20話 かえってくるから




「るいくん!お昼食べよ!」


 昼になったら、私はいつもどおりるいくんを弁当に誘う。私もいつも他の人に誘われることが多いけど、いつも最初は断る。誘っている方も、乗ってくれるといいなっていう希望を込めて断られる前提で誘ってるから断っても問題ない。私は最初に必ずるいくんを誘いにいくから。


「・・・・・・・・・・遠慮して」

「机くっつけるね。」

「話聞けよ。」


 でも、大体断られそうになる。そう言う時は強引に机をくっ付ければるいくんも断れなくなる。流石に一回移動した机をもう一回戻せとは言えないみたいだから。

 私が嬉しそうに弁当と水筒を持ってくると、るいくんが真っ直ぐ私のことを見てきた。


「・・・やっぱり、他の人と食べてくればいいだろって思ってるでしょ。」


 私だってずっと一緒にいるんだから。これぐらいは顔を見ればすぐにわかる。


「はぁ、まあいいよ。」

「やった。」


 そういってるいくんは鞄の中から弁当を取り出す。最終的に断らないで誘いに乗ってくれるのも、るいくんのいいところだ。


 私がなんで他の人と食べようとしないか知らないでしょ。るいくんは鈍感だからねぇ。周りがるいくんに近づいてこない理由、おおかた自分のせいだって思ってるでしょ。でもそれは間違ってるよ。周りの人が近づいてこない理由は、大体私のせいだよ。私がるいくんに他の人が近づかないようにしている。女子だけだけどね。

 悪いとは思ってるけど、好意を持っている人とできるだけ長くいたいと思うのは当然でしょ。


 男子の方は、まあただの嫉妬だと思っている。るいくんやろうと思えば大体のことできちゃうし、しかもクラスの人気者誠司とも仲がいいからね。こんなハイスペックな人を見れば、羨ましくもなるよ。それが悪い方に向かっていって、クラスで話しかけようとしない人が多くなってるんだけど。


「おい!俺もその中にまぜろ!」


 誠司が自分の机を持ってこっちにきた。るいくんと私の席からかなり離れてるから持ってくるのは椅子だけでいいっていってるのに、いつも机も持ってくる。

 

「仲間外れは寂しいぞ。」

「それは俺への嫌味か?」


 誠司とるいくんが絡んでる。そばで聞いてると、すごくしょうもないけどすごく面白い。この絡みはずっと前から続いている。

 るいくんは自分からは関わろうとしないけど、私と誠司がくっつくから自然とこんなグループが出来上がっている。


「2人とも、食べるの早い。あれだけ話してたのにどうして?」

「「腹減ってたから?」」


 こうやって3人で話す時間がすごく楽しい。気を使うことなく話して、言いたいことを思う存分言って、お互いに別々のことを話しても気まずくなることなくただ笑って、こんな時間がずっと続いてほしい。そう思った。




 下校時間になって、るいくんがダッシュで教室を出る。私と誠司がそれを全力で追いかける。廊下を走って、階段を駆け降りて飛び降りて。靴を履くときに、紐が絡まって止まっているところに私たちは追いつく。


「追いついた!てことで今日は3人で帰るぞ!」

「はぁ。紐さえ絡まなければ。」


 るいくんが校門を出るまでに追いつくことができれば3人で家に帰る。どちらにしろ私とるいくんはお隣さんちだから帰り道は同じだけど、こういうのっていいよなって思う。

 いく時と全く同じ通学路だけど、行きと帰りで全然違う景色に見える。いつもどおりの道なのに、日によって違う景色に見えたりもする。


 街が映った影に、3人の影が映る。


「じゃあ、また来週な。」

「うん、またね。」

「・・・・ん、じゃ。」


 帰り道の途中で誠司と別れる。そこからはるいくんと私の2人だけ。道の終わりまで歩いて、お互いの家の方へ向かう。


「また来週ね。遅かったらまた起こしに行くから。」

「また来週、できることならやめてほしい。」


 そう言って、お互いの家に帰る。

 

 これで1日はおしまい。そのまま、ご飯食べてお風呂に入って、仁虎と流奈と遊んで、自分の部屋に行く。日めくりカレンダーを剥がした後に、ベットに入って横になる。


 おやすみなさい。



 ◆◆◆◆



 朝、カーテンの隙間から日光が当たって目がさめる。だけどやっぱり眠くて、大体は二度寝しちゃう。


「ねーちゃん起きろ〜!」

「おきろ〜!」


 仁虎と流奈が私を起こしにきた。


 起きないと遅刻しちゃうね。そろそろ学校に行かないと。

 ああ間違えた。今日は休日だから、起きなくてもいいか。


「ねーちゃん起きないとやばいぞー!もう7時30分だ。起きないと俺も遅刻するぞー!」

「流奈も遅刻するぞ〜。」


 そんなわけないよ。今日は休日だから。こんなに早く起きる必要はないんだよ。


「ねーちゃん起きろ!」

「起きるなの!」

「ふぐっ!」


 仁虎が私の掛け布団を剥いで、流奈が私の上に乗ってきた。


 流奈…すごくおもいよ。


 私は仕方がなく下に降りていく。


「おはよう。」


 お父さんとお母さんにいつも通り挨拶をする。なんだか懐かしいな。


「ねーちゃんが起きたので俺は行ってきます!」

「ます!」


 2人が外に出ていった。どこかに遊びにいくのかな。もし遊びに行くなら、私もついていってみたかったな。


 私は熱々の食事が出されている席に座る。今日はトーストにハムと目玉焼き、胡椒とチーズを乗せたもの。昨日と同じだ。


ー??


「お母さん。これ、昨日もおんなじのたべたよ?」

「あら、出してないわよ。昨日はオムレツだったじゃない。」


 おかしい。昨日も食べたはずだ。オムレツが出てきたのは一昨日、1日ずれている。


「お母さん。今日って何曜日?」

「金曜日よ。だから、早く食べないと遅刻するわよ。」


 金曜日は昨日。今日も金曜日?これもおかしい。あと、なんで出てきてからかなり時間が経ってるのに、このトーストは湯気が出てるの?


 ここはなに?いつもどおり楽しく1日を過ごした場所。おんなじ日が繰り返されてる?


 私は着替えもせず、カバンも持たずに外に飛び出す。


 なんで、私はこんなことになってる。今の私は何をしている?


「おい、恵美。どうした。そろそろ遅刻するぞ?」


 外に出た私に、るいくんが話しかけてきた。

ーいや、違う。これはるいくんじゃない。るいくんはこんなに早く外に出てこない!こんなに早起きできるはずがない。


「恵美、その服装どうした?コスプレみたいだぞ。」

「えっ?」


 気がつくと私がきていたのはパジャマじゃなくて、修道服のようなワンピースだった。


 帰らないと。


 るいくん、こっちの独り占めできるるいくんはもうおしまい。ずっと本当に長い間ここにいたみたい。2日どころじゃない。何日、何週間、何ヶ月?本当に長い間ここにいたよ。

 今のるいくんは、ルイくんだよ。地球にいた時の姿じゃないし、そんな性格じゃない。


「るいくん。またね。」


 私は、家の中に走っていく。


「お父さん、お母さん。」


 戻ってきた私は、お父さんとお母さんに声をかけにいく。


「恵美、本当に遅刻するわよ。」

「どうした、その服装は。」


「信じてもらえないと思うけど私、今異世界に行ってるの。仁虎と流奈にも伝えてほしい。今はどっかに行ってるけど、絶対にかえってくるから。


 だから、待っててほしい。」


 私は2人の返事を聞く前に外に出る。


 「この世界から早く出ないと。早く本物のルイくんに会いに行かないとね。」


 私は、地球では使えるはずのない魔法を使う。


「〈聖光〉」


 空に向かって、白い光が伸びていく。その光は宇宙にまで届くことなく止まり、少しずつその世界にヒビが入っていく。


「絶対に地球に戻ってくるから。」



 ◆◆◆◆



 戻ってきた。と思ったら今めっちゃピンチ。

 人喰い植物に消化されかけてた。皮膚がちょっといたいから、体を溶かす酸みたい。つるで見えないけど、きっと3人も近くにいるはず。とりあえず倒さないとね。


「〈光矢〉」


 ツルの隙間から見えている大きな実。その実には一つ、大きな目がついていた。そこに向かって使えるようになったばかりの魔法を放つ。


 かなり長くなると思ったけど、あっけなかった。一撃で倒れて、私たちに幻を見せていたツルも全て光の粒子になって消えた。


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