10話 強くしましょう
<ルイ 視点>
クラスメイト全員を強化するために、俺は訓練場をそれ用に準備していた。
今回は第一段階として、自分が弱いままだとどうなるか幻覚を見せることにした。自分が弱かったらこうなってしまう。という恐怖を植え付ければ強くなろうと努力するはずだ。
全員が気付かないうちに幻をいつも通りのことに置き換えるにはどうすればいいかというと、それは簡単だ。夢を見せてしまえばいい。
夢を見ている時は大抵、起きている時のことを覚えていない。時々、あ、これ夢だ。と気づくこともあるが、それはしっかり幻を見ている時は思い出さないように対策をしておく。
夢を見せるために俺は、訓練場全体に先ほどの効果をつけた結界をはった。そして結界に入り口を作る。そうすることによって、あの入り口から訓練場に入ると、自動的に夢の中に入ることになる。夢で見るのは当然悪夢だ。自分が弱いとどうなるかを目の前で知ってしまう悪夢である。つまり、自分が怖いことを見るのだ。
俺も実際に試してみたら、本当にきつかった。精神的にくるものがある。みたくないものを無理やり見せられる感じがすごく嫌だった。これを思いついたやつは悪趣味だと思う。
まあ、あいつらには弱いとどうなるか、怖いとどうなるかを知ってもらって、どうにか強くなってもらわないとな。こちらにも、強くなってもらわなきゃいけない事情があるからな。
よし、準備完了。あとはクラスメイトをここに呼んで、入り口から中に入ってもらうだけだ。
俺は一度部屋に戻って、しばらくだらけた。いつも通り朝食を食べ、クラスメイトを訓練場に案内する。で、これからの目標を教えてから、あとは何も伝えずに入り口から入らせる。
当然全員倒れるから、俺はその様子を観察する。
頭の中を覗き見するのはいいこととは言えないが、何をみているのか知るためにもクラスメイトの頭の中を覗かせてもらおう。
俺は、クラスメイトの1人の頭に手を翳し、頭の中を覗き込んだ。
◆
えっと、この幻は…恵美の頭の中だな。今は森の中に1人でいるようだ。ふだん誰かと一緒にいるやつほど周りに仲間がいないとどんなに心細いかがよくわかる。最初のうちは、1人だと薄暗いだけで、少し音が鳴るだけでビクビクするものだからな。
恵美も少しずつ慣れてきたのか、進む速度が上がってきた。森の途中で、弱い魔物と出会しても冷静に倒しながら進むことができている。1人でいる恐怖には、とりあえず勝ったみたいだな。
だけど、これからはそうもいかないと思うぞ。
恵美がやっと森を抜けた。数時間か…。結構頑張ったと思うが欲張れば30分くらいで森を抜けて欲しかったな。
休憩が終わり、恵美が街へ続く道を進み始めた。進んでいくと、遠くから悲鳴が聞こえてきたようだ。恵美は何を怖がっているのだろうか。
恵美が走っていって見えてきたのは、壊れた馬車とそれを襲っているオーガだった。う〜ん。あの時精神に異常はなかったはずだけど、やっぱ怖かったのか?
恵美のことを見続けていると、かなり長い間馬車の目の前で固まっていた。やっぱ、一度やられた相手だと弱きになるものなのか?
恵美は気合を入れてオーガに襲いかかった。だが、奇跡というのはそう簡単には起きない。前とレベルもほとんど上がってないから恵美が突然覚醒して強くなることもない。レベルの差は残酷なもので、恵美は何もすることができずに吹き飛ばされた。
「いやぁぁぁああああ!」
恵美が飛び起きた。汗もすごくかいている。
「どうだった?自分が弱いせいで目の前で人が死んで自分も死んだ感覚は。」
俺は悪夢から目覚めたばかりの恵美に聞く。
目の前で人が殺された時、どう思った?すごく辛いだろ。もし殺されたのが知り合いや友人だったら叫びたくなるだろ。弱い自分に怒るだろう。
そうやって後悔している間に、自分にも終わりが訪れる。それはすごく怖いことだ。
「るいくん…。最悪の気分だよ。自分がどれだけ弱いかがよくわかった。このままだと誰も守れないことも。」
「そう。それならよかった。」
自分が弱いんだってことがよくわかったと思う。しっかり伝わったと思う。だから俺はお前らクラスメイトを鍛えようとしているんだ。絶対に大切な人を失わないように。
できることならこのまま強くなってもらいたい。俺みたいに後悔をしないでほしい。
悪夢から目覚めたのは恵美が最初だ。後少しで他の奴らも目覚めそうだ。時間は少ししか残っていないが、他の奴らが見ている悪夢ものぞいてみようと思う。
誠司の見ている悪夢の中にきた。先に金竜と穂乃果のところも見てきたが、お前らどれだけオーガが怖かったんだよ。全員の夢にオーガが出てきてるじゃねえか。
俺は4人の夢を見て、助けた時にもう少し怖くならないように倒せばよかっただろうかと今更ながら思う。
恵美、金竜、穂乃果の3人が見た夢は助けられなかったことを後悔する夢だった。ただ誠司の夢だけは少し違った。助けられなかったことを後悔する夢じゃない、後悔している時自分が自分を責めている夢だった。
もしかしたら4人にとって、初めての敗北は俺が思っていたより辛く苦しかったのかもしれない。俺は少し初めての負けを軽く見ていたのかもしれない。俺は立ち直れたのだからお前らも大丈夫だろうと。
初めて負けた時、俺は1人だった。だけどお前らの初めての負けは仲間の生死がかかっていたのか。
「誠司、すまない。」
俺はまだ夢を見ている誠司に謝った。誠司が起きたらもう一度4人に謝ろう。そう思った。
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