第3話 遭遇パラノイア
ファミレスを追い出されてすぐのこと。
俺たちはすごすごと、すぐ正面にあるカラオケに突撃した。
懲りないヒメが受付で店員さんと談笑し始め、これまた懲りないナメが店員さんをナンパしようとしてブレやんに締め落とされる。その後、何故かブレやんがその店員さんから連絡先を貰ったりなどと新たなブレやん伝説に一同恐れ慄いたりと色々あったが、漸く俺たちは腰を落ち着ける事が出来た。
「うわっほー!」
ソファにダイブしたヒメが早速デンモクを独り占めし、電光石火で3曲入れ込んだ。
俺は受け取ったデンモクを弄りつつ、適当にみんなが知ってて盛り上がる曲でも入れようと考えた。
「スミ、オレのも入れとって。いつものなー」
「あいよ」
ナメがスマホぽちぽちしつつ、リクエストしてきた曲を入れる。また女だろうか。
ヒメが初めにSNSで今流行りの曲をノリノリで歌い切り、2曲目のK-POPを振り付けありで、気分良く歌い上げていた時分のことだ。
「ふんふんふん♪ほんにゃら〜♫」
「こいつ音だけ拾っとる…!邪道歌いや!」
「なんか最近こういうのネットで見たなぁ」
「む…曲が登録されていないな…」
ブレやんがマイナーすぎて登録すらされていない持ち歌を探している最中、俺はマラカスを、ナメはタンバリンをぶち鳴らす。
すると、ヒメは更に気分を良くしてホニャホニャと音程だけは綺麗に合った歌のテンポを上げていく。
「ほんなーあんなー♪うんにゃら…」
ブツン!!
「ら?」
うわっほぅ!?
…。突如、視界が真っ暗になった。
「なんやなんや、停電か?」
「うわっほー!!停電だ停電だ!」
「…ブレーカーでも落ちたか」
「な、なら待ってたらすぐ戻るかね?」
慌てて手探りでスマホを取り出し、ライトを付ける。暗闇の中、僅かな光を頼りに全員が顔を見回した。ブレやんがドアの外に顔を出し、辺りを見回す。
「…まぁ、当然だがこの部屋だけじゃないみたいだな」
「下手に騒いでもパニックパニックやから、大人しゅう談笑しとこうや。なんかあったんなら店の人が説明くるやろ?」
ナメの提案で「それもそうか」と俺たちは再びソファに体を預ける。
突然の非日常に、ワクワクと楽しそうな様子を隠しもしないヒメが足を遊ばせながら、小さく首を傾げた。
「台風来たのかな?」
「急すぎだろ」
「いんやぁ、今日丸一日ピーカンやで?電柱倒れたりとか電線切れたりとかはアホがおらん限り無いやろ。なんや、また電力会社にでもヤバい奴乗り込んだりしたんかな」
「『電気人間』とかあったねぇ〜」
ナメがSNSで「停電」と打ち込み検索をかける。だが、何もヒットしなかったようで肩をすくめて首を振った。
しばらく経っても電気も復旧しなければ、店員もやって来ない。
「俺ちょっと店の人に聞いて来るよ。危ないからお前ら待ってろ」
「…いや、俺も行こう」
「いいっていいって。いつもお前らには苦労かけてんだから、これくらい
「…そうか」
「いってら!気ぃ付けなよ!」
「お言葉に甘えさせていただくわ!ブレやん、ヒメ、折角やしUNOでもしてよか。ルールはオレの地元準拠な」
「何を賭ける」
「うっわ!ボク、イカサマ上等のこいつらとやんの?いや、やるけどさ!す、澄夏早く戻って来てよ!」
「へいへい」
妙に楽しそうな3人に後ろ髪を引かれつつ、俺はスマホの明かりを頼りに部屋を出る。
…
……
………
「こえ〜。やっぱ着いてきて貰ったら良かったか?」
カッコつけちったなぁ。悔しいが後悔は先に立ってくれないのだ。
…想像してたよりも暗いし怖い。すぐ終わると思ったのに人っこ1人出会わない。
お化け屋敷とかマジで無理なタイプの俺は内心ガクブルだった。やだ。泣きそう。膝だけが笑ってる。
…それにしても妙だ。音一つ無い。無音で耳が痛いくらいだ。そりゃあいくらカラオケだからといって、電気が付かないのだから音楽が流れるはずはない。だが、それにしても静かすぎる。
夏休みなのに、俺たちの他に客1人いないってことは無いだろう。
「なんか変だな」
朝みたいに変なのが湧いてないよな?そうだとしたら、なかなか運がない。
壁を頼りに、暗闇を進む。スマホの明かりだけが頼りというのがどうも心許ない。
「…俺、ホラーゲームとか苦手なのよ」
独り言が増えるのもビビっている証拠だ。
受付までの道のりはそう長くないというのに、この闇が時間も距離をも長く長く引き伸ばす。
壁をなぞる手が角に触れた。ようやく突き当たりだ。
「うおっ!?」
腰にカサリと何かが触れた。慌ててスマホを向ける。
「なんだ、草?」
腰まで届く黒に近い緑の草だ。来た時に、こんな場所に観葉植物などあっただろうか。
いやそもそも植木鉢が見当たら
「おっ!いたーっ!!」
「ひょ!?なに?眩しっ」
女の声と共にライトに照らされる。あまりの眩しさに変な声が出た。もう一度言う。あまりの眩しさに変な声が出た。
反射で顔を覆ったが、まだ目がチカチカする。
「あ、ごめんなさい!眩しいですよねっ!えっと…もしかして、店員さんですかっ」
やっと見つけたと言わんばかりの歓喜を乗せた声色だ。目的は俺と同じみたいだった。
目を擦りながら言葉を返す。
「いや、違う。そういうアンタは店の人じゃあ…なさそうだな」
「え、じゃあまさかまさかの店長さん?」
「いやいや、これこれ!学生服!」
「あぁ!アルバイトさん!」
「ちがーう!」
「じゃあなんだろうー?」と頭を悩ませる少女。
やっと視界が戻ってきた。見てみれば、立っていたのは長い黒髪の少女だ。腰まで届く黒髪が特徴的な彼女は、私服姿だが年も近そうだ。
どこか間の抜けた、天然、ぼんやり?…初対面で失礼だが、そんな印象ばかり浮かぶ目の前の彼女。残念ながら店員では無い、だがようやく見つけた第一村人だ。
ほんの少し安心感がある。
「…あー!その服、
「え?あぁ、1年だけど」
「おー!同い年!凛参ってカッコいいよねー!よろしくね!」
「あ、はい」
なんだか調子の崩れる子だ。
ペースが独特というかなんというか。
しかし、女の子1人行動というのも危なっかしい。
「これも何かの縁だし、一緒に行動しようか。こうも暗いと危ないしな」
「あ、それ!私も今言おうとしてたとこ!気が合うねぇ」
手を合わせてニコニコ微笑む彼女。実に可愛い。平常時なら出会って5秒で告白だった。
この暗闇というギリギリの緊迫感が、逆に俺を平心でいさせてくれた。
だって、ここで告白して断られたりしたら心細すぎて死んじゃうし。
「私ねぇ。友達と遊びに来てたんだけどね。あ、キミもそう?
私、こういうの初めてでねぇ。張り切ってたんだけど、急に真っ暗になっちゃって。みんなで部屋を出たんだけど私だけ逸れちゃって、心細かったんだぁ」
相当寂しかったのだろう。
マシンガンの如くトークが止まらない。
一頻り話し終えた後、「あっ」と彼女が何かに気がついたように声を上げた。
「そうだそうだ!自己紹介がまだだったね!私、
「
しれっと下の名前で呼ぶ様に誘導するのは罪に当たるだろうか。
ナメとかハンカチ噛んで悔しがるだろう。勇気ある男に送られる、ささやかなご褒美として許して欲しい。
もうさっきから切なくて仕方がない。温もりが欲しい。心の。ついでに体も。
「ワタシのコトはマキータって呼んでネー♫」
…ん?
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