第68話
身体から溢れ出た光の粒子を従え、立つその姿は否応にも王国の守護者――『勇者』の姿を想起させる。
服装も髪色も変わったその姿。
マントを払いながら、アシルは利き手に握った聖剣を静かに見下ろした。
見た目は儀礼用にしか見えない美しい長剣である。
鍔の中央に嵌め込まれた蒼の宝石がアシルが懐に入れていた真紅の宝石と共鳴するように光る。
その光は魔を滅する聖剣の刀身にも伝わっており、銀の刃もまた青白く輝いていた。
硬直しているヴラドを他所に、アシル自身の身体は魔王軍幹部だったアシュトンとは違って一切崩壊していない。
「な、なんだッ、何なのだッ、その姿は⁉︎」
「……せ、聖剣を……吸血鬼が?」
露骨に怯えるヴラドと呆然としているフレン。
そして、
「や、やったね、アシル……」
お腹を押さえ、ぺたりとその場に座り込んだサフィア姫が淡く微笑んだ。
その顔に浮かぶ色濃い疲労に介抱したくなるが、今は我慢する。
「――フレン、姫様を頼む」
「……は? ちょ、ちょっと待ってくれ、理解が追いつかないッ、なんで吸血鬼が聖剣を」
その疑問に答えている暇はない。
「……い、いくら強くなろうと、この身体はアリーチェのものだ! 聖剣を操ろうと、貴様が我を斬る事など絶対にできんだろう‼︎」
立ち上がったヴラドが必死の形相で斬りかかってくる。
その動きはまさに聖騎士団長アリーチェの剣筋そのものである。
しかし、今のアシルは聖剣によって身体能力に補正がかかった状態。
アシルは首を狙ってきた一刀を左手の人差し指と親指でつまんだ。
「な、馬鹿なッ⁉︎」
ぴくりとも動かなくなった剣を見て、ヴラドが目を剥く。
どれだけ力もうと、前にも後ろにも動かない。
歯噛みしたヴラドはたまらず距離を取ろうと背後へ飛んだ。だが、アシルが纏う光の粒子がひとりでに集まり、鎖のようにしなってヴラドの足首にまきつく。
「――何ッ!?」
更にアシルの身体から幾本もの光の鎖が次々と伸びてヴラドの両の手足を拘束した。
「……こんなもの……こんなもので……!」
宙に大の字の状態で固定されたヴラドの姿を眺めながら、アシルは自らの能力に思わず感心した。
(……光魔法を自在に使えるようになっているのか)
これは聖剣の力ではない。<
ヴラドをアリーチェごと殺す事は簡単だ。
だが、それは最後の手段。
もし聖剣がアリーチェの身体に取り憑いている貴種の吸血鬼のみを滅ぼせない場合の話。
(
アシルは手にある聖剣の能力の詳細を確認した。一縷の望みを託して。
・名前『聖剣フレイノヴァ』
・攻撃+S
・レア度『
・聖光神によって封じられ、代々のエルシュタインの巫女によって受け継がれてきた伝説の剣。使い手の身体能力を上げる。
・巫女と紡がれる愛の度合いによって、その真の力が解放される。
レベル1『
条件→巫女と相思相愛になる
レベル2『聖雷魔法』
条件→巫女とキスをする
レベル3『
条件→巫女と◯◯◯をする
レベル4『???』
条件→巫女との間に子供を作る
聖剣の隠された真の力。アシルは思わず目を見開いた。
確かにサフィア姫の言う通りあった。身体能力を上げるだけが能力ではなかった。
ただ、
(……これ聖剣と言うより性剣……)
こんな状況だが、能力解放の条件にツッコミを入れたくなる。
「――クソがぁッ!」
そんな折、黒い瘴気――暗黒闘気を纏ったヴラドが光の鎖による拘束を膂力で強引に解いた。
弾け飛ぶ光の粒子が視界に映りこむ。
(……悪いな、パンドラ。今回は鞘に収まったままで頼む)
腰に差している相棒が俺も抜けよと言わんばかりに震えるが、今は我慢して欲しい。
恐怖を吹き飛ばすようにヴラドが駆け出してくる。
対するアシルも床を蹴った。
十歩分の距離を一歩で飛び越え、ヴラドの目前に躍り出る。
「いいのか⁉ 聖剣を振るえばアリーチェも死ぬぞッ」
「心配するな、お前だけを殺す!」
身体から溢れ出る光と共に聖剣を力強く握って水平に構える。
「――お願い、アシル」
サフィア姫が両手を合わせて祈る。
使うのは巫女との気持ちが通じ合って初めて使える技。
「<
青白い星屑が煌めいた。
願いを込めた一刀。
ヴラドが繰り出した拳を躱して、聖剣一閃。
「……ふッ」
「……ッ!?」
二人の身体が交差する。
すれ違い、アシルはゆっくりと振り切った体勢から元の自然体に姿勢を戻した。
青白く輝く刀身に、血は一滴もついていない。
だが斬った感覚はあった。
背後をゆっくりと振り返る。
すると困惑した表情のヴラドと視線が合った。
「……な、何ともないぞッ、ハハ、やはり貴様、この身体を傷つけられ――ぐッ!?」
突然暗黒闘気が掻き消え、胸を押さえて苦しむヴラド。
その身体に依然として傷はない。
しかし、
「……あ、き……我が、消える……何故、何を……?」
床に這いつくばり、芋虫のように倒れ込んだヴラドをアシルは見下ろす。
「……聖剣の力だ。<
「……う、うそ、だ……我は……ふめ、つ……」
「屍霊四将ヴラド、もう終わりだ」
激しく咳き込み、ヴラドが――いや、アリーチェが口から赤黒い血を吐き出した。
その血がうねうねとひとりでに動き、アシルから距離を取ろうと廊下を進み始める。
その気持ち悪い光景に終止符を打つべく、アシルは再び聖剣を振り下ろした。
――――――――――――――――――――――――――
あとがき。
変身したアシルのステータスを今話で出すタイミングがなかったので一応載せておきます。
名前 アシル・エルシュタイン
種族:
Lv39(500/374270)
上位
Lv1(0/100000)
体力:S(聖剣装備時SS)
攻撃:S(聖剣装備事SS)
守備:A(聖剣装備時SS)
敏捷:S
魔力:A
魔攻:S
魔防:A
<
・
・
<
・
・
・眷属召喚
<
・闘気斬
・闘風刃
・闘鬼剣
・光魔法
進化解放条件:レベル70
最上位
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