10

竹宮君はいつもだったら怒鳴りたくなるようなミスを報告しにきた。

それなのに私は全然怒りたい気持ちが起きなかった。

気を付けてね。優しくそう言った。

竹宮君は一瞬固まったように思う。

それから席に戻っていった。


今だったら世の中のどんなことも許すことができそうな気がする。


デートすることが嬉しいんじゃなく、トラウマに打ち勝ったことが嬉しかった。


私だって男性とデートすることができるんだぞ。


それでもふたりきりになることは怖かった。


いざ当日になるとしり込みした。


調子が悪いと言って断ろうか。


あまり眠れなかった。

実際調子が出ない。


それでも勇気を奮い立たせて部屋を出た。


行先は事前に林君が決めた。

街を歩こうということになった。


改札で待ち合わせ。

少し前に着いたら改札の向こうに大勢待っている人たちの中に林君が見えた。

もう一度勇気を振るい、

「お待たせ!」と元気よく言った。

林君は、コンチワと言って照れくさそうにした。

じゃあ、こっち歩こうかと言ってふたりで歩き始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る