32話 悩みと寄り道
うっかりぽろっとそんなことを口に出した。
「流石に冗談にしておかないと。いくらなんでも早すぎるし重すぎる。…」
全てを知るのも俺が助けを求めるのも…。
声には出さずに言葉を続ける。声に出さないようにしているのは、一気に心が崩れないようにするためだ。ずっと隠している本音をうっかり漏らしたりしたら、ポロポロと一気に崩れ去ってしまう。
そうなったら全部吐き出してしまいたくなる。
辛いと相談したくなる。
だから俺は口には出さないし、誰にも打ち明けるつもりもない。
心が弱ると、それと同時に体も弱る。今の状態でそれは絶対にダメなことだ。
だから、全て強くないといけない。払い除けないといけない。そうしないと生きていくことはできない。
「だから、もう少し頑張らないと…。」
立ち上がって、自分の頬をパンッと叩く。
叩いた理由はなんか気合を入れ直せそうだったから。
もうちょっとだけでも頑張らないといけないから。
「魔神の残り滓はもう直ぐ復活する。それだけは伝えておこう。今回召喚された勇者にさ。」
確実に伝えるのはそれだけにしておこう。
後のことで気づかれることがあったらその都度教えていこう。
気づいてきたのが元クラスメイトだったとしても誤魔化さないで答えよう。
「よしっ!帰るか。」
魔大陸で特にやりたいこともないし、やろうと思ったことも済ませたし、何があるかわからない大陸にいるよりはいつも暮らしてる大陸の新しい国の観光とかに行った方がいいし。
あとは、もう少しぶらぶらしてれば迷宮に放り込んだ勇者も出てくるだろうし。
俺は、来た道を帰るために体の方向を変える。
だけど、寄り道するつもりだから来た道と全く同じじゃなくて少しずらして移動する。
方向を変えてまっすぐいけば、どこに着くかはわからないけどそれはそれで楽しいし、帰る方向は最初からわかってるから。
◆◆◆◆
「マジかよ…。」
アイリス王国から魔大陸に向かって、引き返すときに少しだけ角度をずらして引き返してついた場所は、3000年前の戦いの舞台となった場所だった。
ここは大戦の跡地。
命があるものとないものが混ざり合っている場所だ。
昔大地につけられた傷は今も残っていて、一部は草すらも生えずに干からびている。これでも治ってきた方だ。
前は草一本も生えず、何にもなかったんだから。それより前はものすごく広い草原があったんだ。それは、全部消えた。
今も生き続けている場所と、今も死んでいる場所。そこが混ざり合っているかなり珍しい場所だ。
この角度を選んだ時、もしかしたらとは思ったんだ。
帰ってる途中でなんかこの辺り見覚えあるなとも思ったんだ。
それでたどり着いた場所がここかぁ。懐かしい。懐かしいんだけどさ。
俺は、生きているところと死んでいるところが入り混じる大地を歩く。空を飛ばずにあえて歩いて進んでいく。
この場所には後悔しか残ってないんだよな。
仲良いやつ、よく話すやつ、よく俺に絡んでくるやつ。いろんな種族のいろんな人がいたけど、全員いなくなった。
この争いで生き残ったとしても、そのあとは寿命で死ぬ仲間も大勢いた。
3000年前の知り合いも、今のこの世界にはもういない。
もし、俺が失敗していなかったら寿命が存在しない天人族が他にも生き残ってて、今になっても昔話ができたのだろうか。
今後悔してもしょうがないけど、どうしても気になってしまう。
大量の人が死んだ理由が全て俺にあるのかどうか。
それがわからないんだ。
責められることもあったが、認めてくれる人もいた。死ぬ時も最後まで笑ってる仲間もいた。
全員の意見が全く同じようなものだったら本当に楽だったのに、全員いろんな考えがあるせいで自分の考えも分からなくなった。
「俺はどうすればいいんだ?」
そんな声も誰にも届くことはない。
いや…あいつには確実に届くだろうな。常に俺のことを見ているような暇人だから、こうやって1人で考え事をしていることも全部知ってるんだろう。
常に監視して、自分に都合が悪いことがあるとすぐにちょっかいをかけてくる面倒で厄介な……相手だ。
これに関しては逃げられないから諦めている。だからなるべく見られない環境を増やせるように鍛えた。見られない間は何をしているか把握することができない。だから俺にちょっかいをかけることもできない。
ずっと見てくるのとちょっかいをかけてくるのさえなければ、めんどくさくないのにな。本当に迷惑な話だ。
「そうだ、せっかくここにきたから行っとかないといけないところがあるよな。」
絶対に寄らないといけない場所を思い出した。
あそこだけは、寄らないと仲間に怒られる。
「お土産も買っておかないとな。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます