4話 黒翼の天人族




 自分の体に意識が戻ってくる。私は、森の中で目を覚ました。きっと気を失っていたのだろう。オーガが何かに切られた時からの記憶がないのだから。横を見ると、穂乃果も誠司も金竜も眠っている。私たちの体には、冷えないようにか布がかけられていた。手触りがすごくいいのできっとすごくいい布だろう。




 私たちは、オーガに勝つことはできなかった。護衛としてついてきていた騎士も私たちの判断ミスのせいで死んでしまった。よく話すようになった人がいなくなるのはとても寂しいし悲しい。


 私はみんなを起こさないように注意しながら静かに泣いた。




 突然風が吹いてきた。




「やっと起きた?よかった。」




 顔を上げると空から目の前に黒い翼の男の子が降りてきた。男の子とは言っても私たちと同じ年くらい。女の子と見間違えそうなぐらい整った顔だ。白髪でずっと見ていたくなるような金色の目をしている。


 地球では見ない色だから、思わずじっと見ちゃうね。




 私は、翼が生えている種族は天人族と魔人族だけだと教えてもらった。魔人族は今は見つかったことがない。と教えてくれた人が言っていた。ということは、私たちを助けてくれた彼があの人なのだろうか。




 勇者と共に戦ったもので勇者の友人でもあった黒翼の天人族と呼ばれた彼。




 私はこの日あってみたいと思っていた人に会うことができた。昔のいろんな話が聞いてみたいんだ。






「うおっ。俺は、俺は死んだのか?」


「待ってくれ。オーガはどうなった?」


「私の前には凶暴な猛獣がいました。」




 私以外の3人も起きた。起きる時に寝ぼけて言ったのだろうがその言った言葉がすごく面白かった。




「あっみんな起きたね。もうオーガはいないよ。私たちを助けてくれた人が倒してくれたよ。」


「恵美も無事だったか。その助けてくれた人って誰なんだ?」


「黒翼の天人族さんだよ。みんなもこの世界の歴史の話で聞いたでしょ。


勇者と共に戦った天人族のこと。」




 私がそう話をしていた時、一時的にどこかにいっていた彼が戻ってきた。




「みんなも起きたんだ。もう暗くなるからここで野営するよ。勇者たちは何もしなくていいよ。全部俺がやるから。絶対慣れてないでしょ、野営。」




「えっ。」3人


「なんで私たちが勇者だって知ってるの?」




 誠司たち3人は人が空から降りてきたことともう暗くなっているということに驚いて固まり、私はなぜ自分たちが異世界から召喚されたのを知っているのか聞いた。私は何も話してないのにどうして?




「う〜ん。なんて言ったらいいかな?俺は勇者召喚をどこかの国がいつかやると知ってたから。」




 彼はなんと勇者召喚をどこかの国がすることを事前に知っていたらしい。どうやって知ってどうやってそれが私たちだって知ったのかな。




 とりあえず気になったことはガンガン聞いてみよう。




「君たちも持ってるでしょ?鑑定眼。相手のことを見れば鑑定眼のレベルとお互いのレベルさによってさまざまな情報が見られる。ジョブが聖女の青花 恵美。勇者の世界の字は独特だからね。


だから勇者ってことがわかった。


あとはどうやって勇者召喚があるって知ったかだけど、それは後にする。」




「そう。わかったわ。でも必ず後で聞くから。」




 彼は火を焚いて食事を作っている。鑑定眼って人に使うことができるって初めて知った。私は彼のことを鑑定でのぞいてみる。




「えっ。」


彼のステータスを見た時、私は言葉を失った。




名前 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎(⬛︎⬛︎ ⬛︎)年齢 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ 性別 ⬛︎


種族 ⬛︎⬛︎⬛︎


称号 鑑定不能


レベル 鑑定不能


体力 鑑定不能


魔力 鑑定不能


筋力 鑑定不能


俊敏 鑑定不能


防御 鑑定不能


魔防 鑑定不能




魔法 鑑定不能


スキル 鑑定不能




彼のステータスは名前などは黒で塗りつぶされていてそのほかは鑑定すらすることができなかった。




鑑定結果を見ていると、突然彼が振り向いてこう言った。




「格上に鑑定を使うとばれるよ。勝手に覗き見しないほうがいい。


下手するとキレられて殺されるかもだから気をつけて。」




 その時の彼の顔はかなり怖くて、私は絶対に無闇に鑑定しないと誓った。もしかしたら、鑑定で人を見ることができるということを教師の人はあえて言わなかったのかもしれない。




 彼が簡単な夕食を作ってくれた。私たちは火を囲ってお互いのことを話し始める。




「じゃあ君たちは、異世界から召喚されて魔王を倒す決意をした。そして今はレベルを上げている。そういう感じでいい。」




「はい。ですがここで躓いてしまって、助けてもらえなければ僕は死んでいるところでした。護衛の人も僕ら逃そうとして亡くなってしまったのですから。」


「金竜、俺もすごく悔しいぞ。」




 金竜は、私から護衛の人が亡くなったと聞いて、すごく悔しそうだった。誠司も苦いものを食べた時のような顔をしている。




 そして、私たちの会話は途切れた。あまりにも静かで気まずい雰囲気だったので、私はずっと言い出せなかった話題を出す。




「あの、あなたは昔勇者と一緒に戦ったんですよね。勇者ってどんな人だったんですか?」


「あっそれ、私も気になっていたの!」




 私と穂乃果が聞くと、彼はすごく懐かしそうに話だした。




「勇者?ああ、凛斗のことか。あいつはなすごく元気でいたずら好きでモテたがりなやつなんだ。でも最後まで誰かと付き合うことはなかった。あいつはそういうやつだからな。




 あと最初あった時から俺にちょっかいばかりかけてきて、その度にいつもあいつのことを投げ飛ばしてた。あいつはさ、昔の友人とすごく似ていたんだ。仲が良くなった理由も似ているってだけだったかもしれない。それでも何度も話すうちに歩雰囲気は似ていても、中身は全然違うって知ったんだ。




 普段はふざけているくせにやらないといけない時はすごく真剣な表情をするんだ。それが自分を犠牲にするやり方であってもさ。そこが昔の友人と違うところかな。」




 彼は今までずっと表情が変わることがなくて氷のような顔をしてたけど、勇者の話をし始めた途端突然表情が変わって少し微笑みながら当時の勇者のことを話してくれた。




 みんな昔の勇者の話は興味があったみたい。少しも聞き逃すことがないようかなり真剣に聞いていることがわかる。






 ◆






「まあ、勇者に関してはこんな感じだ。多くの人から見ると正義感が強い優しい男という印象が強いやつだったよ。できれば、表舞台に出てこなくなってからのことは聞かないでほしい。あまり触れないでほしいからな。それ以外で他に聞いてみたいことはあるか?」




 いつの間にか、団欒の時間は私たちが気になった質問を彼が答えるような時間になった。さっきみたいな気まずい雰囲気はもう無くなっていて、今はすごく盛り上がっている。




「えーっ!?オーガを剣で切ったのにメインは魔法なんですか?すごーい。やっぱりジョブも魔法系なんですか?」


「え、ジョブ?天人族はジョブなんて持ってないよ?」


「えっ?ジョブがないんですか?」


「人族しかジョブは持っていないはずだけど。あれは全体的にステータスが低い種族用に作られたシステムだ。なんならその仕組みについて説明しようか?」




「「「「えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」」




 私たちは全員で驚いて大声で叫んだ。ステータスについて研究している人たちにとってジョブの仕組みは長年の謎だと言われている。その長年の謎がこんなにも一瞬で解けてしまった。私は一度彼を学者たちのところに連れて行きたいなと思った。一度学者と会ったことがあったけれど、話を聞く時の顔がすごく怖かった。




「仕組みってどんな仕組みなんですか?」


 


 少し落ち着いてから、穂乃果が聞き直す。私もすぐに聞き逃さないように彼の話に耳を傾けた。




「ジョブって仕組みは一言で言うと、得意なところを極端に伸ばし、苦手なところを伸びにくくする。得意なことを伸ばし続けることによって強さを得る仕組みになっている。」




「俺たちがすごいありがたがっているジョブはこんな仕組みだったんだな。」




「ジョブを生み出した天神様に感謝しないといけないね。」




 彼と話をいていると気になることがどんどん増えてきて、話している時間もそれに伴って長くなった。彼の知識は本当に知らないことばっかりで、私たちもこんなに話していたと気づかなかった。






 もうすぐ月が空の真上まで登ろうとしていた。




「もう夜も遅いからあと一つ答えたら寝ろ。これ以上遅いと明日に支障が出るからな。」




「あっもうこんな時間なんだ。」


「楽しいと時間って忘れちまうよな。」




「じゃあ私、名前を知りたい!どの歴史の本を見てもあなたの名前はどこにも出てこなかったから。」




 珍しく、穂乃果が質問していた。その質問は、私も正直1番聞いてみたい話だ。なのになぜかあえてその質問をすることがなかったと思う。




「僕もあなたの名前が知りたいです。どうか教えていただけないでしょうか。」




 穂乃果の他に金龍も頼む。私と誠也もその質問に答えて欲しかったみたいで私たちも頼む。




「俺の名前はルイ=ヴァイスという。これでいいか?」




 彼はぶっきらぼうに自分の名前を言う。私たちは勇者と共に戦った天人族の彼と呼ばれていた人の名前を知った。彼の名前はルイ。それは異世界に召喚された時、どこに行ったのかがわからない私の幼馴染と同じ名前だった。




 ルイという名前は探せばかなりの人数がいるだろう。でも私は、その名前を無視することができなかった。それは誠司も同じらしい。誠司も彼に、ルイに聞きたいことができてしまったようだ。




「よし、質問に一つ答えた。全員寝るぞ。寝床に入れー。」




 ルイは私たちの質問に一つ答えた後だ。私たちはもう寝ないと明日、寝不足でキツくなる。




「明日、帰って落ち着いてからルイに聞こう。」


「そうだな。」




 私たちは、寝床に入ってゆっくりと休んだ。魔物を倒し血を見て、精神はかなり疲れていたのだろう。すごくぐっすりと眠ることができた。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る