26話 アリーシス・ヴァイス




「アリーシス・ヴァイス?ねえ、その苗字って…」


 その苗字、ヴァイスはだって…

 私は、彼女の自己紹介を聞いて1番気になってしまったことを聞こうとする。


「ああ、恵美が気になってるのはヴァイスっていうラストネームのことだよね。ルイと同じ苗字の理由を聞きたいんでしょ?

 だけどちょっと考えればわかることだよ。苗字が同じってことは血縁ってことだから。

 私はルイ・ヴァイスのお姉ちゃんだよ。」

「ルイくんのお姉さん!?天人族は、ルイ以外もういないって…あっ、ごめんなさい。」

 あまりにも驚いて、つい失礼なことを言ってしまった。


「いいよ。気にしなくて。実際もう死んでるしね。」


 アリーシスさんはケラケラと笑いながらそういった。


「じゃあどうしてアリーシスさんは会話できているんですか?」


 本来、死んだ人の声を聞くには、霊媒師というジョブが必要なのだ。私も一回それを見たことがあるから間違いない。霊に頼んで、過去に起こった出来事がどんなことだったのかを聞いたりするのだ。だが、昔の霊になればなるほど数は減っていき、出来事もはっきり伝わらなくなってしまう。


「私から、ルイに頼んだんだよ!肉体が崩れて消えないように封印して、そこに私が宿れるようにしてくれたの。」

「ルイくんが!私、この迷宮に入る時何も聞いてないよ。」

「あはは。何言ってるの。入る時に聞けるわけがないじゃん。これは最下層でしか伝えられないことなんだから。」


 最下層でしか伝えられない。彼女は何を教えてくれようとしているのだろう。気になる。

 ルイくんが外にいる時隠していたこと、言おうとしなかったこと、伝えようとしなかったことを私は知りたい。


「わかりました。アリーシスさん。教えてください。」

「了解。それじゃあ他の3人もここに呼ぶね。

 あと、普通に呼び捨てでいいよ。ルイの大事な友達だしね。」


 アリーシスはそういうと、虚空に手を入れた。すると、手を入れたところに灰色の渦が現れた。キラキラと、可視化された魔力が宙を舞っている。


「おっ。アリーシスさんじゃん。恵美との話が終わった?じゃあもう入ってきていいんだな。」


 そんな声が聞こえて、私以外の3人がこの空間に入ってきた。


「3人には、恵美と同じ説明をもうやってあるから、もうそのまま伝えちゃうね。」



 ◆◆◆◆



 これは、ルイが初めて私に頼みを持ってきた時のこと。


「なあ、本当にいいのか。もうすぐ死ぬお前をずっとこの場所に縛りつけても。いつくるか分からない勇者のためだけにここから動けない存在になるんだぞ。」

「ううん、問題ないよ。私が決めたことだから。天人族も今はもうほとんどいないでしょ。私だって、呪いには耐え切ったけど少しずつ弱ってきてる。

 伝えなきゃいけないこともたくさんあるんだからルイ以外にも伝える人がいないとでしょ。ルイには全てを言えない理由があるんだから。

 

 ほら、私はもう死んじゃうよ。早く残さないと。未来の勇者に向けてのメッセージ。」


「…じゃあ、始めるぞ。」


 アリーシスの足元に大きな模様が現れる。それは横にも縦にも大きくなっていく。

 地面から白い4本の柱が現れ、アリーシスを囲んだ。彼女はその柱の中心に立ち直す。すると、彼女に向かって真鍮色の鎖が伸び、彼女をその場所に固定した。


「・・・・・・・・・・。本当にこれで良かったんだな?」

「うん。これできっと私には伝えることができるようになるよ。」


 アリーシスは体が固定された後、幽霊となってルイの前に現れた。これから、これで未来にメッセージを残す。もしかしたら、未来ではこんなことができなくなっているかもしれないから。伝えられる時に伝えないといけないから。


「そうだな。伝えられるものは全部伝えるよ。

 一つ目は、まだ操り人形が倒されていない。

 二つ目は、あの争いの原因は魔神だけじゃない。

 三つ目は、本当の神は別にいる。って感じでいいのか?良かった。まだ引っかからないな。それならここまではいけるのか。

 四つ目は、俺に⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。ーー!

 もしかしたらとか期待してみたけどやっぱこれはダメみたいだ。よっぽど邪魔されたくないらしい。


 じゃあ、最後に未来の勇者へのメッセージを残しておくか。さっきの禁止ワードのせいで気づかれるのも時間の問題だしな。

 それじゃあ、恵美と誠司はきっとこの後異世界に勇者として召喚されるだろう。もしかしたら、クラス全員での召喚かもしれないぞ。

 まあ、冗談は置いといて、試練の迷宮の最下層できっとこれを聞いているだろう。あそこはバレないように頑張ったからな。とりあえず、最下層には、今の時代使われなくなった強力な武器でも突っ込んでおくよ。あっ、未来の勇者には先代勇者の凛斗が使ってた聖剣が残ってるからそれを使ってくれ。

 俺たちが残したものは任せた。


 アリーシス、これでいいか?しっかり残せてるか。」

「はいはい、しっかり残せてるよ。ちゃんと勇者が来た時に伝えるからね。もしこの後伝えたいことが増えたら、今度は直接伝えること!」

「ああ、わかってるよ。どうにか頑張ってみる。」


 ルイは、そっけなくその忠告に答える。横を向いてルイは白い建物から距離を取る。


 もう別れないといけないんだね。一緒にいた時間の方が短いのに。

 まだ、一緒にいたいよ。ルイとやれたこと、まだほとんどないのに。


「アリーシス。これからこれは地下奥深くに沈む。勇者が来るまでは解放されることもない。だから、このメッセージを届けてほしい。」

「待って。最後に一回ぐらいお姉ちゃんって呼んでよ。」

「ハァ!?何言ってるんだよ。」

「まあいいじゃん。もう会えなくなっちゃうんだから。」

「ハァ〜。最後までめんどくさい。」


 ルイの表情は本当にめんどくさい時の顔だ。やっぱりめんどくさいのだと思う。

 でも、ごめん。これだけは譲れないわがまま。


「じゃあ、メッセージよろしく。。」

「ー!!〜〜〜ー。むふふふふ。」

「何その笑い方。気持ち悪い。」

「まあこれでよしにしてあげるよ。」

「はぁ。もうやるよ。じゃあ、さようなら。」

「また会えるといいね。ルイ。」


 白の建物はゆっくりと地面に沈んでいく。地面は、底なし沼のようになって。白の建物を吸い込んでいく。

 これからは、何年待つか分からないにも関わらず、一つの場所で待ち続けないといけない。未来で召喚される勇者たちを。

 

 もし勇者に会った時、またルイと会えるといいな、とアリーシスは思った。






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