第25話
魔王軍幹部、
吸血鬼にとっては生きた人類種の血液のみが食料だ。
餌でしかない彼らが、自分と自分の主を追い詰めた。
その事実にザガンは憎々しく思いつつも、その気持ちを王都陥落の際に捕まえた貴族の娘たちで発散していた。
魔力量が多く、若く美しい娘ほど血は極上になる。
だからこそ餌の中では一番であるホワイトヴェール家の生き残りの娘は何度も味わう価値があった。
吸血されるのは人族にとって快感らしく、必死に耐えながら反抗的に睨んでくる姿にもたまらなくそそられた。
足りない分は、それ以外の娘の血で賄うのだが、他ははっきり言って微妙だった。
とは言え、量を気にせず飲めるのは利点だ。
ホワイトヴェール家の娘以外は、一度で血液を吸い尽くし、干からびた死体に変えてきた。
「……さて、最初に量をとるか。味をとるか」
ザガンは必ず、餌に選んだ人間を王城に設けた自らの自室に連れてくる。
何故なら地下牢は汚いからだ。
淀んだ空気といい、あの場所で食べるなどあり得ない。
配下である二体の
(そういえば最近見ていないが……まあいいか。あんな下等な奴らのことなどどうでもいい)
ザガンが今回、餌に選んだのはお気に入りであるホワイトヴェール家の娘と、彼女と年頃が比較的近い娘の二人だった。
自室まで二人を連れてきたザガンがまず娘達に湯が入った桶を渡した。
中には布が浸してあり、それは身を清めさせるために用意したものだ。
彼女たちは毎回、ザガンに血を吸われるために自らを綺麗にする。
「やはり美味いほうは後に取っておくか」
ザガンは部屋の隅に寄って震える二人の少女の元に歩み寄る。
ホワイトヴェール家の娘の後ろに隠れていた貴族の娘の髪を掴んで、引きずり出す。
「あぐっ⁉」
「――や、やめなさい吸血鬼ッ。今日はわたくしだけで満足なさい! その子はまだ十二歳、子供ですわッ」
「……年齢など知った事か。何故俺が家畜に従わなければならんのだ」
「……か、家畜ですって?」
「吸血鬼にとっては人族が家畜なのだ。動物を家畜にして人族は暮らしているだろう? それと同じことだ。家畜は意見しない。食べられる相手を選ばない。そうだろう?」
「……ッ」
「そこでいつものように見ているがいい。自分以外に連れられてきた娘が干からびて死ぬ様を。そして、いざ吸血が始まると気持ちよくて反抗できなくなる自分の無様さを」
拳を震わせながら、物凄い形相で睨んでくるホワイトヴェール家の娘。
そして、ザガンに髪を掴まれたまま、さめざめと泣くもう一人の貴族の娘。
ザガンは無感情に見下ろしながら、貴族の娘の髪を掴み上げて首筋に顔を近づけていく。
その珠のような白い肌を見ると食欲がどんどん掻き立てられる。
口を大きく開けた。鋭い犬歯が、もう少しで柔肌に食い込む。その間際、
「――は?」
ザガンは自らの身体に衝撃が走った事を自覚する。
俯くと、ずぶりと心臓の位置から銀製の短剣が突き出ていた。
首をぎこちなく、背後に向ける。
部屋に置かれていたキングサイズベッドの下。
そこから這い出してきたのはゼノンを殺し、新しく魔王軍幹部となった
「……な、何の、ま、ねだ」
力が抜けていく。
せりあがってきた血の塊を吐き出したザガンがそのまま床に倒れ込んだ。
「俺の目的のためには魔王軍の幹部であるお前が邪魔だった。それだけだ」
「ノル、終わったぞ、起きろ」
「……ん? ふあぁ、成功した?」
「ああ」
「よかった。
「宝物庫から取ってきた銀の短剣が役に立ったな」
寝ぼけ眼を擦り、欠伸をしながら出てきた屍霊四将の姿にザガンは目を見開く。明らかに寝ていた事が分かる。
全く気付かなかった。
いつから潜んでいたのか。
「……なん、だ、いったい、どういう、事、だ……」
何故自分は殺されるのか。
何故、屍霊四将が加担しているのか。
分からない。何も分からない。
そんな思考を最後に、下位吸血鬼の瞳から光が消えた。
ザガンは死んだ。
例え不意打ちだろうと、
アシルの身体に、大量の存在力が流れ込んでいく。
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