12話 パズルの時間




 私たちは、誠司が押してしまったトラップ地獄をなんとか抜けることができた。




「うぅ。誠司の馬鹿野郎。」




「悪かった。もうしない。ゴメンナサイ、モウシマセン。」




 全員にずっと馬鹿野郎と言われ続けた誠司は、馬鹿野郎と言われるたびに謝り続ける謝る機械になってしまっていた。さらに言われ続けると、落ち込みすぎて迷宮の隅っこで三角座りになり動かなくなってしまった。




「…ミンナダケデイッテキナヨ。オレハココデマッテルカラ、ガンバレヨ。」




 そのあとこんな感じになっちゃったから、慌ててみんなで慰めた。




「誠司はもう押さないもんね。」


「バカっていうのは褒め言葉だよ!」




「ソンナノ…ホメコトバジャナイ。」




 慰めようとしたのに誠司は余計に落ち込んでしまった。まあ、いざとなったら聖也に頼んで引きずってでも連れて行こう。誠司ならきっと耐えられるはずだから。たぶん…。




 


 私たちは、相変わらず落ち込んでいる誠司を引きずりながら、洞窟の奥に潜っていた。かなり潜ったと思う。もうそろそろ何かあるんじゃないかなって思う。




「そろそろ警戒していこう。」




 私たちが、何が起きてもいいように警戒していると、とつぜん洞窟が開けた。天井が急に高くなり道も部屋のように広くなっていた。その部屋が突然明るくなる。まるでスポットライトに照らされたステージみたいだった。




 光を当てられた場所には、真っ白な台座があった。台座の周りには、キラキラと光る手のひらサイズのかけらがたくさん散らばっていた。台座の中には、そのかけらがつながったようなパーツがはまっていた。




「パズルかな?この感じだと。」


「そうだな。これだと僕と誠司は役に立たないと思う。パズルはそこまで得意じゃないからね。」




「まあ、でも手伝って欲しいな。私と恵美だけでこの量のピースを全部はめるのは流石に大変だから。」




 私たちは、ひたすら横につながるピースを集め、一つ一つ丁寧にはめていった。少しずつ、このパズルの絵がわかるようになってきた。こんな雰囲気の絵は前に見たことがある。


 これは3000年前の争いの時の絵だ。その一部が描かれているんだと思う。




 白と黒の二つの陣営に、白い陣営にいる1人だけ豪華な服を着ている男の人。そしてその横にいる背が低めの天人族の男の人。多分この男の人はるいくんで、豪華な服を着ている方が勇者の凛斗さん。るいくんは実際に体験をしている。当時のことを知らない私たちには何もわからない。だからこそ私は知りたい。


 まだ埋まっていないピースを埋めていった先を知りたい。




 私たちは、集中してどんどんピースを台座にはめていった。少しずつわかるようになってくる全体の絵。るいくんと凛斗さんが頑張った記録がこの絵には描かれていた。一つの絵に、さまざまな思い出が詰まっている。




 ピースは残り1つ。私は最後の1ピースを台座にはめた。描かれていた絵が完成する。完成した絵は、四つに分かれて私たちの中に入ってきた。






 ◆






「凛斗。無理してないか?」


「ああ、問題ない。そっちこそ寝不足だったりしないか?お前はいつも何かをやってるだろ?ルイ!」




 勇者リントと、友人のルイが楽しそうに話しているのが見える。私はここから見ることしかできない。これは絵に込められた記憶だから。




「もうすぐ、魔王城に突入することができるな。何もないといいな。」


「それをフラグを立てるっていうんだよ。」




 るいくんがそう言うと、凛斗さんがすごく懐かしそうな顔で笑う。




「フラグを立てるなんて久々に聞いたよ。そんな言葉はこっちにはないからね。ルイ、君はラノベでいう転生をしたのか?」




「・・・・・・・・・・・」




 凛斗さんが真面目な表情になってるいくんに尋ねる。るいくんは何も言わない。言っていいのか少し迷っているみたい。




「まあ転生と言えばいいかな。お前と同じ日本出身だ。」




「そうか。嬉しいな。同じ場所のことが伝わる人が近くにいると、こんなに嬉しいんだな。」




「何がなんでそうなったのかはまたどっかで全て伝えるよ。明日は早いからな。」




「また後回しにするんだろう?早めに教えてくれよ。」




 そう言って、るいくんと凛斗さんは別れようとした。その時、全身が凍るような感じがした。何も見えなくて何も聞こえない。何か恐ろしいものに包み込まれている感じがあった。




 凍るような感覚はそのままどこかへ抜けていった。私の体は動くようになって、目も見えて、音も聞こえるようになった。記憶を見てるだけなのに、こんなに怖いんだね。やっぱりるいくんはすごいなぁ。こんなに危険がたくさんの世界で生き残っていたなんて。




「ルイ。今何かヤバいもんが体を抜け切って…」




ーードサッ




 凛斗さんの目の前で、るいくんは倒れた。




「おい。大丈夫か?おい!しっかりしろ!」




 凛斗さんがるいくんの体を揺する。るいくんの顔色はすごく悪くて、誰が見ても異常だと気づくだろう。




「「キャーーーーーァァアーー」」




 少し離れたところから、甲高い女性の悲鳴が響いてきた。凛斗さんはるいくんを連れて、悲鳴が上がったところに移動する。そこは天人族の軍勢が、生活していたところで、その天人族全員が倒れていた。




 他の人が、必死に彼らを起こそうとしているが起きない。様子を見るに、何人か亡くなっている人もいるみたい。




 これってきっとるいくんの翼が黒くなった原因だよね。魔神が自分の死と引き換えに起こした呪いだよ。実際にここにいたわけじゃないけど、記憶を見るだけでもこんなにも辛い。




「おい、ルイ!絶対に死ぬなよ!」




 凛斗さんは、るいくんのそばでずっと声をかけ続けている。私はるいくんがここで生き残ることを知っているけど、ここに生きていた人はすごく怖かったよね。凛斗さんも、大切な人がいなくなっちゃうんじゃないかって思ったのかもしれない。




 時間が流れ、るいくんの翼が黒く染まる。それと同時に私が見ていた景色も真っ黒に染まっていった。










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