25話 紫色の扉




 結論から言うと扉を開けた先には、何もなかった。


「えっ、空っぽ?」


 私たちは困惑した。いざいこうと扉を開けたのに、中は何もなかったからだ。本当に直方体の部屋でしかなくて、驚いた。もし最後の部屋だったと想定しても、何もないと言うのは想定していなかったから。


「もしかしたら何かあるかもしれない。黄色の扉の時みたいに分かれて探してみよう。」

「わかった。何か見つけたら伝えるね。」

「じゃあ穂乃果つれて向こうのほう見てくる。」


 さっきみたいに壁や床を隅々まで確認する。黄色の扉の時みたいに虫が壁から出てくると嫌だから、穴が空いていないかも確認しておく。とりあえず自分が届くところは全部見たけど、これからどこを探せばいいか悩む。誠司と穂乃果は、身長差を生かして、穂乃果が下を誠司が上を担当している。


「虫はくるな。虫はどこだ。虫はたおせ。虫はたおせ。虫は潰せ。虫はどっかいけ。虫は消えろ。虫は消滅しろ……」

 穂乃果の虫探しへ向ける真剣さが恐ろしい。虫を1匹も逃さないようにするためだけど、ずっと虫を潰すためにぶつぶつ言ってるのは結構びっくりする。


 穂乃果もああやって虫を隅々全ての穴まで探してるし、私も死ぬ気で虫を探して倒していくことにした。もし、前みたいに虫が大量発生したら今度こそ穂乃果がパニックになるし、私もストレスで倒れるかもしれないから事前に虫がいたら潰しておくのもいいと思う。

 虫を殺すのは良くないと言われても、可哀想だと言われても私にはもう関係ない。虫の大群に襲われて一回死んでから、虫を殺すなとか可哀想とか、優しくしてあげなよとか言ってほしい。巨大虫にはわれるのはトラウマものだよ。


 私も虫を滅ぼしたい。黄色い扉から出てきたあの虫だけは絶対に潰さないと私の平和は訪れない。あの量の虫は、黒光りする⬛︎⬛︎⬛︎といい勝負をしているから。どちらも滅びない限り、苦手な人はすごく苦しむだろう。




 本当の部屋の隅っこに、削れたとは思えないような大きさの穴を見つけた。小指の伸びた爪の先の幅くらいの大きさだ。これだけの大きさがあれば、アリが巣を作れてしまう。

 虫の命には悪いけど、私も大量の虫を見るのは嫌だから。増え過ぎる前に一気にやるね。もしこの中に虫なんていなかったとしても、こんな怪しい穴を開けておくのが悪いんだから。

 

 私は水魔法で水を出し、穴の中に流し込んでいく。

 水はどんどん奥まで流れていく。どうやらこの穴は、そうとう大きいみたいだ。今は、昔だったらそんなに多いわけがないと思うくらい魔力が増えてるけど、その半分を使ってもまだ穴に水がいっぱいになって溢れてくることがない。

 ずいぶん大きい穴なんだなと思いながら、引き続き穴に水を入れ続ける。さらに魔力を半分消費すると、ようやく穴から水が溢れた。これでしばらく放っておけば、虫がいてもみんないなくなっているだろう。恵美が叫んで暴れることもない。私はほっと息をついた。


『ちょっと!なんで起きたら私の部屋が水に埋まってるの!あ〜!!あんたたちがやったのね!』


 突然そんな声が部屋の中に響いた。響いたと言うよりも頭の中に直接声が聞こえたと言う方が正しいだろう。私は驚いて穴から目を離して顔を上げる。


 そこは、真っ白な部屋。地面には真っ白な百合があたり一面にたくさん咲いている。そこから縦に白い模様が入っている柱が伸びていて、天井を支えていた。突風が吹いて、白い羽が舞う。


「ちょっと!あなたたちが水の中で長い時間過ごすことができないから水を抜いたけど、なんで私の部屋をこんなに水浸しにしたのよ!花が腐っちゃうじゃない。」

 

 そう言ってきたのは、顔を上げた時目の前にいた女の子。背中には白い翼が生えていて、天人族だと言うことがわかる。


「私の部屋?それはどう言うこと?さっきまで、紫色の扉の中にいたんだけど。それにみんなは?」

「あの部屋の中を色々探し回っているのを見つけて私が招待したの。今は別々に対応してるけど、すぐに会えるよ。あなたたち4人が、異世界から召喚されてきてるのがわかったから。」

「!なんでそれを知ってるの!?」

 勇者として、異世界から召喚された人がいると知っているのは、国の偉い人たちだけだ。国で当たり前に生活している人には知らされていない。知らされるとしても、もっとずっと先のことだ。魔王が復活したりして国が混乱した時だけだ。


「とうぜん、そうやって聞いてくるよね。どうやって説明すればいいかな。結構長くなるから〜……まあいっか。

 前もって知らされてたからかな。自己紹介するよ。私の名前はアリーシス・ヴァイス。試練の迷宮最後の番人で勇者の武器を管理しているよ。」





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