13話 記憶のかけら



「はっ。」




 私の意識は、元の迷宮の自分の体に戻された。気がつくと、私は座り込んでいた。きっと、記憶を見ていた時は夢を見ているような感覚なんだ。内容を覚えているのは夢と違うところだけど。他のみんなも座ってるから私みたいに、パズルの記憶を見ていると思う。息もしてるからもう少しで戻ってくるかな。




「おい、短すぎるぞ!見られるのはそれだけなのか!?なんでそこを見せた!」




 誠司が記憶から戻ってきた。




「誠司、見られるのはそこだけ?ってどういうこと?私が見たのはかなり長かったけど何を見たの。」




「俺はたくさんの天人族の死体と墓と、それを見て膝から崩れ落ちた涙を見た。」




「ーーえっ?」




 誠司から聞いた、パズルの記憶はとても悲しいものだった。私が見たものと全然違った。多分、私が見た時間の後の記憶だと思う。完成したパズルは私たち全員に四つに分かれて入っていった。きっと穂乃果も聖也もそれぞれ別の記憶を見ているはず。起きるのを待って早めに聞かなくちゃ。




 でもその前に、




「誠司。誠司が見た記憶と私が見た記憶は全然違うものなんだ。多分4人全員別々の記憶を見てると思う。今から私が見たものをそのまま伝えるよ。」


誠司に私が見た記憶を共有した。






 ◆






<穂乃果 視点>






「あれぇ!?ここどこ?」




 私はさっき、完成したパズルがあまりにも眩しく光って目を閉じた。目を開けたらそこは見知らぬ景色だった。そこは一面の花畑で、いろんな色の花がたくさん咲いている。一つ一つの花には金色の光が宿っている。その金色の光が、一斉に空へ飛んでいった。




「わあぁ!!綺麗!」




 驚きの光景に、私は目を奪われる。この景色から目を離すことができなくなった。










「ルイ…そんなに落ち込むなよ。自分を責めるなよ。悪いのは全部魔神だろ。」




「リントにそんなこと言われなくてもわかってるよ。」




「わかってるやつの顔じゃねえんだよ。お前の表情は。」






 花畑の上空から、涙と…リントさん?が降りてきた。もう空から降りてきてるじゃん。そこはつこっまないでおこう。




 でもなんで、そんなに落ち込んでいるの?そんなに怖い顔をしてるの?私は涙がこっちの世界で過ごしていた時のことを何も知らない。その時のことかな?今は、涙の昔の思い出を見ているのかも。勝手に覗き見ちゃってなんか悪いな。でも、せっかく見ることができるから覗かせてもらおう。あとで絶対謝ろう。




「5年前の呪いのせいで、天人族は俺以外全員死んだ。当然怒ってるんだよ。できることなら殺したいくらいに。」




 ルイが無意識に、圧をかける。




「ルイこそ物騒になってるよ。もう少し冷静になれ。君がここで圧をかけたら皆が安心して眠れないよ。」




「……そうだな。」




 ルイとリントは花畑の前で手を合わせた。




「お前ら、俺だけ生き残っちまったよ。死人にそれを言うのは悪いけど、正直死にたい気分だ。」


「俺がルイを死なせないよ。」


「・・・・・・・・・・・・・・。」




 リントがルイの肩に手を置く。ルイはその置かれた手をはらった。




「やってみろ。先に行っててくれ。」


「そう、わかった。待ってるよ。」




 リントさんは空中を蹴って、どこかに行った。リントさんが見えなくなった頃、ルイはこちらを向いて睨んできた。




「なんでお前がこんなところにいる?もしかしてこの世界に…いや、穂乃果はまだこの世界に召喚されてないはずだ。」




「っ!どうして見えているの?」




 どうして見ているの?思うより先に言葉が出た。さっき、リントさんは私に気づいていないみたいだった。なのになんでルイは見えているの。




「なんだ、覗き見しているだけか。いい趣味してるな。」


「うっ、見たくて見たわけじゃないよ。」




「じゃあ尚更教えろ。なんでここにいる。」




 ルイは真剣な顔で、私に聞いてきた。こんな顔されたら、私簡単に喋っちゃうよ。




「まあそんな感じで召喚されて、涙に鍛えてもらって、今は試練の迷宮の最奥まで進もうとしています。」


「そうか。良かった、何事もなく召喚されたか。やっと最初の情報だ。あとあのババアはまた何かやったな。勝手に覗き見するなよ。」




 私が召喚された後のことを全て話してしまったあと、ルイは初めて表情を崩した。それでもなんだかぎこちない。なんでそうなったのかも気になるところだけど。




「穂乃果、召喚されたあと会いに行くから。恵美と誠司にも伝えておいてくれ。」


「聖也も一緒にいるけど伝えておきたいことってある?」




「ないない。そこまで関わってないから。」




「私には?」


「もう今言っただろ?」


 ルイは不思議そうに尋ねる。


 


 やっぱり恵美と誠司のことを大事に思ってるんだな。3人ともすごく仲良いもんね。




 私の体が、花畑の光と同じようにひかり始めた。




「なんで、私の体は光ってるの?」


「もう穂乃果がここにはいられないからだな。しかも、過去の人物に気づかれてるし。」






「そっか。未来で待ってるね。」


「もし恵美が探しに行こうとしたら、止めてくれ。俺の方が絶対に向かうから。」




 私は、さっきまでいたところから少しずつ離れていく。




「頑張れよ。絶対諦めるなよ。」




 昔のルイがいた世界はもう見えなくなった。今、私はどこかに引っ張られている。きっと元の場所に戻っていくんだよね。ルイと私が話したのは、かなり前の出来事だよね。勇者リントが生きていた時代だもん。


私と昔一度異世界で会っていたこと今も覚えているかな?迷宮を出たら聞いてみよう。






 ◆◆◆◆






「あーー!穂乃果。やっと戻ってきた。もうみんな起きてるんだよ。ねぼすけさんだよ!」




「ん〜。やっぱりみんなも昔のルイの思い出を見てたんだ。」




「そうだよ。これから私たちが見たのも教えるから、穂乃果のも教えてね。」




 私は起き上がって恵美の後ろをついていく。歩きながら、恵美に近づいて伝える。










「昔のルイから伝言。絶対に会いにいくってさ。恵美は待っててって。」
















 

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