2話 修行と勉強の時間です
朝、私たちは自分の家ではなく王城の一室で目を覚ました。見慣れない景色を見てここがいつもの家ではないことを知る。気にしないようにしても、お母さんに会いたい妹に会いたいと思ってしまう。
私はのそのそと起き出すと、一緒の部屋で寝ていた友達を起こす。この部屋は、国が城の中に用意してくれたもので、すごく快適だ。
同室の友達、穂乃果と身支度を整え、クラスメイトで集まって食事をとる。出てきたものは、パンにスープ、飲み物だった。今はまだそんなことはないけど、そのうちきっとお米が食べたくなるな。
食べ終わった後、私たちは外に出た。今日から色々鍛えていくみたい。私たちは戦いとは無縁の世界で生きてきたから、基礎から教えてくれるって。
「俺は、騎士団長のドミニク=ローディスだ。勇者方には力の使い方を練習してもらう。さまざまなジョブがあるが、騎士が1人1人教えるので安心してほしい。魔法をあまり使わず武器を使うジョブの勇者はあちらに、魔法を使う勇者は向こうに、どちらも使う勇者はここに残って欲しい。」
そう言われて、クラスメイトたちは移動しはじめる。
「恵美。別々の場所だから、お互い頑張ろうな。」
「うん。誠司も頑張って。」
私たちは別々の場所に分かれる。私はもちろん魔法メインのグループのところだ。そこにはいかにも魔法使い!という雰囲気の人と神官!という感じの雰囲気の人がいた。コスプレみたいな格好をしているのにコスプレに見えないのがすごいなと思う。
「私は宮廷魔法使いのアリス・フィーリスという。勇者の魔法を鍛える役目を任された。しっかり鍛えるからよろしく頼む。」
今、挨拶してくれた人はめちゃくちゃすごい人だったらしい。アリスさんは一礼すると、隣の神官の人に変わった。
「私はリニア・ゼラ教の司教ゼスト・テスカという。君たちに治癒系の魔法を教えていく。よろしく。」
もう1人の神官さんはすごく真面目な人だった。真面目だからこそしっかり教えてくれそうだなとも思った。
私たちも自分の名前とジョブを伝えた。
「ジョブは聖女の青花 恵美です。」
「私は空島 穂乃果。魔法師でしゅ。」
「桜 みなみ。付与魔法師。」
「僕は紫音 めぐる。ジョブは精霊魔法師だよ。よろしくです。」
「召喚師の翠原 恒星です。」
魔法メインのグループには穂乃果以外あまり話したことがないようなメンバーが集まった。これを機に仲良くなれるといいな〜。
「まずは魔力をイメージしろ。その後その魔力を何に使うかをイメージするんだ。その後完成系をイメージしながら詠唱をしろ。詠唱せずに魔法を使うのは今の時点ではやめた方がいいぞ。最後にうつ! と
こんな感じで魔法を使う。さあ、どんどん実践していくぞ!」
「ググッと力を動かそうとするとやりやすい。やってみるといい」
どうやらアリスさんもゼストさんも知識を教えるより先に実践!という感じの人みたい。
私たちはたくさん練習して頑張って感覚を掴んだ。さっき、アリスさんが説明してくれたことはなんとなくわかったから、とりあえず挑戦してみた。
すごく大変だったよ〜。意外と難しくて、コツを掴むのに時間がかかった。特に魔力切れはきつかったな。使えば使うほど魔力は減っていくから。フラフラとして、気分が悪くなって、頭が働かなくなるんだもの。そんな中で、ずっと練習を続ける。魔力をどれだけ上手く運用できるかが大切だとわかったわ。
訓練が終わり少し休憩を挟んだ。休憩の時は、全てのグループが合流する。どんな内容かを聞いてみたら、私たちと全然違うものだったが、疲れているところは同じだ。
魔法メインのグループは魔力切れで、武器メインのグループは筋肉を酷使したことで、どちらも使うグループは魔力切れと筋肉の酷使で疲れ果てていた。
「恵美〜聞いてくれよ。どっちも使うのめっちゃ大変なんだよ。魔力切れでキツいなか、体を動かすんだ〜。ほんとキツかったよ〜。足がパンパンになるんだ。今は動きたくないくらい。」
「そっそんなに大変だったんだ。私魔法メインで良かったかもしれない。魔力切れの症状もだいぶ落ち着いたし。誠司は頑張ったんだね。せっかくだから覚えた魔法で少し直すね。」
「心まで聖女かよ。ありがと〜。」
回復したばかりの魔力を使ったから、また魔力切れの症状が出たけど誠司くんの体は元気になったから良かったな。
休憩中にご飯を食べたけど、なんとカレーが出てきた。昔世界を救った勇者が教えたレシピらしい。勇者が作っていたのを異世界の料理人が目撃して異世界ではこれが人気なんだと言ってノリでレシピを教えてくれたのがきっかけらしい。
今は世界中の人気料理なんだって。
カレーはライスの方ではなく、ナンみたいなパンの方だったけど、久々に地球のご飯を食べられて嬉しかった。味も最高だったよ。一部の人は、まだ召喚されて二日目なのに泣いていた。
昔の勇者のことについては、後でこの世界の歴史を説明するときに教えてくれるらしい。少しだけ勉強が楽しみになった。
◆
今から約3000年前、3人の天神と3人の魔神が争っていた時代。争いは今よりもずっと激しかった。常に大きな音が鳴り響き、いつ家が壊れるかもわからないそんな時代だった。私たち人族とエルフ族、獣人族、ドワーフ族がまだジョブを持っていなかった時代。人々はとても弱く、すぐに蹴散らされてしまう。
争いのメインは天神と白い翼の生えた天人族の軍勢と魔神と黒い羽が生えた魔人族の軍勢だった。人々は怯えて暮らすしかなかった。人々は願い続けた。自分の身を守れるようになりたいと。ずっと願い続けてきた。
ある日突然、天神は人々にジョブと異世界召喚の知識を授けた。この知識を使って強い異世界人を勇者として召喚して欲しいと。
ジョブは人々の力を底上げした。人々は自分の身を守れるようになった恩返しとして天神側につき魔神側と戦った。中には魔神側として戦ったものもいる。
魔神側として戦ったものがのちに魔物と混ざり合い魔族と呼ばれるようになった。と言われている。あくまで言われているだけで、本当かどうかはわかっていない。
それと同時に異世界の勇者を召喚した。召喚されたものがのちに世界の英雄となるリント=ハスガウラである。勇者は最初は弱い少年だった。だがその勇者は、天人族の中で1番強いと言われている彼と出会った。
勇者と彼は共に魔神らと戦った。勇者はどんどん強くなり、徐々に天神側が魔神側を押して行った。
そしてついに魔神側を追い詰めた。そう思っていたとき、魔神の1神が自身の命を代償に最も厄介と思われていた天人族に死の呪いをかけた。
いくら天人族が強いとはいえ神が相手では流石に何もできなかった。呪いにかかった天人族はあっという間に数を減らし、残ったのは数人だけだった。そして残った数人も戦える状態ではなくなった。
勇者と共に戦った彼も例外ではない。だが彼は神に匹敵すると神に言われるほど強かった。戦えなくなることはなかったが呪われたとき彼の翼は白から黒へ変わった。たったそれだけのことだが、前の彼とはかなり違う印象になったと言われている。彼は、何があったのか誰にも話すことはなかった。
彼は呪われてもなお、勇者と共に最後まで戦い続けた。やがて彼は黒翼の天人族と呼ばれるようになる。
外見で呼ばれるようになった理由は当然彼の名前が分からなかったからだ。わからなかった理由は、名前を知っていたものがみななくなってしまったためだ。
私たちは戦い続け最後に、勇者と彼は2人で魔神を倒したのだ。残った魔神側のものは今は魔大陸と呼ばれている大陸へと逃げ出した。世界は平和になった。
勇者は世界を救った英雄となった。英雄となったリント=ハスガウラは戦いが終わった後、異世界の知識を一部伝えてから彼と共に姿を消した。
勇者が姿を消してから45年。勇者がなくなった。共に戦った彼が直接伝えにきたのだ。世界の人々は悲しみに包まれた。
その後、勇者が魔神を倒した日は全ての村で祭りが開かれるようになった。勇者がなくなった日は、世界を平和へと導いた勇者に感謝をするようになった。
勇者がなくなったことを伝えた黒翼の天人族は再び姿を消した後、さまざまなところに現れるようになった。天人族は寿命がとても長く、ほとんど不老に近いと言われており、数年前にも目撃情報がある。現れる所はいつもバラバラで、共通点は何かを隠して置けるような場所があるところだ。まるで何かを探しているようだとある学者はいった。
その考えが出てきてからは、彼がさまざまなところに現れるのは何かを探しているからと言う仮説が建てられた。
◆
「これが昔の大戦の話だ。この話は昔からずっと伝え続けられたもので、その時のことを知っているものはほとんどいない。いるとしたら勇者と共に戦った黒い翼の彼だけだろう。」
「勇者と戦った天人族の彼の名前を知っているものはいるんですか?」
「残念ながら彼の名前は知っているものがいなかったらしい。知っていたとしても、誰かに教えることはないだろう。」
すごい壮大な話だった。地球の物語にも、こういうのはあまりないから聞いていてすごく楽しかった。
だけど、昔はジョブが存在しなかったなんて、昔の人は大変だったんだなと思う。
勇者リント=ハスガウラさんもすごいな〜。多分日本人だよね!本当に世界を救っちゃったりする人もいるんだな〜。私たちが世界を救えるかどうかは別としても、本当にすごい人だと思う。
「なあ、恵美。俺感動しちまったよ。昔の勇者ってすげえんだな。」
誠司もグッときちゃったみたい。まあ昔の勇者そのものが男の子の心を刺激するような話だから。
私も昔の話を元聞いてみたくなったな。実際に見て体験したことがあるの人は知られている中では黒い翼の天人族しかいないらしい。勇者と共に戦った彼か。会ってみたいな〜。天人族は翼が生えているっていうし
見たらきっとわかるはずだから。もしも会うことができたのなら、昔の話を教えてもらいたいな。
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