43話 ナムトは1人で先に行く




 ナムトはネクロシアとあった後、男タディとも別れて自分の家に戻ってきた。

 

 彼女の家は崖に作られている。

 崖の近くではなく、崖を掘って家としてそこで暮らしている。


 その場所は、飛べる種族のみしか来られる場所ではなく、やってこられるものも少ない。

 だからあまり人と関わりたくないナムトは、人そのものがやってこないような場所に家を建てた。


 家に着いた後、ナムトはすぐにネクロシアに言われた準備を始める。

 準備とは言っても持っていくのは人の国に行っている間、人の国で隠れている間の食料や着替えなどだけだ。その場に置いてあるものをポイポイと入れていくだけなので、準備はあっという間に終わってしまう。

 本当にすぐに準備は終わり、ナムトはまとめた荷物を背負う。


 そのあとすぐに背負った荷物を下ろし、机に紙を取り出してすぐそばの椅子に座る。


 机に置いてあったペンを使って、その紙に字を書き始めた。



 ◆◆◆◆



 ネクロシア様へ


 私は家に帰ってからすぐに準備をしました。鞄の中に食料と着替え、あとは回復薬。私は武器も魔法もガンガン使っていくタイプですので投げナイフに短剣なども入れました。

 荷物を準備し終えるのには1日もかかりませんでした。

 1週間も待っていただかなくてよかったです。3日で足りました。申し訳ありません。


 さて、荷物を準備し終えてから何もすることがなくなりました。

 何もすることがなくなったら、早くルイに会いに行きたくなりました。

 あの子は私によく懐いてくれていましたから、会いに行った時には久しぶりに遊んであげたいと思っています。

 再会した時にはまず私に遊ばせてもらえないでしょうか?

 ネクロシア様もルイと遊ぶのをとても楽しみにしていると思います。誰よりも最初に遊びたいと思っているとも思います。

 ですが、私も最初に遊びたいのです。


 ネクロシア様はそれを絶対に許してくれないでしょう。

 下手したら私が殺されてしまいます。ネクロシア様はものすごく強いので、私程度ではあっという間にやられてしまいます。私が戦っても1撃も入れられずに殺されるでしょう。


 ですがそれは、ネクロシア様と私が一緒にルイに会いにいくことで起きます。ネクロシア様と私がどちらが先にルイと遊ぶか言い争ってしまうと大変なことになってしまうのです。主に私が。


 なので会いにいく時間をずらしましょう。

 私が先にルイに会いに行ってきます。先に遊んできます。

 こうすれば、喧嘩になることなく穏便に終わるでしょう。

 ネクロシア様がルイに会いにきた時には、すでに私はルイと遊ぶことができて満足していると思います。

 

 ネクロシア様は1週間後にこの手紙を見ることでしょう。

 帰ってきてからなら怒っていただいても構いません。

 もしかしたら同じようなことを考えて私を足止めに来る可能性も考えましたので、その日のうちに出発することにしました。

 

 この手紙をネクロシア様が読んでいる頃、すでに私はその家にはいないでしょう。

 正直、あなたの感情を動かすのがものすごく楽しいです。

 きっと私は次にネクロシア様にあった時によくて半殺しにされると思います。

 

 

 最後に、私は先にルイと遊んできますので、遊び終わった後にやってきて悔しがってください。感情が動いているのを見るのが私は本当に好きなんです。

 ネクロシア様は感情があまり動かないのでもっと動かして欲しいです。


                               ナムトより



 ◆◆◆◆



「よし。これでいいか。流石に尊敬している人にタメ口とかは違うかなって思ったから、一応敬語にしてみたけど、やっぱり敬語ってちょっと気持ち悪いな。

 いや、きっとさ、敬語が上手な人っているわけじゃん?私がすっごい下手くそなだけで。上手な人の敬語はきっとすごく綺麗だと思うんだ。」


 手紙を書き終えたナムトはその手紙を1番最初に見る場所であろう家の入り口の扉に取れないように取り付ける。


 そのまま荷物を持つ。これは背負っていくための鞄だが、背負ってしまうと空を飛んで移動できないことにナムトは気がついた。気づいたナムトは鞄を前に背負っていくことにした。


「じゃあ行ってきます。」


 誰もいない家にナムトはそう言った。


「ルイに会いにいくからね。せっかくだしとっておきの魔物を持っていこう。」


 こうも言った。少し不吉な気がするが、きっと大丈夫だと思う。

 

 ナムトはそのまま飛び立った。目指すは人が暮らしている大陸。魔大陸の隣にある魔大陸よりも小さいが栄えている大陸。そのアイリス王国。


「お姉ちゃんが会いに行ってあげるからね。」



 ◆◆◆◆



 これはそれからわずか3日後のこと。


 ナムトの予想通り待ちきれなくなったネクロシアがナムトの家にやってきた。


「さあナムト!ルイに会いに行きましょう!」


 入り口の扉を開ける前に自分宛に紙が張ってあるのに気づいたネクロシアは、それを読むのを後回しにした。

 できることならナムトを置いていってでも早く会いに行きたいからだ。結局、タディは準備ができていなかったため、出来次第遅れていくことになっていた。


 ナムトの家から返事はなかった。


「ナムト?流石に起きているわよね?もう朝からかなり時間が経っていると思うのだけど…。ナムト?」


 返事は返ってこない。

 部屋は暗いままで灯りもついていない。

 

 靴もない。

 それに気づいたネクロシアはどこかに出かけていると思ったが、違うと思っていた。

 

 ナムトはそんなに馬鹿ではないのだ。ネクロシアが待ちきれずに早くやってくることぐらい予想していたはずだ。そう確信していた。


 と考えると、重要なのは入り口の扉に貼ってあった紙の方だ。


 ネクロシアへと書かれている半分に折りたたまれて貼られていた紙を開く。


 そこにはネクロシアあてに置き手紙が書かれていた。





「あの子、抜け駆けしたわね!私もルイに会いたくてだけど1週間後って言っちゃったから、だけどそれでも待ちきれなくて頑張って3日まで我慢していたのに…ナムトはその日のうちに会いに行っちゃったのね!

 やってくれたわ。ナムトの性格は悪いなと思っていたけど、感情が動くのが好きって悪趣味すぎるわ。

 悔しがってくださいって今悔しがっているわ。だけどナムトが喜んでしまうのは嫌。だから悔しがるのはここまでよ!


 すぐにでも出かけて追いついてやるわ!ナムトは絶対に半殺しにしないと。殺さないように力加減に気をつけてね。」



 ネクロシアは、すぐにナムトを追いかけてルイたちのいるアイリス王国へ向かった。







 

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