34話 レベルは簡単に上がらない



◆◆◆◆



 出かけて帰ってきてからはや1日。あっという間に次の日になった。

 出てくるのが遅い。迷宮に無理やり突っ込んでからもう5日、俺が出かけて帰ってきてから1日経ってるんだが…。

 相変わらず迷宮の中から叫び声や悲鳴が聞こえてくるが、まだ、かなりたくさんその声が聞こえてくるため、魔物を当たり前のように倒せているわけじゃなさそうだ。

 これはおかしい。流石に遅すぎるだろう。

 俺の予想だと、1日くらいで出てくると思ったんだ。

 中にはレベル50を確実に超えてる魔物ばかりを入れてるからレベルの伸びがゆるくなるってこともないし、万が一レベル50を超えてもまだ足りないって人がいたら、レベル200ぐらいまでは上げられるように作ったのに。

 レベルはただ戦ってるだけじゃ上がらないから、他のことも含めてこの迷宮で鍛えられるようにしたんだ。

 だからこの迷宮はレベル上げ特化迷宮って名前だし。だけど今更ながらこの迷宮の名前ダサいなって思ったから試練の迷宮ってカッコつけて言ったけど、本当の試練の迷宮は、恵美と誠司、穂乃果と聖也が入ったあの迷宮だけだ。クラスメイトが入っている迷宮は本当にレベル上げ特化迷宮という名前だ。

 昔、迷宮の名前は適当でいいか。使うこともないだろうし…なんて考えてそのまんますぎる名前にしたことを今、後悔している。


 まさか今、この迷宮を作った目的通りに使うとは思わないだろう。もともと使うわけないと思って作ったから。レベルなんて、森を散歩すればあっという間に上がるものなんだから。俺ぐらいになると、流石にポンポンとは上がらなくなる。最近で上がったのは1年前だ。多分、何もなければ1年くらいは上がらないだろう。

 

 そういえば、アリスのレベルはどれくらいなんだ?ふと、王国はどれほどの戦力を持っているのかが気になった。せっかくだし、何人かに聞いてみるか。


「なあ、アリスはレベルどれくらいあるんだ?」

「えっと…私ですか?」


 アリスはなぜそんなことを聞かれたのかわからないような顔をして、聞き返してきた。


「ああ。最近の中で、アリスがどのくらいのレベルがあってどのくらい強いのかが聞きたいんだ。

 俺は昔の強さしか知らないからな。」

「そっちの方が知りたい人は多いんじゃないでしょうか…。まあ、私のレベルは59です。この国では1番高いですね。」


 アリスは笑いながらサッと答えてくれた。

 その答えを聞いた瞬間、俺は少しだけ固まった。

 そのあと、足から俺は崩れ落ちた。

 うつ伏せになりそうになるのを手で支えることで、転ばないようにする。


 言いたくなってしまった言葉は、アリスも他の騎士たちも絶対に傷ついてしまうため、喉から出かかるギリギリのところで飲み込む。

 そして、心の中で、俺が言いたくなったことを言う。


 最近のレベル…低!

 

 59レベルってなんだ?そんなの初めての狩りだけで上げられるくらいのレベルだ。1日もあれば簡単に上げられるはずなんだ。

 最初は戦うことにビビってた俺でさえ一日で60は上がったんだ。

 上げる人は100以上あげるらしいし、俺にはそれが当たり前だった。


 だからこそ、そのレベルがものすごく低く感じられる。


「なるほど…。アリス、気づいたことがあるんだけど、もしかしてレベルって上がりづらいものなのか?」

「ルイ様何言っているんですか?自分より強い魔物を倒さないとレベルが上がりづらいのは当たり前ですよ!59を超える強さを持っている魔物がこの辺りにはいないんです!」


 なるほど…。俺は全てを理解した!


 昔は外にいる魔物自体がものすごく強かったんだ。だから、低レベルで戦っている人はどんどんレベルが上がるし、レベルが高いやつもどんどん強くなっていく。

 逆に、魔物が強すぎるから、死人も増える。

 昔に死ぬ人が多すぎるなとは感じていたが、それが理由だったとはわからなかったな。


 今は外にいる魔物が弱いのか。

 まあ、魔大陸には、レベル上げ特化迷宮の中にいる魔物以上に強い魔物が暮らしていることもあるし、人が全然入ってこないような森とかでも、探せば強い魔物がいると思うけど、全体的にみると魔物のレベルは下がってきているだろう。

 それと同時に、簡単に上げられるレベルが少なくなった人のレベルも低くなっていった。そう言うことだ。今もなおレベルが高いのは、天人族ほどではないが長い時を生きるエルフやドワーフなどの妖精族、魔神に協力して闇側に堕ちた魔族だろう。


 ちょっと、勇者以外の強さが不安になってきた。

 勇者には最終的に100以上になってもらうつもりだったのに、このままではこの世界の人が勇者と魔王の戦いについてこられなくなる。

 この不安はどうすれば解消できる。

 そんなこととっくにわかりきっているんだ。

 あとは決断してそれを行動に移すだけで。

 強制的にこれをやるのは流石に俺も酷いと思う。思うが、ちょっとこれは本当に予想外だったんだ。

 だから、俺を絶対に恨まないでほしい。

 恨みを俺にぶつけないでほしい。ぶつけられても体は無傷だけど心は傷つくから。


「ここにいる騎士たちだけでも全員突っ込んでみるか?」

「ルイ様?」


 アリスが俺の様子がおかしいことに気がついて心配しているのが見える。

 だが大丈夫だ。俺は問題ない。


「警備は俺が担当するからと言って、戦う人は全員強制的に戦ってもらってレベルを上げてもらうか?」

「何を言っているんですか?大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。すぐに終わる。」


 もう誰を突っ込むかとかは関係ない。全員突っ込めばいやでもレベルは上がる。俺が設定した一定の数値までレベルが上がれば自然と地上に戻ってこられる。


 俺は、アリスとその近くにいた騎士を捕まえて引っ張る。ちょっと騎士の人を持ち上げて運ぶのに身長が足りなかった。仕方がないから引きずって移動しよう。


「まあ、全員、頑張ってくれ。」


 俺は近くにいる人全員に笑顔でその言葉を言う。


「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」」」」」」


 訓練場にいた騎士や魔法師、兵士は全員逃げ出した。

 だがそんなこと俺は許さない。すでに逃げ出せないように結界を張ってるんだ。

 一人ずつ迷宮の中に放り込んでいく。


「頑張ってレベルを…自分の強さを上げてくれ。」


 冷静になったと思われる俺にうつった迷宮に放り込まれた時の兵士の顔は絶望の色に染まっていた。

 青空もびっくりな真っ青な顔色である。







 

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