38話 クラスメイトは全員で18人
「白鳥 涙。あいつはいつからいなかったんだ?
召喚された時も、グループで別れた時も、誰もあいつのことを気にしなかった。
最初から一緒になんていなかったのに。
僕はあいつのこと絶対に忘れることなんてないはずなのに。」
「なんで私たちは
あんまり話したことも関わったこともないけど、おんなじクラスメイトなのに。」
「俺もさ、存在ごと忘れてたぜ。最初からあのクラスの中にいなかったみてえに。」
勇者たちの様子がおかしい。
突然ルイの前世の名前を言ったり、忘れていたと言ったりわけがわからない。
アリスは勇者たちが言っていることを理解できなかった。困惑していた。
彼の前世のことを知っているから、転生前のことだろうとは理解できる。だが、勇者たち…彼らの話している内容の意味はわからない。
忘れていた?
忘れている時の感覚をアリスは知らない。
勇者たちは何を忘れていたのだろうか。
「忘れていたって、何を。君たちは何を忘れていたんだ?」
「アリスさん。私たちは同じクラスにいるはずだったクラスメイトのことを忘れていたんです。
こっちにきてから1人欠けていることに何も違和感を感じていませんでした。
ずっと1人いないことを忘れて過ごしていました。」
「存在を忘れていた!?そんなことがあり得るのか?」
「ありえないと思いたいですが、実際に覚えていませんでした。
そもそも、私たちにとっては異世界召喚そのものもありえないと思っていたものなので、ありえない話ではないと思っています。」
「ああ、確かにそうだったな。魔法すらも存在しない世界と言っていたしな。」
「あ〜!
…………僕、あいつのこと思い出したくなかったな。思い出さなければあの恥ずかしい時期のこともなかったことにできたのに…。あれはもう思い出したくない。忘れたいとずっと思ってて、本当に忘れられたのにまた思い出しちゃうなんて。あぁ〜恥ずかしい。」
めぐるが突然大きな声で叫び、そのあと小さな声でぶつぶつと何かを言っている。
恥ずかしいと言っていることはわかる。
きっとめぐるは、白鳥 涙について忘れていた恥ずかしい何かを思い出したのだろう。
今彼がぶつぶつと呟いていることも、恥ずかしくてたまらないから言ってしまっていることなのだろう。
「うぅ〜。穴があったら入りたい。」
「なあめぐる。穴はめぐるが自分で作れるんじゃねえか?」
「あっ、確かに。僕は精霊の力を借りられるから、こんな土だらけの場所なら簡単に穴を作れるよ。よし穴を作ろう。土の精霊さん、穴を掘って。」
めぐるは土の精霊を呼び出し、穴を掘ってもらった。
「ありがとう。」
精霊に礼をしたあと、めぐるは穴に飛び込む。
穴は直径2m、深さは5mくらい。
レベルが上がり、身体能力が上がった今では降りても怪我をしないくらいの高さだ。
「アリスさん。私は白鳥 涙というクラスメイトのことを今まで覚えていませんでした。
クラス全員の人数を17人として記憶していました。
アリスさんに18人いるクラスメイトと言われて、それに納得していました。
私たちのクラスは17人ではなかったのか?と疑問に思いませんでした。18人いるものだと私は思ったんです。
実際クラスメイトは全員で18人でした。
私は忘れているだけでした。
アリスさんが思い出させてくれました。
だから気になりました。
どうしてアリスさんは17人しか召喚されていないのにクラスメイトが全員で18人いると知っていたんですか?」
みなみは鋭い。
こちらが話したことのおかしいと思ったところに気づき、聞いてきている。
召喚された勇者は17人だ。
白鳥 涙はこちらの世界に黒翼の天人族ルイとして転生してきている。
確かにこちらがクラスメイトが18人いると知っているのはおかしいだろう。
「アリスさんは白鳥 涙に会ったことがあるんですよね。」
指摘されてしまった。
指摘されなければそのまま流して誤魔化すこともできた。
だが、今誤魔化してもほとんどバレているようなものだろう。
余計に怪しまれてしまうだろう。
どう話せばいいか。アリスはそう考え込む。
クラスメイトは全員すでにルイと顔を合わせている。
そんなすでに会ったことのある、勇者を鍛えている人を涙だと言って改めて紹介しても気まずくなるだけだ。
しかも試練の迷宮に挑んでいる恵美、誠司、穂乃果、聖也の4人はルイをクラスメイトに紹介している時点で知っている。
なんで教えてくれなかったんだとクラスメイトは4人に聞くだろう。
なるべくわかりやすく、誰もが納得できるように説明しないといけない。
あとは、ルイ様のことを勝手に話してしまっていいのかだが。
………。まあ止められていないしいいだろう。問題ないだろう。
「あるかないかと聞かれれば、ある。それをこれから教えるよ。黙ってろとも言われていないしな。
だからめぐるもちょっと出てきてくれ。」
「えっ!?外に出るの?ちょと待ってまって。 あっやばっ!」
めぐるは何やら慌てている。
「誰か出して。降りられるけど出ることを考えてなかった。こんな高い壁には登れない…。」
「「「………。」」」
「精霊に力を貸して貰えばいいじゃねえか。」
「なんで気づかなかったんだ。僕のばかぁ!すぐに外に出るよ!」
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