30

ひょっとしたら怒鳴られやしないか、暴力を振るわれやしないか、

トラウマがしゃしゃり出てきて胃がきゅっとなる。

でも林君がそんなことをしないのはもうわかっている。


唇をかみしめる様な顔をして、わかった。と一言だけ絞り出すように言った。


林君は林君で私が嫌な思いをしないように気を使っていたのだと思う。

そのやさしさに涙が出そうになるのをこらえて、じゃあ、戻るから。と言って離れた。


この後も普通に会って普通にしゃべれるといいな。と都合の良いことを考えていた。

林君だったらそうしてくれるような気がした。

私ってずうずうしいのかしら。


その日はなかなか仕事に集中出来なかった、今日は竹宮君じゃなくて私がへまをしそう。


帰りにさきおの部署に行き、一緒に帰った。


「林君に言っちゃった。もう会えないって。」

さきおは横にいる私を見ている。

「あこちゃんらしい。」

私がはてなって顔をすると、

「行動力。」

「まあね、せっかちだから。」


ほっとしたのか、さきおと話していたら涙が流れた。

さきおがぎゅっとしてくれる。

「緊張したあ。」

またぎゅっとする。

涙が流れてなかなか止まらなかった。

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