35話 放り込まれた先に何があったのか
私も含めて訓練場にいたこの国の騎士たちは全員、このレベル上げ特化迷宮の中に放り込まれた。
この中でいったい何があったのか。
今からそれを語っていこうと思う。
あの中に放り込まれた時、私はなんでそこから悲鳴や叫び声が聞こえてくるのかが最初わからなかった。
入ってすぐは、周りに何もなかったからな。
だけど、すぐにその理由がわかったんだ。
どうみても自分より格上の相手。それがたくさんいたんだ。
自分の倍くらいの大きさがあるオーガ。
群をつくって動き回るシャドウウルフ。
空を飛んで静かに私たちの首を切り取ったウインドバード。
他にもたくさんの魔物がいた。
そんな魔物に常に襲われながら過ごしていたんだ。
本当に怖かったよ。どこに逃げても魔物しかいないんだ。
隠れても隠れてもすぐに見つかってしまう。
だからずっと動き続けたんだ。
途中、何回か死んだよ。
私は死ななかった。騎士たちが守ってくれたからだ。
騎士たちは何回も死んで、いろんなところで生き返っているから、合流できずにはぐれてしまった騎士たちもいた。
死ぬというのがこんなに怖いとは思わなかった。
だけど、初めて死にそうになった時、これで楽になれると思ったんだ。
だから絶望したよ。
死んでも逃げることができない
ああ、なんでこの空間と言っているかを聞きたいのか?
いいよ。答えよう。
まだ私たちはレベル上げ特化迷宮から出ることができていないんだよ。
◆◆◆◆
アリスは、騎士たちと共に、隠れていた。
隠れていてもしばらく時間が経つとすぐに見つかってしまうが、少し休むくらいなら見つかることはない。
隠れている間は、少しだけ気を抜くことができる。
だから、アリスはいつもの強気な性格から元通りの性格に戻っていた。
「うう、ルイ様はなんで私たちをこんなところに入れたんだろう。私、近くで守ってくれる人がいないとあっという間に殺されちゃう魔法師だよ。騎士たちが守ってくれているから1番死んでないだけで。」
「アリス様、大丈夫です。俺たちがしっかり守ります。この中であの魔物を唯一単独で倒すことができる人ですから。」
「ありがと〜。私、すごく嬉しい。」
「そ、そうですか…。よかったです。」
本当に守ってくれて助かった。
魔物にやられそうになった時も、騎士の人に助けてもらったから。
ここで今まだ一度も死んでいないのも騎士たちのおかげだから。
(あれ?アリス様ってこんな感じだったっけ?俺のイメージだともっとしっかりしていて、周りを引っ張ってくれそうなリーダーっぽい人だと思ったんだけど…。)
アリスにお礼を言われた騎士は戸惑っていた。
あれ?この人ってこんな性格だったっけ?と。
「よし!全員で外に出ないとね!」
アリスは勢いよく立ち上がり、休んでいる騎士たちの前に出た。
「これから外に出るためにこの辺りを探索する。私は武器の扱いが下手なので、魔法を放つまでの間守ってほしい!よろしく頼む。」
「「「「「おおおおお!!!」」」」」
「俺が絶対守ります!」
「私もアリスさんについていきます!」
大きな声を出して、近くの魔物がこちらの存在に気づく。
気づいた魔物が一気にこちらに近づいてくる。
ズドドドと大きな音を立てているので、どのあたりにいるのかがよくわかる。
「よし。出発だ!」
アリスと騎士たちは、一斉に隠れていた場所から飛び出した。
前にはオーガ、後ろからはスピードウルフの群れがやってきている。
どちらに向かうか…。それは前の方だ。
前にいるオーガは一体だけだからだ。
何体もいたなら一体が倒しやすいスピードウルフの方に行っただろう。だが、今回は一体しかいないのだ。その先に何があったとしても、今先に進みやすい方を選択する。
こちらには、そこそこ強い騎士たちが何人もいる。
オーガは確かに強いが、全員でかかれば倒せないわけでもない。
騎士たちが一斉に飛びかかる。
すぐにやられてしまわないように、アリスは魔法を放ち援護する。
今回は皮膚が傷つきやすい火属性だ。よく燃えよく焦がしてくる。
アリスの魔法の火力はかなり高い。少なくとも、騎士たちの攻撃よりは。
その攻撃は騎士たちを綺麗に避け、オーガに直撃する。
オーガがバランスをぐらりと崩す。
直撃した魔法によってオーガは火傷をする。
バランスを崩した隙に、一気に騎士たちは切り掛かる。
もちろん剣に属性を纏わせて攻撃力を上げてからだ。
その攻撃1発なら、オーガも耐えることができただろう。だが騎士たちははぐれてしまった人を含まなくても10人以上いる。
同じような攻撃が10発も当たれば、1発は耐えられるオーガも耐えることはできない。
オーガは、血を流して倒れた。
「先に進むぞ!」
オーガを倒した後、アリスと騎士たちは一気に先へ進んでいく。
後ろから追ってこようとしたスピードウルフも追いかけてこないくらい離れようとする。
「アリス様、逃げ___」
1度、逃げ切ることができても、脅威は再びやってくる。
一瞬で騎士が5人倒された。騎士は光になってどこかに消える。
きっとどこかわからない場所で復活しているのだろう。
アリスは騎士を倒した魔物を見て、動けなくなる。
見た瞬間に気づいたのだ。
_これには勝てない…。
それは黒い竜だった。
竜とはずっと昔から最も強い魔物と恐れられている。
これから復活する魔王も、形は竜かもしれないと言われるほどだ。
アリスも竜のことは知っていた。
だが、見たことはない。
だから、初めて竜を見た今、理解してしまった。
逃げないと殺される。
◆◆◆◆
「アリスさん起きてください!
ここでずっと倒れていたら死にます!」
「アリスさん早く起きろ!」
「んあ、ふわぁ〜。あれ?え〜っと、みなみさんに大剣を使うみなみさんとよく一緒にいる勇者?どうしてこんなところに。」
「どうしてこんなところにって、アリスさんが突然ここに復活してきたんだよ!」
「あっ!めぐるさん。ごめんなさい。」
アリスは勇者達が隠れているところに復活した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます