大事なものでしょ。拾ってきなさい。あと、あなた一応天人族の騎士なのだけど?そんな暗殺者みたいな立ち回りをしていいの?」


騎士だ。今はその騎士団は存在しない。あと、あれは嫌々やっていただけだ。」


 今の俺は勇者でも騎士でもない。だから誇りとか求められてもそんなものは存在しないし、今の俺の立ち位置はそのどちらでもない。

 いろんなところを旅する旅人でもない。


 今の俺の立ち位置を言うなら…普段は中立、中盤までは勇者側で戦うが後半に裏切る悪役というところだろう。悪役になってしまわないことを願う。

 


 ◆◆◆◆



 もちろんそんな願いは叶わないのだけど…。







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