9話 恐怖の再現




<恵美 視点>


 私は、暗い森の中を1・人・で歩いていた。どこから魔物が出てくるかがわからなくて、すごく怖くて、すごく心細かった。


 こんな時に、一緒に励まし合える仲間がいてくれたらとものすごく思う。もし仲間がいてくれたなら話すことができて、怖さも心細さも紛らわせることができるだろう。でもないものねだりはしてはいけない。今は私1人しかこの場にいないのだから。私は1人で頑張らなければいけないのだから。


 私は自分で自分を勇気づけて、少しづつだが一歩一歩進んでいった、








 どのくらい歩いたのかはわからない。でも少しずつ森の中が明るくなってきて、ついに森の外に出ることができた。外には、街に続く道があった。




「やっと出られた〜。私、すごく頑張ったよ。」




 外に出ることができた私は、やっと一息つくことができた。私は水魔法で水を出して、水分を補給する。ずっと気を張ってたから、安全なところにいるだけですごくホッとする。


 


 私はかなり長めに休息をとった。休憩したから疲れもしっかりとることができたよ。


 私は荷物をまとめて、街へ向かって歩き始めた。








 街に向かって歩いている時、誰かが戦っている音がした。私が進む先で誰かが襲われているのかも。と思ったから、私は慌てて音のする方向に向かっていった。


 進めば進むほど、音はどんどん大きくなっていく。そして誰かの悲鳴も聞こえてきた。




「大丈夫ですかー?」




 私は大きな声で叫ぶ。だけど相手には届かなかったみたい。


 走っていると、何かと戦っている馬車が見えた。馬車と戦っているのは私より圧倒的に大きくて力も強そうで…。


 オーガだった。私が初めて負けた相手。圧倒的で、なすすべなく飛ばされて、食べられそうになって…。私は、動かし続けていた足を止めてしまった。呼吸が乱れている。でもこの呼吸の乱れは走って疲れたから起きたわけじゃない。きっと前の恐怖を思い出したから起きたこと。




 まだかなり離れたところにいるけど、馬車にいる人が殺されそうになってしまっている。もう何人かはそばで倒れている。私が止まっている間にやられてしまった人たちだ。


 私が足を止めていなければ、あの人はまだ生きていたのかもしれない。


 私がオーガに飛びかかっていれば、まだ生きている人も傷つかなかったかもしれない。




 私の呼吸がどんどん荒くなる。


 目の前が少しずつ暗くなって、景色が歪んでくる。自分がどこにいるのかもわからなくなってきて…。


 


 何もわからなくなってくる…。






「助けてくれー!」




 そんな助けを求める声が、私の意識を元の場所まで引き戻した。あの人の声を聞いて、私はハッとする。私は誰かを助けたいから勇者になろうとしたんだ。今、その思いを全て諦めようとしてしまっていた。


 私は何を悩んでいたんだろう。迷う必要なんてなかったのに。




「おりゃぁぁぁ!」




 私は持っていた杖を持って、オーガに襲いかかった。一回決めるとあとは思ったより簡単で、なんでもっと早く決断しなかったのかなと思う。私はオーガに向かっていく中で、あの人たちだけは助けたいと思った。




 私の攻撃がオーガに当たり、オーガは一時的にバランスを崩し、その間に馬車に乗っていた人を助ける。その後に、得意の治癒で傷を癒す。


 


 できると思った。




 私の攻撃はオーガに軽く受け止められ、私はそのまま投げ飛ばされる。




「あぐっ。」




 私は近くの木に思いっきりぶつかって止まった。


 目がチカチカする。全身がすごく痛い。私はオーガに飛ばされたんだ。前と同じで。




 「い、嫌だ!来るなぁぁああ!」




 さっき私に助けを求めた人に向かって再びオーガは近づいていく。怯えているあの人は、オーガに攻撃され、地面を赤く染めた。




「いやああぁぁぁあ」


 私は思いっきり叫んだ。また助けられなかった。またあいつにやられてしまう。自分が強くなかったから。


 オーガはこちらにくるりと向きを変えてやってきた。私はオーガに捕まれる。




 怖い…。さっきの人もこんな思いだったのかな。


 だから、近くにいた私に助けを求めたのかな。


 私も誰かが助けに来てくれると期待しちゃってるな。












 今度は誰も助けに来てくれなかったな…。












 ◆






「いやぁぁぁああああ!」




 私は飛び起きた。私は汗をびっしょりとかいていて、心臓もバクバクとなっていた。ずっと寝・て・い・た・だけなのに、息もすごく荒くなっている。




「どうだった。自分が弱いせいで目の前で人が死んで自分も死んだ感じは。」




 目の前にるいくんが降りてきて、大体の状況を把握する。


 私は強くなるためにるいくんに鍛えてもらうことになった。るいくんは訓練場で、一つの空間を生み出した。そこからの記憶はないからさっき見たところに行っていたのだろう。




「るいくん…。最悪の気分だよ。自分がどれだけ弱いかがよくわかった。このままだと誰も守れないことも。」


「そう。それならよかった。」




 私が今の気分を伝えると、るいくんは満足そうに頷いた。




 あれは多分夢。るいくんが私に見せた幻。だけど、本物じゃなくても本物に見えてすごく恐ろしかった。これが本当におきてしまったとして、やられてしまったのがるいくんや誠司だったら…とそう考えてしまった。




 誰かを助けようと、守ろうとして自分がやられるのは困る。


 誰かを助けることができる強さがほしいな。







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