19話 いつもどおり?



 朝、カーテンの隙間から日光が当たって目がさめる。だけどやっぱり眠くて、大体は二度寝しちゃう。


「ねーちゃん起きろ〜!」

「おきろ〜!」


 でも、二度寝をしようとすると、必ず仁虎にこ流奈るなが起こしにくる。しかもこの起こす方法がなかなかに容赦がなくて、心が痛くなる。

 おきろと言われてる時点で起きないと、本当に辛い。だけど、どうしても眠くて眠くて仕方がなくて起きられない時ってあるじゃない?


「フッ、俺の右目が疼いてるぞねーちゃん!」

「私の左手には封印が施されているなの!」

「そしておねーちゃんはうらそしきのボスなの!」


 そういう時、弟と妹は決まってこんなことをしてくる。

 これは2人が、私の部屋に勝手に入ってきて漫画を読んじゃったことがきっかけ。たまたま開いて読んでみた漫画の主人公の友人が、ものすごい厨二病キャラクターだったの。それに影響されて、家族の前でそれを披露してたのを私がみたら、可愛いけど、思ったより自分の心が痛くなっちゃって、それ以来2人は私を起こす時にこれを使うんだ。しかも、毎回私がボスになって。


「やめてよぉ。すごく辛くなるから起きるからぁ。」


 モゾモゾと足を温めてから、ベットから体を起こして、地面に足をつける。


「おはよう。仁虎、流菜。」

「「おはよ〜!」」


 2人はぴょんぴょん跳ねながら私の周りを回る。


「かーちゃん!ねーちゃんが起きたぞー!」

「起きたぞ〜!」


 そしてそのまま、お母さんとお父さんがいるリビングへ走っていった。

 私もそろそろ行かないと。


 私も、中学の制服を着てから2人の後についていく。


「お父さん、お母さん、おはよう。」

「おお、起きたか。相変わらず遅いな。おはよう。」

「おはよう。恵美、朝ごはんできてるわよ。」

「うん、食べる。」


 家族全員で食卓に座って朝食を食べた。




「行ってきまーす。」


 学校に行く時間より早い時間に、私は家を出る。

 早めに家を出て向かう先は、るいくんの家だ。


「るいくん、おはよー」


 窓から顔を出しているのが見えたから、道路から手を振って声をかける。るいくんは、気づいて手を振替してくれた。


「あら、恵美ちゃん今日も涙を迎えにきてくれたの?いつもありがとうねぇ。」


 インターホンを鳴らすと、るいくんのお母さんが出てくれた。


「恵美、ごめん。まだ着替えてなくて、遅くなった。」

「るいくん遅いよ!」


 しばらく待っていると、るいくんがドタバタと走りながらドアから出てきた。さっき道路であった時は、まだ制服を着ていなかったようだ。


「じゃあ、行ってくるよ。」

「行ってらっしゃい。恵美ちゃん、また家にも遊びにおいで。」

「うん。また遊びにきます!」


 るいくんと合流して、私たちは学校に向かう。私はこの時間が大好きだ。この時間だけはるいくんを家が近い私だけが独り占めできるから。


「おお!涙も恵美も今日は早いな!前は2人仲良く遅刻して走ってたりしてたのに。」

「誠司、流石に中学にもなってそんなヘマはしない。」

「でも、中一の入学式が終わって次の日に早速遅刻したよね。」

「それは言うな。」


 学校に向かう途中で、誠司と合流した。誠司は学校に行くのが早いから、私たちと一緒に行くことができるかは私たちが早く家を出られるかにかかっている。

 もし、途中で会うことができれば、3人でしかできないような話をするだろう。


 こうやって、仲良い人同士で話すのは、自分を作ったり無理をしなくていいからすごく楽だ。他の同年代と話すときは、やっぱりどうしても相手の会話に合わせないといけないから。相手の意見に共感したり、話をずっと聞いていないといけないから。


「青花さん、おはよう。」

「恵美さん、おはよう。」

「恵美ちゃん!やっほー」


 学校に着くと、私を見かけたたくさんの人に声をかけられる。全てに返事をしたいが、こんなに同時に声をかけられると誰が言っているのかわからない。


「おはよう。」


 だからとりあえずわかった人、知り合い、先生に挨拶をしてから、私に気を遣って先に行ってくれていた2人を追いかける。

 少し離れたところに誠司がいた。誠司は仲良い男友達に絡まれているようで、すぐに言い返したり、お互いにちょっかいを掛け合ったりしていた。るいくんはいない。


「誠司、るいくんどこに行ったか知ってる?」

「ああ、涙なら俺たちに悪いからって先に言ったぞ?」

「そっか、ありがと。」


 そう、るいくんは孤立している。私と誠司がいるから完全に1人って感じではない。だけど、私と誠司と仲良くしていると言う理由で近づかなくなる人は多い。まあ、本人がまともに話すつもりがないというのも理由の一つだろう。

 みんなは私と誠司がるいくんと仲良くしてあげていると言う認識みたいだけど、最初は1人でいたるいくんに私が突撃してくっついて、絡んでいるところに誠司が来た感じだから、実際は私と誠司が勝手にくっついているだけなんだ。


「みんな、おはよう。」


 教室に入ると、るいくんは今日も窓の外を見ていた。


 せっかくだし、こっそり近づいてみて驚かせよう。


「バレてる。」


 こっそり近づいて後ろに立ったと思ったら、手を掴まれて声をかけられた。るいくんはいつもこうだ。驚かせようとしても絶対に気づくから驚かせられない。しかも、私の手を掴んでくるのは突然だから私の方がびっくりする。


「るいくん、もうちょっと気を遣ってもいいじゃない。」

「とっくに気づいているのにバレてないふりをしろってか?俺の演技は絶望的に下手だぞ。」


 まあ、そうだね。るいくん演技下手だから。


「やっべー!外であいつらと話してたらめっちゃ時間が進んでたんですけど。」


 誠司が教室に走って入ってきた。焦っているから時計を見てみると、もうホームルームまで3分を切っていた。誠司は慌てて鞄の中から必要なものを取り出すと、自分のロッカーに向かって鞄を投げた。だけど綺麗に入るわけもなく、ボスっと音を立てて床に落ちた。


「あー!入らねえ。入れに行かないと。」


「はい、出席確認をします。青花。」

「はい。」


 誠司が鞄を取りに行っている間に、先生が入ってきて出欠を取り始めた。


「はい、赤坂は席についていないから遅刻と。」

「今座りました!」


 この先生、席についていないと遅刻扱いにするから、先生が来る前に席についていないといけない。誠司の出席番号は最初だから、呼ばれるのも1番早い。


「ああ、いたのか。赤坂出席。」

 

 次々に名前が呼ばれていく。こうして始まるいつも通りの私たちの一日。いつもどおりの毎日がすごく楽しくて、るいくんも常に近くにいて、今とは大違いだよ。


 あれ?今。私は何と比べているんだろう。

 





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