21話 空色の扉

 



 私に幻覚を見せていた魔物は、光の粒子になって空に昇っていった。これで緑の扉は攻略完了かな?次の扉の先に行く前に、3人を起こさないとね。


「みんな、起きて〜!」


「ええ、今まで見てたのって偽物だったの?」


 モゾモゾと最初に起きてきたのは穂乃果だった。起きてくるとは言っても幻を見ていたものを現実に引き戻す感じかな。

 穂乃果が今まで見ていた景色はもちろん本物じゃないけど、偽物でもないよ。記憶の中にある本物だよ。私も、地球にいた頃の楽しかった思い出を体験していたから。ずっと続いてほしいと願ったから、おんなじ日がくりかえじ始まろうとしていたし、自分の心の中にある思い出に反応して大切な思い出を写してたんじゃないかなと私は思う。


「穂乃果、それは自分が覚えている思い出を写したものだと思うから、偽物じゃないと思うよ。たとえ偽物だったとしても、嬉しかったでしょ?ずっとここに居たいって考えたと思うんだ。」

「…そうだね。思い出だったとしても、偽物だったとしても久しぶりに家族に会えたのはものすごく嬉しかったよ。私、こんなに寂しかったんだなって気付かされた。」

「だからこそ、早く魔王を倒して地球に帰ろうね。」

「うん!」


 緑色の扉の中は、大切な思い出だった。今は会えないけど、絶対に地球に戻ってくるよ。それで、今度は思い出の中に残っていない新しい思い出を作りたい。久しぶりに家族と、友達と会うことができたって思い出で。





「俺が起きた頃には全部が終わってたんだが。」

「起きなかったほうが悪いよ。」

「それを言うな。今回は役立たずだったけど、他のところでは役に立ってるんだから。」

「恵美が頑張ってる時に何もできなくてごめんね。」

「謝らなくていいよ。倒したから先の部屋には進めるようになってるし。」


 誠司と聖也がようやく起きた。なっかなか起きなくて、起こすのが本当に大変だった。声をかけたり、体をゆすったり、うつ伏せに転がしたり、鼻を摘んだり…。流石に、顔を水で覆ったら起きた。息ができなくて苦しかったとかじゃなくて、鼻に入ってくる水が痛かったんだって。自分のレベルが上がっていけばいくほど前と同じようにできることが減っていくんだなって思った。


 緑色の扉はどうやら消化される前に幻から脱出するというものだけだったみたいで、休んでいる間も他の魔物が現れたりとかすることはなかった。奥にある空色の扉の鍵もすでに開いているみたい。

 緑色の扉はまあ大変な人は大変なのかもしれない。人によってはずっとここにいたいと思ってしまうくらいリアルなものだったから恐ろしい。ソロでこれに挑戦したら、自分が目覚めない限り消化されるしかないからパーティーで挑戦してよかったと思う。


「これで四つの扉を攻略したな。緑はまあ、ほとんど恵美が攻略したようなものだけど。次は水色の扉…。きっと残りの扉は3つだな。虹にあると言われている7色と今まで出てきた扉の色と順番がが一致しているから。」

「それ、私も今回は気づいた!やっぱりそうだよね!」

「やっと終わりが見えてきたな。もう何日地下にいるのかわからないからな。」

「そろそろ外にも出たいし。」


 

 私たちは水色の扉に近づいた。緑色の扉よりも一回り大きくて、透き通った空色だ。透明度が高くてこの先の部屋の中が見えそうなのになぜか見えない。ガラスの外から見えないようにする機能がついているのかも。


「油断しないようにしよう。今までの相手も油断していると死ぬような相手ばかりだった。」

「そうだね、事前にどんなのがくるのか予想してから行ってもいいかもしれない。」


 ということで、予想をすることになった。中がどんなふうになっているか想像して、もしそうだった場合の対策を考える。もし、その予想が当たらなかったとしても必ず最初に情報収集をすると決めた。

 予想をするために、そっと手を伸ばして扉に触る。ツルツルしていて氷みたいにひんやりしていた。次は氷の世界だったりするのかな。そうかもしれないと次の部屋がどんな感じかを予想する。


「私は、氷のせかいが広がってるんじゃないかなって思った。扉は水色で氷みたいに透き通ってるし、ひんやりしていたから。」

「僕もそう思ったよ。なんだか氷の城に入る時の扉みたいだから。」

「氷の世界、もしそうだったら中はすごく寒いよね。火属性の魔法を使える私と誠司がみんなを温める役になる感じかな。」

「もしそうだったら、俺たちで温めることになる。だけど、そんな単純じゃない気がするんだ。さっきだって、緑色の扉で植物のモンスターだけど実際に体験するのは幻を見ることだろ。だから何かあるんじゃないかって思うんだ。」


 誠司はそう思うんだ。確かにそうかも。赤い扉だからって赤い魔物が出てきたわけでもないし、緑色の扉で植物の魔物が出てきたからってそれを倒すだけが試練じゃなかったりもした。もしかしたら扉とは全く関係のないものが出てくるかもしれない。

 そういえば、今まで当たり前に何色の扉って言ってきたけど、この扉に正式な名前ってあるのかな。ちょっと調べてみよう。 そう思いついた私は、扉の周りの壁を調べた。


「あった。扉の正式名称。」

「へぇ。この扉って正式な名前があったのか。よく気づいたな。」

「で、恵美。なんて書いてあったの?」


「空色の扉だって。」


「空色かぁ。まあ確かに水色よりは薄めの色だな。冬の朝の空みたいな感じもする。」

「なんで水色じゃなくて空色にしたかだよね。」


 氷だけじゃなくて、もしかして空にも関係してくる?もしかしたら、空中に浮いている氷を歩いて進む部屋なのかもしれない。


「気を抜いたらあっという間に倒されちゃいそうだね。落ち着いていこう。」


 私たちはついに空色の扉を開ける。この氷みたいな扉の先には何があるのかな。そんな思いを抱きながら、扉を押して開けた。


 緑色の扉の時みたいに扉の向こう側から強い光が現れた。眩しくて、思わず目を瞑る。

 もしかして、また幻を見せられるかもしれない。気をしっかり持って今の状況を覚えられるようにしないと。



 ◆◆◆◆



 あまり眩しくなくなって光が治ってきたなと思った時、足元からヒュンと風が吹いた。


「わわっ!」


 私はバランスを崩して前に倒れる。床に体を打ちつける!と思ったけどそうはならなかった。

 理由はとっても簡単。


 私が落ちていたから。

 ゆかも何にもない場所に突然運ばれて、投げ出されて落ちているところだったから。最初は立った状態で落ちてたけど、今はバランスを崩してうつ伏せ状態で落ちている。顔にたくさんの風が勢いよく当たる。


「ーーーーーーー!」


 誰かが喋っているのが聞こえた。


「恵美、大丈夫ー!」


 今度ははっきり聞こえた。上からだから、穂乃果も落ちてきているみたい。


 空に関係しているのかなとは思ったけど、ここまで直接的だとは思わなかった。氷みたいな扉だから、氷もあるのかなと思ったけど全然なかった。


「今度の部屋はパラシュートなしのスカイダイビングか。一生に一度たりともできないような体験だよ。」


 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る