第73話
今まで戦った相手の中で最強と言っていい相手。
しかし、王国最強を誇る彼でも、エルハイドのステータスには及ばない。
(――<
名前 フレン・レイフォース
種族:
最上位
Lv44
体力:S
攻撃:S
守備:A
敏捷:S
魔力:S
魔攻:S
魔防:A
<
・
<
・魔導覚醒
・叡智ノ剣
・叡智ノ盾
・叡智ノ衣
(
魔法と剣を高レベルで使いこなす
「……僕が先に仕掛ける。援護を」
「……分かった」
しかしフレンの横顔に怯えは微塵もなかった。
『人族は皆殺しにする。勿論、人族に与する魔物も同様!』
エルハイドは身体に纏う暗黒闘気と奈落剣に付与されてある雷魔法を再び交じり合わせた。
『――<
エルハイドの左手から黒き稲光が放たれる。ジグザグに曲がる軌道は酷く読みにくいが、
「<叡智ノ盾>」
アシルの前にフレンが飛び出す。
左手に突如として顕現した青白い光の盾をフレンは迫りくる黒い稲妻の前に突き出した。
『ふん、そんな貧弱な
「今代の勇者を侮らないで欲しいな」
フレンが笑みを浮かべた。
盾に衝突した黒い雷は何と反射する。
そのまま逆流するように術者であるエルハイドの身体に降り注ぐ。高温によってか、白い煙が鎧の隙間から漏れる。
『なるほど』
白煙が消えると、そこにはほぼ無傷のエルハイドの姿がある。
諸に雷撃を食らったはずだが、その硬すぎる防御を貫くには至らない。
『魔法の反射か』
エルハイドは冷静に、今起こった事象を淡々と述べる。
『なら物理で攻める』
直後、首なし騎士の巨体が掻き消えた。
気付いた時にはフレンの目前まで迫り、奈落剣を振る直前だった。
「……<叡智ノ剣>」
焦らずフレンは光り輝く盾と剣を両方使って何とかエルハイドの一刀を防いだが、
「くッ」
そのまま押し返されて吹き飛んでしまう。建物の屋根を削りながら民家の一つに突っ込む。
だが、エルハイドは剣を振り切った体勢で無防備。今度はアシルが背後から吸命剣パンドラを振るう。
まだノルの
いつものように限界まで寿命を捧げ、極限まで攻撃力を高めた一撃だったが、
『効かんな』
僅かに剣先が肩口の鎧に食い込み、そこで止まる。斬り裂くには至らない。
エルハイドは前を向いたまま奈落剣の柄を逆手に持ち換えて背後に突きを放つ。
躱しきれず、黒い聖剣はアシルの腹部を貫き、大量の血が零れ落ちた。
それを見て傍にいるヘレナとノルが悲鳴を上げるが、
「捕まえたッ」
アシルは口角を上げながら自らの腹に突き立つ刀身を左手でがっちりと掴んだ。
抜けなくなった剣にエルハイドの動きが一瞬止まる。その隙目掛けてアシルは漏れた己の血と赤い闘気を吸命剣パンドラに収束させ、今自身が放てる最高威力の技とした。
「――<
同時に戦線に復帰したフレンもエルハイドの正面に躍り出て、
「<
魔力で形作った青白い光の剣に黄金の炎を纏わせた斬撃を繰り出した。
紅と金の炎の斬撃がそれぞれエルハイドの鎧に直撃する。前後に挟まれたエルハイドの鎧が少しずつ溶けていくが、
『ふんッ!』
纏う黒き雷の密度を厚くして段々と斬撃を押し返していく。
「ぐッ!?」
更にエルハイドは左拳でフレンの顔面を殴り飛ばし、
「ッ!?」
回し蹴りで背後のアシルの首をへし折る。
二人仲良く吹き飛び、カルランの大広場中央に弾丸の速度で飛来し、敷き詰められた石畳を叩き割って土煙を上げる。
「「アシルッ!」」
再びノルとヘレナの悲鳴が辺りに響く。二人が駆け寄る中、エルハイドもまた屋根から降りてゆっくりと二人の元へ赴く。
『もう分かっただろう。私に勝つ事など無理なのだ』
むくりと起き上がったアシルとフレンは自らの武具を杖代わりにしながら、
「……見てくれないか。首、繋がってるかどうか」
「……ああ、繋がってはいるようだよ。折れてるけど」
「……人族だったら死んでた。吸血鬼で良かったよ」
白い煙を上げながら再生し、元通りになっていく腹部の傷と折れた首。
「……今のは全力の一撃だった。アレで効かないとなると、僕の方は手詰まりだ」
フレンは手の甲で口の端に滲む血を拭いながら、
「アシル、ヴラドを倒した時の力は使えないのかい? 聖剣の力を使えばあるいは……」
「いや、もう今日は無理だ」
サフィア姫の血を吸えば使えるが、彼女の血は先ほど吸ったばかり。また大量に吸ったりしたら彼女の命に関わる。
「やはり使うしかないな。切り札を」
「……策があるなら出し惜しみしてる場合じゃないよ」
ジト目を向けてくる勇者にアシルは済まないと謝りながら、
「ノル、君の力を使わせてもらう。フレン、吸血鬼と共闘してくれる貴方だから、きっとこの力さえも受け入れてくれると信じている」
「……どういう意味だい?」
アシルはカルランに向かう為にヘレナとノルの血を吸った。
ヘレナの血はカルランを守る時、早々に使ってしまった。
だがまだアシルの身体にはノルの血が残っているのだ。
「冒涜だと思うか、奇跡だと思うか。それはフレン次第だ」
「……だから何の話――」
「<
その瞬間、アシルの姿が瞬く間に変わる。
漏れ出した暗黒闘気が形作るは死神を連想するような衣服。
豪奢な漆黒のローブ姿。フードを目深に被っており、容姿が伺えないようになっている。
更に吸命剣パンドラはその形を変えて杖となった。
アシルは脈打つ血管を連想させる紅い管が幾本も伸びた黒い杖――吸命杖パンドラを掲げて唱えた。
「死した英雄よ。どうか最硬を貫く力を。<
その瞬間、空に大きな魔法陣が浮かび上がる。
「あれは……」
その黒き魔法陣から赤黒い光がフレンの元に降りてくる。
『フレン……聞こえるか?』
その光の玉は人型へと形を変えて、
「……まさか……グランツなのか?」
驚愕に目を見開き、立ち尽くすフレンをアシルは見守った。
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