44話 フライング




「あっち勝手に通信切ってきたな?


 はぁ…この感じだとどうせ全員に伝わってるはずだし、近いうちに喧嘩が再び始まりそうな気がするのは俺だけなのか?」


 くs…母さん…まあこっちの世界での母親がさっきまで通信をしてきたが、やっぱりこちらが聞きたいことは全く教えてくれず、向こうが聞きたいことだけ伝えないといけない。そして、聞きたいことを聞き終えると一方的に通信を切ってくる。

 だからこちらが聞きたかったことは一部しかわからない。


 今回分かったことは、絶対にどっかであの問題だらけの母親が俺のところにやってくるということだ。いつやってくるかも誰が一緒に来るかも何もわからないが備えておいた方がいいだろう。


 まずは何が壊れてもいいように全てを別の部屋に移す。

 次に部屋全体を結界で補強する。この結界は周りに覗き見されないこっそり音を盗み聞きされない効果もある。


「結界を張ってもな、どっちにしろ破壊されるし張らなくてもいいと思う時もあるが、城が壊れないように補強するということでもあるし…一応張っておくか。どうせ壊れるけど。」


 それで、俺が外に出ると絶対に向こうも追いかけてくる。

 逃げても絶対追いかけてくるし、逃げるのかって煽ってくる。逃げるのは方法の1つだと何度言っても向こうはわかってくれない。向こうも逃げたくせに。

 

 逃げたら向こうが何をしてくるかわからないし逃げるつもりもない。

 もし逃げでもしたら、向こうが魔物をけしかけて国を破壊する可能性もある。



 とりあえずこちらの準備は終わった。

 母親が動けばこっちにくる日がわかる。その時になったら元クラスメイト・勇者にも話そう。こっちからみた敵側のボスがやってくるって。


 あとは向こうがやってくるのを待つ。


「準備は終わってる。さっさと来てくれれば楽なのに。」

「なーんでさっさと来てくれれば楽なの?」


「ーー!」


 慌てて後ろを振り向いた。

 そこにはもう1人が入り込んできていて、頭から角が生えていることを確認する。

 

 油断した。必ずしも母親と一緒にやってくるはずがないじゃないか。1人で先に突っ走ってくることも考えておかなければいけなかった。


「久しぶりだねルーイ!」


 部屋の中に既に入り込んでいたナムトは俺に笑いかけてきた。




「なんで既にこっちにきてるんだよ。ナムトは…。ネクロシアはどうしたネクロシアは。」


「ルイ、ちゃんと呼んであげないとだめでしょ?お母さんって。」


「この体の方の母親はそっちだろうけど中身を産んだのは全然別人なんだけど。俺の意識を産んだのはそっちじゃないんですけど。」


 ネクロシアは母親とは呼ばない。母親っていうのとは全然違う。

 あいつは体の方の創造者だ。俺の体を作ったのは3人いて、全員が母親を自称してる。


「作ったのは事実でしょ?その中にルイの意識が入ってきた。それだけだから。」


「なんであの母親とこなかった?」


「だってネクロシア様とは喧嘩になっちゃうから。どっちが先にルイと遊ぶかって。だからフライングだよ。一緒にきて喧嘩にならないように、私が先に来ちゃったの。」


 それはそれで喧嘩になると思う。

 どっちと先に遊ぶかで喧嘩をするなら、先に遊んだナムトをネクロシアは怒ると思う。先に行っちゃったのずる〜いとか言って殴り合いになると思う。


「それはそれで喧嘩になると思うけど?」


「喧嘩になるなら別になっていいわ。先にルイと遊べばネクロシア様はすごく悔しがるでしょ?その感情の動きが見られるなら問題ない!」


 そうだった。ナムトは相手の感情が動くのが大好きだった。昔からそうだ。あまり感情や表情が変わらないように見える俺を怒らせたり笑わせたりしてきて、それをナムトも楽しんでて。


「相変わらずなんだな。感情的になっている人が好きなのはさ。」


「うん。動いているのを見るのがものすごく楽しいんだ!だからネクロシア様が怒っても問題ないの。」


「そっか。帰ってくれないかな?ネクロシアも今帰ったら怒っているところが見られるけど?」


「帰らないよ。ルイと先に遊ぶためにここまできたんだから。あとちゃんとお母さんって呼んであげないとだめだよ?」


「もうその命令の効果は切れてるんだよ。自由に呼べるし問題ない。」


「じゃあ遊ぼうか。」


 そう言って、ナムトは飛びかかってきた。

 

「っておい!部屋の中じゃなくて外でやれよ!」


 ここでやったら部屋が壊れる。それと一緒に城も壊れることになる。

 だからできるだけ早くナムトを外に引っ張り出さないといけない。」


「ルイには私が中にいた方が都合が悪いんでしょ?ルイが嫌がるならずっとこの部屋の中で遊ぼうか。」


「じゃあ力ずくで外に引っ張り出すよ!」


 俺はナムトに素早く近づいて後ろに回る。

 後ろに回ってもすぐに気付かれて振り向かれてしまう。


 ナムトは振り向いてすぐに止められないからその止まれないのを利用して、腕を掴んで投げ飛ばす。


 窓は壊れたけど、これぐらいならきっと国の方も許してくれる。

 もし許してくれなかったら滅多に手に入らない薬草とか、もう作れないはずのアイテムとかを渡して許してもらおう。売ればかなりのお金になるし、売らなくても国の役に立つから。


「いきなり投げるなんてひどいよルイ。空で遊ぶことになっちゃったじゃん。私空中戦は苦手なんだけど。」


「前に空中戦が苦手とか言って空に壁を作ってきたナムトが何を言ってるんだ?というより、翼はだいぶ小さくなったんだな?やっぱりネクロシアの力を無理やり適応できるようにさせられたからか?」


「お母さんでしょ?無理矢理じゃないよ。私の意思。私が頼んでこうしてもらったんだよ。ルイがそうなっちゃう前にね。」


「部屋の中での遊びは俺の勝ちだな。」


「そうだね。勝ちは譲ってあげるよ。だけど次の遊びからは全部私が勝つから。」


「やってみろ。」

 

 俺は挑発するようにニヤリと笑った。



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