第49話
迷いに迷ったが、何度考えても同じ答えに至った。
結論から言うとアシルはどちらかではなく、二人とも選んだ。
別に飲み比べをしたいとか、そういう私的な欲からではない。ないったらない。
単純に一人分の血液では足りないからだ。
太陽の光を一時的に無視するほどの量など、いくらノルやヘレナの血が極上でも一人で賄うには無理がある。
ただアシルが気まずそうに両方と告げた瞬間、物凄い雰囲気になったとだけ言っておく。
(……ま、まあ異常事態という事で……)
一人だと身体に大きな負担をかけてしまうので、という配慮の側面もある措置だ。
一応の理解を得られた事で、アシルとヘレナ、そしてノルの三人は一度街道から外れて視界に広がっている平原にある木の陰までやって来た。
血を吸われるところを他の者たちに見られたくないというヘレナの要望である。
ちなみにアシルは吸血行為のために顔の部分だけ覆っていた包帯を取り払っている。
「……は、早く済ませてしまいましょう」
最初はヘレナから。
プラチナブロンドの長髪を背中に流し、首筋を曝け出している。
右肘に左手を当て、そっぽを向いたままヘレナが告げた。
「それとノルさん、あ、あまり見ないでくださいまし」
「……次はノルだから参考にしたい」
心なしか瞬きが少なくなったノルがじーっとガン見してくる様に、ヘレナは羞恥で頬を熱くする。
アシルが近付くと、ヘレナは焦った様子で背を向けた。
「か、顔を見られながらは嫌なので……う、後ろからお願いしますわっ」
「……分かった。触れていいか?」
「……ええ、ど、どうぞ」
アシルは吸いやすいように、そっとヘレナのお腹に手を回して自らの方に抱き寄せる。
ヘレナはびくっと震えたが、段々と硬直していた身体から力が抜けていく。
「……怖くないか?」
アシルが眉根を寄せて心配げに尋ねる。いくら国の為とは言え、無理やりするつもりはアシルにはなかった。
特にヘレナはザガンに血を吸われてトラウマになっている可能性もある。
「……見くびらないで下さい。わたくしは誇り高きホワイトヴェール家当主の娘。受けた恩に報いるのは貴族は元より人として当然の行いですわ」
「……そうか」
「それに……地下牢から助け出した者たちの中にも貴方になら血を捧げてもいいという者がいますのよ?」
「……嘘だろう?」
ヘレナは首をゆっくりと左右に振る。
「貴方のこれまでの献身を皆、目にしているのです。勿論、わたくしも……」
俯きながらヘレナは背中をアシルの身体に預けた。彼女自身、耳まで真っ赤になっている。
露になった白くて艶かしいうなじを目にすると、吸血衝動が徐々に高まって抑えが効かなくなってきた。
ぼーっとした意識のままアシルは彼女の首筋に顔を近づけていく。
ほのかに滲んだ汗と彼女自身の甘い体臭が混ざり合い、思わず抱きしめる力が強くなる。
「んっ、ほ、本当に食欲だけなんですの? こ、こんな強く……抱きしめなくても……」
そう言いながらも、後ろからヘレナの表情を覗き込むと嬉しそうに頬が緩んでいた。
「行くぞ」
「あっ」
ゆっくりと犬歯が柔肌に食い込んでいく。
滲んできた血をアシルが優しく吸うと、ヘレナは声を我慢するようなくぐもった嬌声を上げた。
「……んっ、はぁ……優しい吸い方……」
一気に身体から力が抜けたヘレナを抱え、アシルは血を吸い続けた。
「あっ、き、気持ちいい……ふふっ、わたくしの血……美味しい、ですか?」
「ああ、最高だ……」
サフィア姫とはまた違った味わいだった。
ただヘレナはヘレナで遜色ないくらい美味しい。
アシルの身体に徐々に活力が戻ってくる。
同時に実感した。
(……姫様の血とヘレナの血が……身体の中で混ざりあっていくような感覚)
自らの身体の中で起きた大きな変化を。
新たな力の芽生えを。
名前 アシル
種族:
Lv22(3900/294270)
上位
Lv16(17500/203785)
体力:S→B
攻撃:S→B
守備:A→C
敏捷:S→B
魔力:A→B
魔攻:S→B
魔防:A→C
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・眷属召喚
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・闘気斬
・闘風刃
・闘鬼剣
進化解放条件:レベル70
最上位
<
効果の程、使い方が何となく本能で理解できた。
その力はアシルに絶大な力を約束する極めて有用な
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