3章 地上で起きたこと

31話 経過観察




<ルイ 視点>


 時は戻って恵美たちが迷宮の中に放り込まれた後。


「これで全員迷宮の中でひたすらレベルを上げ続けるよ。

 ただ、誠司と恵美がいるところは別の迷宮に繋いだから他のクラスメイトたちよりは出てくるまで時間がかかると思う。

 まあ、死ぬことはないから安心してくれ。」


「あの…ルイ様。先程の、クラスメイトというのはどういう意味でしょうか。」


 俺、司教と勇者を鍛えてくれていた魔法使いアリスが、クラスメイトという言葉について聞いてきた。

 きっと俺が、召喚された奴らのことを勇者ではなくクラスメイトと呼んだことについて疑問を持ったのだろう。

 まあいつか話すつもりのことだったし、今言っても問題ないか。話すとは言っても全てを言うわけでもないし。


「俺さ、前は白鳥 涙って名前だったんだ。本来ならあいつらと一緒にここに召喚される予定だった。

 それでいろいろあってさ、俺だけずっと昔に別の命として転生した。

 だから召喚された勇者は元同じクラスの知り合い。」

「えっ!そうなの!っと失礼しました。」


 アリスが突然大きな声で聞き返してきた。彼女は普段は冷静だけど、動揺すると言葉が素に戻ることがある。素に戻ることはは結構少ないから、それほど驚いたんだろう。


「ちなみに試練の迷宮に挑戦している4人は知ってるよ。全員顔を見ても気づかなかったから地味にショックだったんだけど。」

「そうなんですか…。」


「まあ、それは置いといて、勇者が出てきたらきっと疲れてるだろうから、ゼストと二人で手当てしてほしい。

 俺は少しだけやらないといけないことがあるからそれを頼みたい。勇者が全員出てくる前には戻ってくる予定だからよろしく頼む。」


「了解です。」


 アリスにやっておいて欲しいことを頼んでから俺は空へ飛び立つ。


 空中からアイリス王国を見渡すと、肉眼で隅から隅まで全てを見ることができる。

 この王国は昔と比べるととても小さい国だ。今では大きな国と言われているが、それは昔の巨大な国がほとんど滅んでしまったからだろう。

 昔の大きな国が消えてからは、新しい国がいくつもできて、また消えて、時々合わさって、それで今の国になってる。

 ほとんど村しかないみたいな最悪な状況よりはまだマシだけど、まだ大きな国と言うには小さい。せめて肉眼で端から端まで見えないくらいに大きくないと。




 アイリス王国周辺には、小さな国がいくつもある。そこを一気に抜けていくと、海に出る。

 海岸の近くには、そこそこ大きな街があって俺は一回そこで降りる。

 これから、魔大陸を見にいくからそのための準備という名前の寄り道だ。この辺りは、海産物がたくさん売られているから、魔大陸に行く時は毎回ここで一休みしてからにしている。

 いくらこの世界にいろんな色の髪色があったとしても、白髪はそれでも珍しいから目立つ。背中の翼と一緒にフード付きの外套を羽織って隠す。こうすれば、ただの姿がわからない旅人にしか見えない。


「チェイ魚の塩焼きだよ!よかったら食べてみな!」


 そう言って宣伝している屋台を見つけた。チェイ魚は白身の魚で、ここではかなり一般的な魚だ。屋台がたくさん並んでいるところを歩いていて、なんとなく美味しい気がした屋台に立ち寄ってみた。


「1匹もらっていいか?」

「おう!200リルだぜ!まいどあり。」


 そう言って渡されたのは30㎝ほどの魚だった。1リルが日本円で1円だから、200リルは200円。このサイズで200リルは安すぎると思う。それだけたくさん取れている魚だからだとは思うけど、立派すぎるんだよな。

 一食だと食べ切ることができないから、半分ほど食べてから、持ってきていた袋に入れて再び飛び立つ。

 この海を越えれば魔大陸だ。



 ◆◆◆◆



 魔大陸は、昔起きた魔神と天神の争いで負けた魔神側が逃げてきた大陸だ。今でも魔族は元気に暮らしているし、強い奴も多い。


 今回、わざわざ魔大陸まで来た理由は簡単だ。魔王と呼ばれる化け物がまだ封印されているかどうかの確認だ。あいつは放置しておくと碌なことにならないからこまめに確認をするようにしている。


 最近は解けかかってきてるから尚更確認しておかないといけない。

 復活されると本当に面倒だから、どうにか先延ばしにしたかったけど、俺はそういう専門家じゃないから被害を減らすことを考えないといけない。

 状態は本当に良くない。いつ復活してもおかしくない状態だ。復活したら、それを待ち望んでいた奴らが動き始めるからそれも止めておかないといけない。

 なんでこんなに長い間待ち続けてるんだよ。他にやることやっておきたいことたくさんあるはずだろ。


 やることが多い。

 全てを隠そうとしても、いつか絶対ボロが出る。そのうち誤魔化しきれなくなる。

 ずっと隠してるのも疲れてきたんだよな。


「はぁ〜。次々と面倒なことが起きる。さっきはアリスに俺と勇者が元知り合い関係だってことがバレたし、もうすぐ魔王と呼ばれてる化け物は復活しそうだし。やること多いし。バレたことは言っちゃうか誤魔化すかしないとだし。

 いっそのこと、バレたらその都度言っていくのもありかも。


 例えば、この魔王のことについて聞かれたらさ、

 魔王が命を代償に呪いをかけやがった魔神の残り滓だってこととか。」






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