3話 レベル上げ
訓練とこちらの世界の常識を学ぶことはや2週間。私たちは召喚された時と比べるとかなり強くなった。まあ、まだ2週間しか鍛えてないから初心者程度の実力だけど。具体的にいうと生まれたばかりの赤ちゃんとプロボクシング選手ぐらいの違いかな?
2週間いろんなことを教えてもらって、明日からは外に出て魔物を倒しレベルを上げることになった。ライトノベル好きは盛り上がり、私も訓練した結果を見られると正直すごく楽しみにしている。でも安心安全を目指さないとね。レベルを上げれば安全度も上がるから。
◆
今日私たちは、何人かで組んでバランスの良いパーティーを作った。人族が魔物と戦うためには連携が重要だからだ。
しかし今のパーティーは仮のものらしく、レベルと能力地に差が出てくるようになったら、高いもの同士と低いもの同士で組むようになるらしい。でも、大体はそのままになる予定だそうだ。
私が組むのは、勇者の金竜と聖騎士の誠司、魔法師の穂乃果。私たちのパーティーは知り合い同士でまとまって組むことができたと思う。
私たちはパーティーを組んで、護衛の騎士と一緒に外に出た。今回私たちと一緒についてきてくれている人は、国の騎士で、ついてくる理由は万が一私たちが倒せない魔物が現れた時のためだそうだ。
初めて見るこの街は日本では見ることがないどちらかといえば昔の西洋の方の建物のようだ。街は活気に満ちていて、歩いている人もとても楽しそうだ。通りかかっただけで会話が始まって仲良くなっているみたいだから、羨ましいとも思った。
そして私たちは召喚されてから初めて城壁の外に出る。
初めて見た異世界の外はとても開放感があって気持ちよかった。私は風に乗ってどこまでも走っていくことができそうだと感じた。外には青々しい緑の草原が広がっていた。
草原なんて探せば結構いろんなところで見られるはずなのに、地球とは見え方が全然違って今まで見た景色の中で1番綺麗だと思った。
騎士の人の案内で森に近い草原に向かう。道中、時々スライムが現れた。フォルムはすごく可愛いのに、私たちが近づくと地面を溶かすくらいの酸を飛ばしてきた。ジュューーゥと地面が溶けていくのを見て、見た目の可愛さに騙されてはいけないと学んだ。いくら可愛くても魔物は魔物だと。
道中の銭湯は私と穂乃果の魔法組はほとんどやることがなくて、ほとんど金竜と誠司が倒してしまっていた。2人はすでにレベルが2になったらしい。2人はとても喜んでいた。頑張ってよかったとも言っていた。
騎士の人はきついのはこれからだと言っていた。まだ私たちはその意味を知らなかった。
騎士の人はすぐにわかると言っていたけど。
森の中に入り始めると、すぐにゴブリンが二匹現れた。始めての人型魔物で少し怖かった。魔物は容赦なく襲ってくるから私と穂乃果は慌てて魔法を放った。体制を崩したゴブリンを金竜と誠司が切る。すると生物として当たり前のことだけど、切り口から血が流れ出てきた。
私は今日初めて血を見た。生々しくてどろっとしている。匂いもきつい。香りもすごく嫌なか感じで、吐き気もなんだかでてきた気がする。
これが騎士の人が言っていたきついってことか。すごくよくわかった。こんなグロい死体を生で初めて見ると精神的にきつい。たくさんの死体が血を流しているのは、目を逸らしたくなるような光景だ。
レベルも2に上がったが、今は気にしている余裕がない。魔法がゴブリンに当たった時の感触が今も手に残っている。触ったわけでもないのみ触れた感覚があった。金竜も誠司も同じみたいだ。だけど2人は実際に魔物を切っているから余計にしんどいのかもしれない。穂乃果も顔色が悪い。
騎士の人が気を遣って「少し休憩しようか。」と言ってくれた。
◆
少し水を飲んで休憩した。吐き気はだいぶ治ったと思う。生き物を殺すのはこんなに怖いものだったのだと知った。ありをうっかりプチッと潰してしまった感じじゃなくて、サクって感じで大きなものを切りつけた感じだった。
私は、異世界召喚を甘く見ていたと実感する。召喚されてきたのは、死体を見たこともない戦いとは無縁の多少強いだけの子供。死体を見るのに慣れなきゃいけない。
「生き物を殺すってこえーな。切った時の感触をまだ覚えてる。」
誠司が暗い顔でそういった。
誠司は私よりも近い距離でゴブリンが死んだのを見た。死体を見るのはかなりの衝撃だったのだろう。
私はそっと金竜と誠司にリラックスの魔法を唱える。少しは不安や焦りが落ち着いてくるといいな。
「ありがとう、恵美。すごい楽になった。」
「ありがとう青花さん。気を遣ってくれて。」
2人は私にお礼を言ってくれた。誰かにありがとうって言われるのはすごく嬉しいな。私は私にできることをしようと思う。それが誰かの役に立つことができるなら。
◆
ある程度体調と気分が落ち着いたので再び出発することにした。何度も何度も現れるゴブリンを見つけてはすぐに討伐していく。再びステータスを見る頃にはレベルは5に上がっていた。
森の浅いところではなく少し深めのところまで行くとウルフが現れるようになった。ウルフは何匹かで群れを組んで襲ってくる頭が少しいい魔物だ。気をつけないと私たちだけならあっという間に死んでしまうくらいには強い。最初は少ない群れだったが何回も倒していくうちに少しずつ数が増えていく。
今は7匹の群れと戦っている。全員で力を合わせて1匹ずつ倒していく。途中、穂乃果に後ろからウルフが襲ってきて、本当にびっくりした。咄嗟に杖を使って防ぐことができてよかったよ。防ぐことができたから、穂乃果も魔法を打つことができたし。
「金竜くんも誠司くんもお疲れ様。いい連携ができたね!」
「おう!恵美もすごくよかったぞ。」
「ああ、だいぶ強くなった感じがするな。」
「恵美ぢゃあああん。ありがどお。襲われた時怖かったからぁ。」
「穂乃果も頑張ったよ。魔法で倒したじゃない。」
7匹のウルフの群れを倒し終えた時、私たちは達成感で満ちていた。レベルも10になった。私たちは昨日の私たちより圧倒的に強くなっていた。
だからかもしれない。私たちは少し調子に乗ってたの。
◆
「せいっ。やっぱり奥に来ないほうがよかったな。」
「僕もそう思うよ。数が多すぎるしレベルも同等以上だ。」
「ごめんね。私が奥の方いっちゃおうって言ったから。」
「恵美ちゃんは悪いけど私も悪いから。やめとこうっていえなかったから。」
「勇者方、今度からは無理をせず早めに帰りましょう。」
今、私たちのパーティーは危機に直面していた。
それは自業自得で、今から20分ぐらい前のことだと思う。
ウルフの群れも簡単に倒せるようになった頃。ウルフより強い魔物が出てくるところまではいく予定がなかったんだけど少しだけ興味を持っちゃって、予定していたところより奥に入っちゃったんだ。
そしたらレベル10なんて当たり前の魔物がゴロゴロといたの。
私たちは一生懸命魔物を倒したわ。でも倒しても倒してもどんどん襲いかかってくるの。少しずつ魔力が減っていって徐々にキツくなってきた時に、あいつが現れたの。
オーガ レベル45
今襲いかかってきた魔物の平均レベルは15くらいだ。それなのに突然レベルが倍以上の魔物が現れた。
「なんでオーガなんて魔物がここにいるんだ?こんなところにいる魔物じゃないのに。」
やっぱりここにこのレベルの魔物がいるのはおかしいらしい。今、金竜くんと誠司くんはスタミナが切れている。私と穂乃果も当然魔力切れ。私たちは、死にそうになる恐怖を知った。
「勇者方は逃げてください。倒せないと思いますが、足止めぐらいはやってみます。」
護衛をしてくれていた、騎士の人はオーガに向かって走っていく。そしてそのまま剣を振るう。
その剣はオーガに当たってポキリと折れ、オーガは騎士の人を掴んで潰した。折れた剣は私たちの心を表しているかのようだった。
「恵美ちゃん、逃げて!」
穂乃果が叫んでいる。オーガはこちらにどんどん近づいてきている。私は逃げることができず恐怖でへなへなと座り込んでしまった。オーガが私に向かって手を伸ばした時、私が怖くなって目を瞑った。
ー潰されることを覚悟して目を瞑った。だがオーガの手が私に届くことはなかった。
私に向かってきていたオーガの手はスッパリと切られていたのだから。ヒラヒラと黒い羽根が舞う。
瞬きしている間にオーガは切られていて、私は深く呼吸をする。
誰かが助けてくれたのかな?
死にそうだったからすごくありがたいな。
ちょっと視界がぐにゃぐにゃしてて。
あっ倒れる。
ー私の意識は少しずつ遠くなっていて、最後に見えたのは誰かの足だった。
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