37話 プロローグ・白鳥 涙




 白鳥 涙。

 僕たちと同じクラスで過ごしていたクラスメイト。

 窓際の席でいつの寝てばかり。なのにどことなく不思議な雰囲気を纏っている。

 ぼーっとしていて、何をみているのかが同じクラスの人にもわからない。

 ほとんど言葉を交わしたこともないからどんな人物なのかもわからない。

 基本的に目立たなくていつも1人でいる。

 そんな印象があるのが彼だ。


 彼はクラス1の美少女でみんなの憧れ、青花 恵美さんと幼馴染であり今も親友だ。

 さらに赤坂 誠司とも仲が良い。

 彼の周りに誰かが集まるときはいつも3人で、時々空島 穂乃果とさらにごくたまに金竜 聖也がその輪の中に入る。

 何も繋がりなんてなさそうなのに、彼の周りにはなぜかクラスや学校の憧れの人や人気者が集まっている。


 あと、彼は顔が良い。整っているというか、女の子みたいに綺麗で可愛い。本人にそれを言うと怒られると誠司に言われていたので、それを言ったことはないが本当に美形だ。

 女子からもかなりモテている。なのに彼の周りにクラスの女子が集まっていかないのは、青花 恵美が他の女子が近づいてこないように警戒しているからだ。

 そうやってモテて、憧れの人に気遣ってもらえて、そんな彼に男子らは嫉妬した。羨ましいと思った。

 誠司とも仲が良くて、聖也と話していることもある。どうしていつも1人のお前は人気者と話せて、頑張って周りに好かれようとしている僕にはそんなことがないんだ?そう思った。


 しかも勉強もできる。授業中寝てる時だってあるのにもかかわらず成績がいい。

 テストだって、いつも赤点は絶対取らないし学年でもトップクラスだ。

 

 ただ羨ましかったんだ。だから、僕と同じように思った同じクラスの男子と協力して、彼に話しかけないようになった。彼に冷たい視線を向けるようになった。

 時折、その視線から嫌そうに目を逸らしているのをみて、心が少しだけスッとなった。

 クラスの男子と隠れて影であいつの悪口を言った時は心がスカッとなった。ドロドロとした感情が、そのまま水と一緒に流れて空気がよく通るようになった感覚だった。


 それ以来僕はあいつの悪口をみんなに広めるようになった。

 あいつの悪い噂はいろんなところに広がった。

 噂に影響されて、今まで彼のことを見ていた奴らも誰もあいつに近づかなくなった。


 ざまぁみろ。人気者や僕らの憧れの人と仲良くしてるからこうなるんだ。

 そう思った。


 だけど彼はそのことを全く気にすることなくいつも通りに過ごしていて、それを見ているとムカついた。だから、さらにあいつの悪口を広めた。僕はいろんな人と仲が良いから噂はどんどん広がっていく。広がっていくたびに尾鰭がついてほとんどが嘘のものに変わっていく。

 それでも噂は噂のままだ。本当のことじゃない。本当かもわからないから嘘でも関係ないんだ。刺激的ならそれで問題ないんだ。彼のことを羨ましいと思っているのは僕だけじゃないのだから。どんどん悪い方向に尾鰭がついていくんだ。


 そのうち彼が近くにいる時でも平気で彼の悪口を言う人が現れた。

 聞こえているくらいの声量で、遠慮なくその話をする。

 僕はそれを注意した。聞こえるところで言っちゃいけない。聞こえないところでいうものなんだって。時々あいつの近くであいつだけに聞こえるように言うものなんだって。

 あいつは、僕が流した悪い噂によってさらに孤立していった。


 それなのに、青花 恵美さんと誠司はあいつと仲が良いままだった。

 しかも、その悪い噂を聞いた2人が彼を慰めて励ましていたのだ。


 僕は、あの3人はあいつの悪い噂が流れればすぐにどこかに離れていくくらいの関係だと思っていたのだ。

 だけど全然そんなことなかった。

 今回のことをきっかけに、3人の仲はさらに良くなった。

 今まで以上にあいつが1人で過ごすようになったからか、青花 恵美さんと誠司はあいつと一緒にいる時間が増えて、僕たちと話す時間が減った。

 悔しかった。わざと悪い噂まで流したのに、彼に人が近づいてこないようにしたのに、あいつと2人がいまだに仲が良いままなのが悔しかった。

 どうにかしてあいつを困らせたかった。孤立させたかった。2人をあいつから引き離したかった。



『あれ?俺の消しゴムどこにいったんだ?』


『るいくんどうしたの?』


『あっいや、机の上に置いてあったはずの消しゴムが無くなってるんだ。あの消しゴムを使って、消しゴムそのものを全て消しかすに変えてみる実験をしてたんだけど。見つかったら教えてくれないか?1cmくらいの大きさなんだが。』


『わかった。見つかったら持ってくるね。』


『ありがとう。』



 その消しゴムが見つかることはもう絶対にない。なぜなら僕が机の消しかすを片付けると言う建前で消しゴムを回収してゴミ箱に捨てたからだ。

 あの大きさの消しゴムならうっかり捨ててしまうこともあるだろう。あるから問題ない。



 ◆◆◆◆



『あれ?俺のシャーペンどこ言ったんだ?』


『どうしたんだ涙。』


『いや、シャーペンが見つからなくてさ。ペンケースと一緒に出しっぱなしにしてたと思うんだけど。』


『ふぅん?じゃあ見つかったら教えるぜ。』


『ありがとな。こんなときに相談できる親友がいてよかったよ。』



 ◆◆◆◆



『恵美、誠司!探すの手伝ってくれ!』


『『どうしたんだ(の)!』』


『2人に誕生日の時にもらったキーホルダーがなくなってる。学校に着いた時にはまだ鞄にくっついてたんだ!あれは本当に大事なものなんだ。』


『じゃあ、階段のところから探してみよう!』


『あっ俺、ちょっときりが悪いから先に行っててくれ!』



 あいつはものすごく焦ってる。いい気味だ。

 僕は廊下側の自分の席に座って笑う。

 見つかる訳ないんだ。キーホルダーは僕が持ってるんだから。


『おい、流石にやりすぎだ。いい加減にしろよお前。

 いくら涙が気づかなかったからって調子に乗るなよ。』


『何を言ってるんだい誠司。僕なんのことか全くわからないよ。』


『じゃあその手で隠してるの見せてみろよ。』


『ー!!』


『涙は、ものをよくなくすからちょっとどこかにものがなくなるのは何も気にしない。だけど、大事なものだけは絶対に無くさない。無くしたとしても絶対に見つけ出す。そんなやつなんだ。

 前にさ、その大事なものを、涙のことが羨ましいからって言って勝手に持っていったやつがいたんだ。

 涙はキレたよ。滅多にキレないあいつがびっくりするくらいに。

 あれは本当に怖かったよ。

 だからさ、後悔する前に手に持ってる涙のキーホルダー返せ。』


『……僕は、誠司が言ってる前に大事な物を勝手に持っていったやつとおんなじことを考えてる。僕はあいつが羨ましいんだ。嫉妬してるのはわかってるけど、この感情を止められないんだ。

 あいつは少し困ればいいんだ。だから僕は前にやったやつのように勝手に持っていったんだ。』


『ねえ、あんたが俺のキーホルダーを持ってったのか?俺が落とした訳じゃないのか?なあ!!』


 そんな声が聞こえて後ろを振り向くと、あいつ…白鳥 涙がいた。

 あいつの眉間には皺がよっていて、僕のことを突き刺すように睨んでいた。


『いや違う!僕は落ちていたのを拾っただけだけど。ちょうど君に返しに行こうと思ってたんだ。ハイ。』


 僕が慌てて渡したのを、あいつは雑な手で持っていった。

 そのあと、ドライアイスみたいに冷たい目をこちらに向けてきた。


『落ちてたのを拾った?お前は何言ってんだ紫音 めぐる!さっき勝手に持ってったって自分で言ったよな。最近なくなった消しゴムやシャーペンもお前なのか?最低だな。胸糞悪い。

 お前は俺のものを勝手に持ってた。これは窃盗だな。法律破ってんな。

 お前はさ、自分の大事な物取られたらどう感じるんだ?

 誰かのものをとった時みたいに笑っていられるのか?いや、本当に大事なもの取られたら笑っていられる訳ないからそれは大事なものじゃなかったってことだな。

 そもそも羨ましいからってものを隠したり悪口を広めるなんてほんっと子供だな。本当に中学3年なのか疑問に思うよ。

 そう言うことをする奴はいつかバレて全部自分に帰ってくるぞ。

 自分がやられて嫌なことは人にしたらいけないんだ。これは基本だろう?人によって考え方は違うからそ難しいところだが、これはわかりやすいから簡単だろう?それなのにお前は何w__________』



 ◆◆◆◆


 

 それ以来僕はあいつに近付かなくなった。

 近付かなくなっても羨ましいのは変わらない。嫉妬するのも変わらないんだ。

 今日も僕は教室の隅で友人とあいつの悪口を言う。


 はずだった。


 僕はクラスメイトと共に異世界に召喚された。

 魔王を倒す勇者として。

 






あとがき

 ㊗️10万文字!!

 たくさん書くことができています。この物語は何文字までいくでしょうか。

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